【第6回】齋藤寛Presents 録ってもデュエッツ「いのちの名前」
自分の音に自分で音を重ねてアンサンブル。“録って”“デュエット”するから“録ってもデュエッツ”。難しく考えず、スマホなどで簡単に録音してデュエットしてみましょう。 スタジオジブリの映画を彩る楽曲の中から、毎回1曲ずつを選曲していきます。第6回目の曲目は『いのちの名前』。「千と千尋の神隠し」のエンディングの別れのシーンで流れる音楽です。
自分の音に自分で音を重ねてアンサンブルすることで、自分の演奏をふり返り、上達をめざしていく企画です。“録って”“デュエット”するから“録ってもデュエッツ”。難しく考えず、スマホなどで簡単に録音してデュエットしてみましょう。
スタジオジブリの映画を彩る楽曲の中から、毎回1曲ずつを選曲していきます。自分と2重奏しながら、基礎的な練習方法や演奏のポイントなどを学んでいきます。
ONLINEだけの"とってもコラム"も毎回更新します。動画と一緒にお楽しみください♪
第6回目の曲目は、千と千尋の神隠しより『いのちの名前』です。
千尋が名前を取り戻し、ハクとの別れのシーンで流れる音楽です。「決して振り返ってはいけないよ。トンネルを出るまではね。」というセリフが印象的です。救われたような切ないような、置きどころのない気持ちになります。
サウンドトラックには『帰る日』という曲名で収録されています。歌入りのほうは『いつも何度でも』の木村弓さん、平原綾香さんのカバーでもおなじみですね。
Lesson
Pick up1「曲想に合った音色のつくり方」
Pick up2「同じ音が続くときの表情」
Pick up 3「歌フレーズとブレスの位置」
Pick up 4「移りゆく和音を意識する」
フルート2重奏「千と千尋の神隠し」
「こだわりをもて」
牛丼には溶き卵をかけて、少し多めの紅生姜、最後に七味を散らせて一気にかき込むのが好きです。
食欲が旺盛な中学高校の時代はレッスンの前に、または後の空腹に耐えかねて牛丼店に立ち 寄ったものです。定番は牛丼大盛り。
早くて、安くて、うまいの。
「そんなに牛丼ばかり食べていると、音楽も牛丼になるよ」
ある時、師匠に言われたことです。
当時としては、まったくもって意味不明なお言葉でしたが、今となってはわかるものです。 すなわち「生活の全ては音楽に通じるよ」ということです。
音楽とは、衣食住の上に成り立っているもので、そのうちのどれかひとつでも疎かにする と、立つことさえできなくなってしまいます。
それでは、何を食べればいい音楽ができるのか?牛丼の何がいけないのか?
ということですが、結論から言えば別に悪くはありません。
それ自体は悪くはないが、ただ「牛丼」と決定するところの「思考停止」が問題であるということ。
師匠には、私の姿が、「腹を満たすだけの食事」と映ったのでしょう。
「無頓着」が「豊かさ」を侵す元凶になり得るという戒めだったのです。
若い頃はそれでもよかったのかもしれませんが、今はこのように「食」に関しても「豊かさ」を意識することが大切であると考えるようになりました。
高級なものを、という意味ではありません。
「無頓着」を言いかえれば「こだわり」がないということ。
「こだわり」がないところには「豊かさ」もない、ということです。
執念深くこだわることは、どの分野においても波及するものです。
上記に紹介した牛丼の食べ方は私の「こだわり」です。この他にもたくさんの「こだわり」の中 で「私」という「自己」が確立しているように、音楽への「こだわり」こそが、唯一「私」を音楽家たらしめているものです。
人にはそれぞれの「こだわり」があると思います。たとえ誰にも理解されないようなものでも、自信をもって徹底的にこだわること。
それが唯一無二の個性をより豊かにする感性となるでしょう。
牛丼の話から、思えばずいぶん遠くへ来たものだ。
Back Number
第1回:準備編(録音方法)&「ハトと少年」天空の城ラピュタより
齋藤 寛 (さいとう・かん)
東京芸術大学卒業。フルート奏者、作編曲家。2011-2014年ザルツブルクモーツァルテウム音楽院マスタークラスにてP.L.グラーフ氏に師事。京都フランスアカデミーおよびパリにて室内楽をクリスチャン・イヴァルディ氏に師事。2013年「あまちゃんスペシャルビッグバンド」参加。フルート四重奏「宵待小町」主宰。主な著作「フルートデュオ名曲集25」、「ディズニーソング・デュエットコレクション」、「ジブリメロディー集」等。
斎藤寛