【第21回】大企業から厳しい独立の道を選んだ三人の名工 —FMCフルートマスターズ
本誌THE FLUTE vol.166より連載がはじまった「新・国産フルート物語」。THE FLUTE CLUB会員限定でオンラインでもご紹介します。
アルソ出版社内にたった1冊だけ残る、貴重な1冊
1998年に、アルソ出版より刊行した書籍『国産フルート物語』。
日本のフルートメーカーを丹念に取材し、トップメーカーから個人経営の工房まで、その黎明期から現代に至るまでの歴史と道のりをつぶさに書き連ねた貴重な記録だ。
当時から20年以上が経ち、令和の時代を迎えた今、それらのメーカーや工房なども代替わりなどが進み、様変わりしてきている現状がある。そんな現在の姿をあらためて伝えるべく、新たに取材を加えながら「新・国産フルート物語」としてここに綴ってきた。
今回はヤマハという大企業から独立し、静岡の地で独自のフルートを作るFMCフルートマスターズをお伝えしよう。修理からスタートし、今や日本を代表するフルートメーカーの一つとなった。今回は前編として「国産フルート物語」刊行当時の記事を振り返る。
「国産フルート物語」(アルソ出版 1998年刊)より再編、写真は当時のもの
第21回:大企業から厳しい独立の道を選んだ三人の名工 —FMCフルートマスターズ
「Masters」という社名は、一本のフルートを最初から最後まで丹精込めて作り上げられる腕をもった、3人の技術者の集まりであることからつけられた。どうしても自分たちで楽器を作りたいという強い信念にかられ、ヤマハのハンドメイドフルート部門を退職し、野亦邦明氏、野島洋一氏、豊田桂一氏の3氏が活動を開始したのである。当初から、全国のフルート演奏家はもちろん、指導者などの楽器のメンテナンス、修理や改造に至るまで、高い要求に応えながら多くのニーズに対応してきた。こうして、ヤマハでの20年の経験に加え、様々なノウハウを培いながら、平成7年(1995年)8月、神戸のフルートコンヴェンションにて、ついに念願のオリジナルフルートを発表するに至る。 そしてこのほどフルートマスターズは、プラチナ製のフルートをなんと300万円の価格で発表した。管体には高純度のプラチナPt960を使い、チタンコーティングシャフトやノックピンレスシステムなど、練り上げられたスペック(仕様)や、メンテナンスのノウハウを生かした、技術のすべてが含まれている。
あえてヤマハという大企業から一緒に飛び出し、厳しくも独立の道選んだマスターズの3人。日本各地のユーザーの声を真正面から受け、修理を通じて、様々な時代の楽器を研究し学んだ3人の手からは、まったく新しく独創的なスペックやオプションを持つ“マスターズフルート”が誕生した。
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