【第10回】新・国産フルート物語 他社とは違う独自のフルートを目指して
本誌THE FLUTE vol.166より新たに連載がはじまりました「新・国産フルート物語」。THE FLUTE CLUB会員限定でオンラインでもご紹介します。
アルソ出版社内にたった1冊だけ残る、貴重な1冊
1998年に、アルソ出版より刊行された書籍『国産フルート物語』。 日本のフルートメーカーを丹念に取材し、トップメーカーから個人経営の工房まで、その黎明期から現代に至るまでの歴史と道のりをつぶさに書き連ねた貴重な記録だ。
当時から約20年が経ち、令和の時代を迎えた今、それらのメーカーや工房も代替わりなどが進み、様変わりしてきている現状がある。そんな現在の姿をあらためて伝えるべく、新たに取材を加えながらここに綴ってきた。
今回は、「パールフルート」で知られるパール楽器製造株式会社について『国産フルート物語』刊行当時の姿と、現在までの変遷についての “物語” をお送りする。前編となる今回は、『国産フルート物語』刊行当時に行なった取材をもとにした記事をふりかえってみたい。
第10回:他社とは違う独自のフルートを目指して ─ パールフルート
打楽器メーカーとして、世界最大のシェアを持つパール楽器。28年と長い歴史を持つにもかかわらず、パールフルートの知名度は低かった。しかしいまや、その品質の高さが知れ渡り、製造本数では日本のメーカーの中で二位を占めるまでになる。パールフルートの成長、それは30年前、ある職人の決断から始まった……。(註:年数表記は、1998年当時のもの)
パールフルートの誕生
パール楽器は戦後まもなく柳沢勝己氏が会社を設立した。さまざまな楽器分野に手を広げ、同時に海外進出にも積極的に取り組んだ。幸いにも社内に管楽器に明るく、しかも金属などの専門知識をつ技術者がいたため、いよいよフルート部門を設けることとなった。そして技術革新を強化するため社外にも人材を求め、下山龍見氏を中心とする優れた開発スタッフがそろい、パールフルートの製作がスタートしたのである。
山本副社長(左下)、製造部製造三課課長の下山氏(右下)、 広瀬氏(左上)、パールフルートギャラリー室長の冨澤氏(取材当時)
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