【第7回】新・国産フルート物語 ハンドメイド一筋で技術の頂点へ
日本のフルートメーカーを丹念に取材し、トップメーカーから個人経営の工房まで、その黎明期から現代に至るまでの歴史と道のりをつぶさに書き連ねた貴重な書籍『国産フルート物語』。新たに取材を加え連載にする。
本誌THE FLUTE vol.166より新たに連載がはじまりました「新国産フルート物語」。THE FLUTE CLUB会員限定でオンラインでもご紹介します。
アルソ出版社内にたった1冊だけ残る、貴重な1冊
1998年に、アルソ出版より刊行された書籍『国産フルート物語』。 日本のフルートメーカーを丹念に取材し、トップメーカーから個人経営の工房まで、その黎明期から現代に至るまでの歴史と道のりをつぶさに書き連ねた貴重な記録だ。
当時から約20年が経ち、令和の時代を迎えた今、それらのメーカーや工房も代替わりなどが進み、様変わりしてきている現状がある。そんな現在の姿をあらためて伝えるべく、新たに取材を加えながらここに綴ってきた。
今回からは2回にわたり、桜井フルート制作所について『国産フルート物語』刊行当時の姿と、現在までの変遷についての“物語”をお送りする。初代・桜井幸一郎氏が立ち上げた工房を、現在は2代目・桜井秀峰氏が後継している。前編は、『国産フルート物語』刊行当時に行なった幸一郎氏へのインタビューを振り返ってみたい。
第7回:ハンドメイド一筋で技術の頂点へ
高度経済成長の前夜、「世界一のフルートを作る!」と心に決め、大メーカーからその腕を望まれながらも、自分の小さな工房でチャレンジを続けてきた桜井幸一郎氏(註:2014年に逝去)。あのランパルからも高い評価を受けている。桜井フルート制作所の歴史は、まさにクラフトマンの情熱の歴史であった。
時代がクラフトマンを誕生させた
「楽器作りは絵かきの延長。だから社名は“製”作所ではなく、衣をまとわない“制”作所を使った」と語る桜井幸一郎氏(刊行当時)
年間、数万本もの楽器を輸出している日本。しかし外国 から見たとき、日本のフルートは自動車やコンピューター部品と同じ《工業製品》なのだろうか? いや、そうではない。
日本のフルートメーカーには、フルートをハンドメイドで作り上げる技術を持った職人がいる。
たとえ量産品を作るときでも、その基になっているのは、熟達した職人が一つひとつ作り上げるハンドメイドモデルだ。世界に通用する楽器を開発することができたのは、彼らクラフトマンたちの腕に負うところも大きい。
今回その中で、一貫してハンドメイドフルートを世に問うてきた桜井フルート制作所にスポットを当て、その歴史を追ってみよう。