【第14回】新・国産フルート物語 音色・工程のすべてにこだわる職人の誇り —ナツキフルート
日本のフルートメーカーを丹念に取材し、トップメーカーから個人経営の工房まで、その黎明期から現代に至るまでの歴史と道のりをつぶさに書き連ねた貴重な書籍『国産フルート物語』。令和を迎えた今、現在の姿を改めて伝えるべく、新たに取材を加えて綴る連載。
本誌THE FLUTE vol.166より新たに連載がはじまった「新・国産フルート物語」。THE FLUTE CLUB会員限定でオンラインでもご紹介します。
アルソ出版社内にたった1冊だけ残る、貴重な1冊
1998年に、アルソ出版より刊行した書籍『国産フルート物語』。
日本のフルートメーカーを丹念に取材し、トップメーカーから個人経営の工房まで、その黎明期から現代に至るまでの歴史と道のりをつぶさに書き連ねた貴重な記録だ。
当時から20年以上が経ち、令和の時代を迎えた今、それらのメーカーや工房なども代替わりなどが進み、様変わりしてきている現状がある。そんな現在の姿をあらためて伝えるべく、新たに取材を加えながら「新・国産フルート物語」としてここに綴ってきた。
今回は、1971年に工房を設立、今年は実に50年目の節目を迎えるナツキフルートについて、その歴史と現在の姿をお伝えしたい。
前編となる今回は、『国産フルート物語』刊行当時の記事をふりかえる。
「国産フルート物語」(アルソ出版 1998年刊)より再編、写真は当時のもの
第14回:音色・工程のすべてにこだわる職人の誇り —ナツキフルート
フルートの音色にこだわり、工程のすべてを自分なりに追求しなければ気が済まない。そんな職人の誇りが作り出した楽器は、静かに輝き、独特の表情を持っている。
ナツキフルートの工房は、東京・新小岩のマンションの一階にある(その後千葉県八街市勢田に新工場を移している)。ここで働いているのは、社長の夏木文吉氏を含め、二人だけ。二人ですべての工程をこなしているのだ。
「うちの場合、二、三人くらいが一番楽しく仕事ができる。フルートをたくさん作ろうとすれば、販売・営業の人材が必要になる。楽器を作るだけでなく人を使ったり、仕事を取ってくるような才能がね。そういう『営業』の力量は持ち合わせてないから」と笑う夏木氏。自分の納得する楽器を、自分なりのペースでしっかりと作り続け、海外で高い評価を得ている。
美しい楽器の主張とは
フルートに関する夏木氏の持論は、《美しい楽器は、音に対する個性を持っている》ということ。細部まで手を掛け、心を込めて作られた楽器は美しい。そして、楽器に込められた思いは必ず音となって現れる。
「せっかくフルートを始めたんだから、うまくならなきゃもったいないよね。レベルが上がっていけば、楽器も買い替えたくなるものなんだ」。演奏者が楽器を買い替える時は、自分なりの音に対するこだわりがあるはずだ。逆に楽器にこだわらない人は音に主張もない、と夏木氏は語る。
現在ナツキフルートでは、頭部管のテーパー(絞り)と歌口のアンダーカットを変えた四種類の頭部管をそろえている。奏者からは、初めての個性派頭部管の登場と評価が高い。また、リングキィのタンポをネジ止めとするなど、フルートの構造、そして素材に至るまで、さまざまな検討がされている。すべては良い音を作り上げるために、夏木氏が工夫を重ねていることなのだ。
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