フルート記事 【第3回】齋藤寛Presents 録ってもデュエッツ「ねこバス」
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【第3回】齋藤寛Presents 録ってもデュエッツ「ねこバス」

LESSON

自分の音に自分で音を重ねてアンサンブルすることで、自分の演奏をふり返り、上達をめざしていく企画です。“録って”“デュエット”するから“録ってもデュエッツ”。難しく考えず、スマホなどで簡単に録音してデュエットしてみましょう。 スタジオジブリの映画を彩る楽曲の中から、毎回1曲ずつを選曲していきます。自分と2重奏しながら、基礎的な練習方法や演奏のポイントなどを学んでいきます。

自分の音に自分で音を重ねてアンサンブルすることで、自分の演奏をふり返り、上達をめざしていく企画です。“録って”“デュエット”するから“録ってもデュエッツ”。難しく考えず、スマホなどで簡単に録音してデュエットしてみましょう。
スタジオジブリの映画を彩る楽曲の中から、毎回1曲ずつを選曲していきます。自分と2重奏しながら、基礎的な練習方法や演奏のポイントなどを学んでいきます。

ONLINEだけの"とってもコラム"も毎回更新します。動画と一緒にお楽しみください♪

 

第3回(167号連動)

第3回目の曲目は、となりのトトロより『ねこバス』です。「音楽のノリ」、「スタッカート」、「運指」に重点を置いて練習していきたいと思います。

Lesson

 

Pick up1「ベースラインのノリ」
印象的なベースラインさまざまな調で練習すると、応用範囲が広がります。
練習用楽譜はこちら (本誌掲載:譜例2の完全版です。動画ではここ!) 

Pick up2「いきいきとしたスタッカート」
ベースラインを使って”ノリ”の中で音階とスタッカートを練習しましょう。
練習用楽譜はこちら (本誌掲載:譜例4の完全版です。動画ではここ!)

 

フルート2重奏「となりのトトロ」


演奏:齋藤寛
「となりのトトロ」に登場する楽曲の演奏動画です。ねこバスは12:28から♪

 

とってもコラム 齋藤寛

「感動すると笑いが込み上げるらしい」

「本当に感動した時って、笑いがこみ上げるらしいよ」
今から25年も前のこと、当時美術教師をしていた叔母から聞いた言葉でした。

「岡本太郎の言葉だって」
「なにそれ?」
「この前なにかで聞いたんだけど、本当かしらと思って。あんたそんなことって今まであった?」
「いや。思い当たらないね。笑いがこみ上げるって?」
「そう。なんでも岡本太郎がはじめてピカソの絵をみた時、感動して笑いが止まらなかったんだって」
「へぇ。笑いね……」

信じるでもなく疑うでもなく、ただそれだけでは忘れてしまう何気ない会話だったのかもしれません。
感動するということには、人それぞれの感覚があると思います。胸が暖かくなったり、涙を流したり、幸せな気持ちになったり、勇気が湧いてきたり。心が満たされたとき、期待以上の感覚を味わったとき、それは「予定調和」から「感動」へと変わるのでしょう。

それは、私が15歳の時でした。仙台バッハアカデミーの招きでグラーフが来日しました。コンサートが行なわれるというので聴きに行くことにしました。それまでに何枚か他のフルーティストのCDも聴いていましたし、プロの演奏会にも出かけていました。すでに6年のフルート歴もあったので、フルートという楽器はどんなものか、どんな音が出て、どんなテクニックかわかっているつもりでした。その日の公演曲ももちろん知っているし、好きな曲だし楽しみだなと、そんな気持ちで演奏会を楽しもうと思っていました。

拍手の中、グラーフがステージに入場します。ネクタイはせずタートルネックのインナーにジャケットを羽織った凛とした立ち姿です。一礼をして、チューニングを……するはずですが、あれ?しないんですか?一般的な展開だと、くるりとピアノの方へ向き、ラー(ピアノ)、ラー(フルート)と数回の音合わせがあるはずですが……
グラーフはそのまま軽くうなずきピアノの前奏が始まります。
そして、フルートの演奏が始まりました……
出だしの音を聴いた瞬間、すべての常識は覆され、未知の感覚が電流の様に流れ込んで来ました。聴いたことのない響き、聴いたことのない音色、聴いたことのない「歌」。知っている曲なのにまるで別のものに感じてしまう圧倒的な演奏。頭の中が準備していた音楽を越えて別次元の魔法のような音楽。眼の前では一体なにが起きているのでしょう?理解が追いつきません。こんなにすごいモノに出会ったことがありません。

フルートって?
笑いがこみ上げてきましたよ。それはもう肩を震わせるほどに。でもコンサートを乱してはいけません。必死で唇を噛み締めてこらえました。そうでもしないと声を上げてしまいそうだったから。周りから見たら変なやつだったかもしれませんね。普通に考えて、真面目なコンサートで笑いをこらえているやつがどこにいますか。これは「混乱」です。喉が乾いているときに「麦茶」だと思って勢いよく飲んだら「めんつゆ」だった、みたいな話です。例えはなんですが、それくらいに予想を越えて驚いたということです。
終始笑いをこらえながら、夢のようなコンサートはいつの間にか終演となり、音楽は私の中に強烈な印象を刻みました。そしてこれが、笛吹を目指すきっかけとなりました。

岡本太郎がピカソの絵をみた時、きっとこんな感じだったと思います。そうか!こういうことなんですね。感動するって。合点がいきましたよ。
みなさんは、このような経験はお有りでしょうか?

 

Back Number
第1回:準備編(録音方法)&「ハトと少年」天空の城ラピュタより

第2回:「ナウシカ・レクイエム」風の谷のナウシカより

第3回:「ねこバス」となりのトトロより

第4回:「晴れた日に…」魔女の宅急便より

第5回:「アシタカせっ記」もののけ姫より

 


齋藤 寛 (さいとう・かん)

齋藤寛
齋藤寛

東京芸術大学卒業。フルート奏者、作編曲家。2011-2014年ザルツブルクモーツァルテウム音楽院マスタークラスにてP.L.グラーフ氏に師事。京都フランスアカデミーおよびパリにて室内楽をクリスチャン・イヴァルディ氏に師事。2013年「あまちゃんスペシャルビッグバンド」参加。フルート四重奏「宵待小町」主宰。主な著作「フルートデュオ名曲集25」、「ディズニーソング・デュエットコレクション」、「ジブリメロディー集」等。

SAITO KAN Youtubeチャンネル

 
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