フルート記事 【第2回】新・国産フルート物語 ニッカンからヤマハへ ─元設計者の苦悩と挑戦
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THE FLUTE vol.167

【第2回】新・国産フルート物語 ニッカンからヤマハへ ─元設計者の苦悩と挑戦

HISTORY

世界中にその品質が認められるようになった現在の日本産フルート。日本のフルートとそれを創り支えてきた人々の記録を残しておきたい。さまざまな国内メーカーが創業50年の節目を迎えるこの時期に、“日本で唯一のフルート専門誌”であるTHE FLUTEの使命の一つと考え、新たなフルート物語を紡いでいく。vol.166より本誌連載がスタート。vol.169からはTHE FLUTE Club会員限定でオンラインでもご紹介します。

本誌THE FLUTE vol.166より連載がはじまった「新・国産フルート物語」。THE FLUTE CLUB会員限定でオンラインでもご紹介します。

書籍「国産フルート物語」
アルソ出版社内にたった1冊だけ残る、貴重な1冊

1998年に、アルソ出版より刊行された書籍『国産フルート物語』。日本のフルートメーカーを丹念に取材し、トップメーカーから個人経営の工房まで、その黎明期から現代に至るまでの歴史と道のりをつぶさに書き連ねた貴重な記録だ。しかし現在はすでに絶版となっており、社内にある在庫もたった1冊のみ。大変貴重な資料となっているが、20年の時を経ているだけに、このままでは風化し埋もれた存在になってしまうという危機感もある。世界中にその品質が認められるようになった現在の日本産フルート——ここまでそれらを先導してきた技術者たちと、メーカーや工房のあけぼのを知る人々も高齢化し、またすでに亡くなった人もいる。
そんな状況を迎えている今、あらためて日本のフルートとそれを創り支えてきた人々の足跡を記すべく、「新・国産フルート物語」としてあらためて記録を残しておきたい。さまざまな国内メーカーが創業50年の節目を迎えるこの時期に、“日本で唯一のフルート専門誌”であるTHE FLUTEの使命の一つと考え、新たなフルート物語を紡いでいく。

現在の国内メーカーやフルート工房の系譜をたどると必ずたどり着く2つのメーカーブランドとして、ニッカンフルートとムラマツフルートが挙げられることを、前回紹介した。今回は、国産フルートが量産体制に入った当時のことを、元ヤマハ技術者の話から振り返ってみたい。
ヤマハフルートの開発を担当した山口光雄氏は、ヤマハの前身であるニッカン時代から製作に携わってきた。当時のことを詳しく知る人々が少なくなる中、開発の貴重な“生き証人”である。

第2回:ニッカンからヤマハへ ——元設計者の苦悩と挑戦

─ヤマハフルートの開発担当者 山口光雄氏の手記より─

“さっぱり売れない”弱点の克服に向けて 

当時の音楽雑誌に掲載されていたニッカンの広告当時の音楽雑誌に掲載されていたニッカンの広告

ニッカンというブランドで、明治時代より管楽器を作ってきた日本の管楽器の老舗「日本管楽器製造株式会社」(以下「ニッカン」)が、当時の「日本楽器製造株式会社」(現在のヤマハ/以下「ヤマハ」)の一部となったのは公式には1970年です。
ニッカンブランドが消え、ヤマハの名前に統一される少し前から、昭和39年頃、既にニッカンは経営的にはヤマハのグループに入っていました。
一体となってすぐに、問題がヤマハ銀座店から持ち上げられました。お店では、ムラマツのフルートはお客が待っている状態で右から左に売れていくのに、ニッカンのフルートはさっぱり売れず、在庫が倉庫にたまっているというのです。従来であれば、売れるブランドや売れないブランドがあってもやむを得ないことなのですが、同じ経営グループに入ったニッカンブランドが売れないのを放置しておくわけにいきません。それで、営業部門と生産部門の間でその対策会議が持たれました。
「すぐに音が出なくなる」というお客の評判に対して、ニッカンの技術部長さんは「それはタンポ(パッド)に問題があるからで、早急に改善します」と答えられました。オブザーバーとして同席したヤマハの技術部長からは、ピアノの気候変動のテストに使っている耐候試験室というものを使ったらどうかということと、実験計画法(統計的手法を使った分析評価技法)という評価手法の導入が提案されました。
ヤマハ側の協力者としては、当時研究部門にあって耐候実験室をよく利用していた私が命じられました。とはいっても、当初は試験装置の予約を入れておくこと、新幹線のなかった当時、埼玉から出張してくる技術者のための宿を手配してあげる程度のことでしたが。

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