【第4回】齋藤寛Presents 録ってもデュエッツ「晴れた日に…」
自分の音に自分で音を重ねてアンサンブルすることで、自分の演奏をふり返り、上達をめざしていく企画です。“録って”“デュエット”するから“録ってもデュエッツ”。難しく考えず、スマホなどで簡単に録音してデュエットしてみましょう。 スタジオジブリの映画を彩る楽曲の中から、毎回1曲ずつを選曲していきます。自分と2重奏しながら、基礎的な練習方法や演奏のポイントなどを学んでいきます。
自分の音に自分で音を重ねてアンサンブルすることで、自分の演奏をふり返り、上達をめざしていく企画です。“録って”“デュエット”するから“録ってもデュエッツ”。難しく考えず、スマホなどで簡単に録音してデュエットしてみましょう。
スタジオジブリの映画を彩る楽曲の中から、毎回1曲ずつを選曲していきます。自分と2重奏しながら、基礎的な練習方法や演奏のポイントなどを学んでいきます。
ONLINEだけの"とってもコラム"も毎回更新します。動画と一緒にお楽しみください♪
第4回目の曲目は、魔女の宅急便より『晴れた日に…』です。
劇中では開始早々に流れてくるこの音楽。キキが晴れた日の湖畔で寝転がり、爽やかな風に吹かれながら青空を眺めラジオを聞いています。天気予報で今夜は晴れの満月と知ると、思い立ったように魔女の修行に行くと決心し、急いで家に帰りお母さんにその思いを話します。13歳で魔女の修行に出るのはしきたりのようです。これから起こる素敵なドラマの幕開けにふさわしい一曲となっています。
Lesson
Pick up1「ワルツのように」
Pick up2「長いフレーズのブレス」「音の隙間のブレス」
Pick up 3「様々な楽器の役割を意識する」
Pick up 4「ダブルタンギング」
練習用楽譜(本誌掲載:譜例4の完全版です。動画では6:04!)
THE FLUTE168号誌面「録ってもデュエッツ」に掲載のアンサンブル譜で、P.57上の79小節目に表示されている矢印(↑)は誤記であり、不要な記号となります。
お詫びとともに訂正致します。
フルート2重奏「魔女の宅急便」
演奏:齋藤寛
「魔女の宅急便」に登場する楽曲の演奏動画です。「晴れた日に…」は1曲目♪
「自分的五輪」
子どもの頃、体操教室に通っていました。幼稚園から9歳頃まで、マット運動や跳び箱、鉄棒など楽しみながら運動していたのを覚えています。フルートを始めるキッカケで体操は辞めてしまいましたが、体を動かすのは好きでした。4年生のときは「一輪車クラブ」でサーカス団のような曲芸に憧れて練習しました。5年生で水泳記録会クロールの選手となり、6年生では県の陸上記録会100mの学校代表になりました。
時はソウルオリンピック。カール・ルイス、ベン・ジョンソン、ジョイナーなどの走りに酔いしれたものです。人類最速の男になりたい!それがこのときの夢でした。そして、この華やかな舞台で走ってみたい、そう思っていました。
しかし、現実は厳しいものです。0.1秒がなかなか縮まりません。自己ベストを出したところで、県のベストタイムよりも余程劣っています。大会では自己ベストと健闘しましたが他校の猛者の中では入賞を逃し挫折感と、これから陸上を本格的にやりたいと決心を抱いたのでした。
同時にのらりくらりと続けていたフルート。運動の利点もあってここに来て躓くことなく順調に伸びていたようです。上達なんて実感はありませんが、少しずつ楽しくなっているのは確かでした。そのために、陸上部に入ろうと意気込んでいた中学では「科学文化部」へ入部。学校の畑を耕して植物を育て、藻やミジンコを観察します。居残りでの活動がないこの部は、帰ってからフルートを練習するルーティンに最適でした。
バルセロナ・オリンピックでは同世代の岩崎恭子選手が金メダルを取り、次元の違いすぎる活躍に、もはやオリンピックは遠い世界の出来事でした。
高校では帰宅部。運動とも陸上とも無縁の生活。まして勉強やら受験やらでオリンピックなどは目にも入らなくなっていました。
2020年は東京オリンピックです。それに先駆けて今年からNHKで放送開始されている「いだてん」。音楽制作は大友良英さん。2013年の「あまちゃん」からのご縁もあって、今回も演奏に参加させていただいています。そんなわけで久々にオリンピックを意識しています。
録音日にスタジオに到着すると、席の譜面台の上には束になった譜面が置かれています。今日中に録らなければならない曲です。何曲あるのでしょうか? 気が遠くなりそうなので数えるのはやめにします。メロディとコード、ところどころ指示のメモがあるシンプルな譜面。いつもと変わらない手書きの譜面に、なんだか安心します。
録音開始時刻になりました。ヘッドホンをセットして準備します。
「では、チューニングしてから録っていきたいと思います」
ヘッドホンからブースの指示があり、バンド全体でチューニングを済ませます。
「◯◯番からお願いします」
譜面を探す間に、
「この曲は、~の~というシーンで流れる予定の音楽で……◇の部分はなんとなく白たま系で、旋律を吹いたり、適当にオカズを入れてもらったり……◯の部分は全員でガーンとなると良いかな……なんとなく……いい感じでお願いします!」
と、ギターを爪弾き鼻歌を歌いながら大友さんの曲解説があります。
「はーい、では試しに録ってみますね。……カチッ……回りました」
ヘッドホンからクリックが聴こえたのち、演奏が始まります。
全員が同じ譜面を見て、各々がそれぞれの役割を果たす。大友マジックの始まりです。まずは一回目の試し録りなので、気楽に試すことができます。なるほど、こんな曲ね。いい感じ。演奏しながら良いところを探ってみます。そうこうしているうちにTAKE1が終了しました。さて、曲がわかったところで…譜面を見直していると…
「OKです。このテイクいただきます!」
えっ!そうでした、この録音ではよくあることです。大友マジックの真髄です。
一発録り。
「今日は曲数多いのでどんどん行きましょう!」
バンドは大友さんに乗せられて無事にその日の録音ノルマを達成したのでした。
全力で走っている気分です。もっと早くなりたいと思っていたあの頃と、もっと上手くなりたいと思っている今。競技会場ではありませんが、自分は疾走していると感じられます。
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第1回:準備編(録音方法)&「ハトと少年」天空の城ラピュタより
齋藤 寛 (さいとう・かん)
東京芸術大学卒業。フルート奏者、作編曲家。2011-2014年ザルツブルクモーツァルテウム音楽院マスタークラスにてP.L.グラーフ氏に師事。京都フランスアカデミーおよびパリにて室内楽をクリスチャン・イヴァルディ氏に師事。2013年「あまちゃんスペシャルビッグバンド」参加。フルート四重奏「宵待小町」主宰。主な著作「フルートデュオ名曲集25」、「ディズニーソング・デュエットコレクション」、「ジブリメロディー集」等。
齋藤寛