第1回 | 「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジー」
なぜこんなにもフィギュアスケートに魅せられるのか。メンバー全員がフィギュアスケートファンだという、2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne】の皆さんにスケートのプログラムに使用されている楽曲の解説や、スケーターやプログラムに対する思い出、演奏のポイントなどを交えながら、名曲を演奏家の目線で紹介していただきます。
皆さま、はじめまして! 2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne(ココロネ)】です。 2007年の結成以来、アレンジとオリジナル曲を中心に演奏活動してきました。世に知られることもあまりなく、ひっそりと迎える13年目。この度、これまでコツコツと増やしてきたレパートリーの中からフィギュアスケートの使用曲にスポットを当てた連載を書かせていただくことになりました。
なぜフィギュアスケートに魅せられるの!?
なぜ、私たちはこんなにもフィギュアスケートに魅せられるのでしょう。フィギュア…それは3〜4分という短い時間に込められた選手それぞれのドラマ。その表現力の背景にある高いスケーティング技術、スケーターそれぞれの個性溢れる振り付け。それらが音楽と融合し、楽曲の魅力が最大限に引き出された時、私たちの心は動かされるのだと思います。同じように練習を積んで試験やコンクール、コンサートを迎えてきたという点でも共感し、熱くなれるのかもしれません。そんな私たちなりの楽曲の解説、スケーターやプログラムに対する思い出、演奏のポイントなどを交えながら、名曲を演奏家の目線でご紹介していく予定です。
まずは、私たちの簡単な自己紹介をさせていただきます。
kokoro-Neメンバー×フィギュアスケート
門井のぞみ
【好きなスケーター】高橋大輔、鈴木明子
【印象に残った演技】2014年 グランプリファイナルFS エリザヴェータ・トゥクタミシェワ 「バットワニス・ビーク/サンドストーム」
正直、それまではトゥクタミシェワさんのことよく知らなかったんですが、あのエキゾチックな雰囲気とプログラムがドンピシャで引き込まれました。そしてなんと言っても動きのしなやかさと、ジャンプのキレ味。後半のステップでの音楽との混ざり方が忘れられません。この時のSP「ボレロ」も素晴らしかった!
大和田真由
【好きなスケーター】ジェイソン・ブラウン、パパダキス&シゼロン
【印象に残った演技】うーん、いっぱいあり過ぎて。
2005年全日本選手権 村主章枝FS「ピアノ協奏曲第2番」ラフマニノフ。トリノ出場がかかった気迫、本人が音楽を奏でているような表現力と超高速スピンは今でも忘れられません。2017年世界選手権 カッペリーニ&ラノッテFD「チャップリンメドレー」チャーリー・チャップリン。コミカルな演技をしながらも、きちんと要素をこなしていて、素敵な絵本を1冊読んだような気持ちになりました。
田仲なつき
【好きなスケーター】浅田真央、高橋大輔
【印象に残った演技】2014年ソチオリンピック 浅田真央 FS「ピアノ協奏曲第2番」ラフマニノフ
やっぱりこれは外せない!伝説の名演技だと思います。音が鳴り出す前の、観客まで息をのむ静けさと緊張感、覚悟を決めた真央ちゃんの凛とした佇まいだけで号泣していました。あんなに手に汗握って見た演技はないです。一生忘れません!
さぁ、それでは参りましょう。第1回は、映画『ラヴェンダーの咲く庭で』より「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジー」です。どうぞお楽しみください。
今回の曲は…
映画『ラヴェンダーの咲く庭で』より
「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジー」
映画の舞台はイギリス。小さな海辺の町に住む初老の姉妹が海岸に打ち上げられた青年を見つけ看病する。穏やかな日々を送る3人だが、青年には類稀なるバイオリンの才能があり、旅立ち・別れがやってくる。この曲はラストシーンの青年のデビューコンサートで演奏されている。
なつき(以下:な ):「フルートとピアノのトリオなのに初っ端から“ヴァイオリン”てのもね(笑)」
まゆ(以下:ま ):「kokoro-Neそういうの関係ないからね。むしろ元ネタがフルートの曲、ほとんどやってないね(笑)」
のぞみ(以下:の ):「フィギュアの曲、3分半とか4分(前は4分半)の飽きない長さに起承転結があって便利なんだよね」
な:「この曲も私が『やりたい』て言った時、もうまゆちゃんは楽譜書き始めてたんだよね」
の:「そして1stに対して容赦ないよね、自分で吹くつもりないから(笑)」(←編曲者のまゆは主に2nd担当)
この曲の代表的なプログラム
それぞれの思い入れ
浅田 真央 (2007-08 SP)
真央ちゃんと言えばジャンプ!と思われがちですが、ポジションの美しさ、演技後半のステップの深さやエッジ捌きがたまらないですね。
この曲はざっくりとイントロ→1コーラス目→落ち着き部→盛り上げ部→2コーラス目(1回目より4度上に転調し、メロディもヴァリエーションで盛られている)→エンディングという構成ですが、真央ちゃんはテーマの2コーラス目を2回使う編集をしています。1回目はスパイラルシークエンスでこれでもか!という美ポジを見せつけ、2回目は華麗なステップ。音を消して見ても、ちゃんとこの曲が聞こえてきそうです。それまでの可愛い路線から一気に大人の演技になって、とにかく美しかったのが印象的でした。
スケートじゃなくたってこの姿勢、普通の人はできないだろう。
町田樹 (2014 SP)
原曲を生かした音源とストーリーに沿った振り付けという点では、曲の編集はこっちの方が好き。笑
冒頭〜1コーラス目のゆったりした音楽に4-3回転や3アクセルなど大技が違和感なく溶け込んで見える表現と技術、2コーラス目のメロディの細かいバリエーションを全部拾うような見事なステップ。曲のエンディング、演技終了15秒前くらい、という取り返しのつかないタイミングに、しかも失敗の許されないSPで最後のジャンプを持ってくる強気なジャンプ構成も萌え。
この曲にまつわるkokoro-Ne的アクシデント
の:「これ、ピアノの間奏でアルトからの持ち替え忘れて待機してること多いよね」
ま:「よく直前に慌てて持ち替えてるね」
な:「出だしピアノからなのに、真由ちゃんが勝手に吹き始めたことあるよね」
演奏のポイント
● 1st FLUTE
一番気をつけたいのは音程ですね。前半はフレーズ中の「H」や「A」が低くなりやすく、逆に中盤以降は高音が高くなりがちです。特に「Fis」と「E」は要注意。替え指を使うなど工夫してみてください。盛り上がってくる「E」の部分は、拍通りかっちりにならず横の流れを大切にすると良いと思います 。
必死になりがちな装飾音も、むしろサラッと急がないように、かつ丁寧に演奏することを心がけています。小節の中で多少の伸び縮みはあっても、全体のテンポは安定していたほうがいいですね。ドラマティックな曲なのでついつい思いっ切り吹きたくなりますが、終始それをすると変化がつかなくなってしまいます。ビブラートの速度や深さ、音圧のニュアンスは一番盛り上がる所から逆算して冒頭は冷静に、歌い過ぎに気を付けています。……ま、でも「音楽は生き物ですから」が私たちの合い言葉。最後はなるようになります。笑(のぞみ)
● 2nd FLUTE
(↑1stの人がこんな感じなので)2ndはどんな速さでもピタっと寄り添って合わせられるように練習しておきましょう!笑(まゆ)
● Piano
ピアノはオーケストラパートを忠実に採譜してあるので、音色を大事にすると雰囲気が出ると思います。3人ぴったり合うところがこの曲の決めてとなる箇所も多いので、ピアニスト的にはドキドキですが、思い切っていきましょう!(なつき)
楽譜について
私たちが立ち上げた「kokoro-Ne Library」から2パターン出版していて、フルート1本でも2本でも演奏できます。kokoro-Neの2nd Album『Microcosmos』では、冒頭をアルトフルートで演奏しています。1本バージョンも裏メロディーをピアノに入れるなど、きちんとリアレンジしているので、どちらも聴き映えする仕上がりです。
kokoro-Neの楽譜・CDは「kokoroneshop」でお求めいただけます。
https://kokoroneshop.thebase.in
次回更新
さて【フルートで彩るフィギュアスケートの世界】第1回、お楽しみいただけましたでしょうか?
次回の8月号は「愛の讃歌」についてご紹介する予定です。それではまたお会いしましょう!
偶数月・15日更新
Profile
kokoro-Ne (ココロネ)
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。 クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢 えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。 TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエン スはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
主な作品
・2009年 1st Album 「 kokoroーNe/ココロネ 」
・2013年 「 コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編 」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「 Microcosmos 」同収録のオリジナル曲「 ミクロコスモス 」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「 kokoro-Ne Library 」を立ち上げ、これまでに10作品を超える楽譜を発表。続々と新作発 表を控えている。
kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
門井のぞみ
Nozomi Kadoi
武蔵野音楽大学音楽学部器楽学科卒業。桐朋学園大学音楽学部研究科修了。第14回日本フルートコンベンションコンクール アンサンブル部門第2位。第18回日本クラシック音楽コンクール全国大会木管楽器部門入賞。ウィーンをはじめ国内外のマスタークラスに参加。2007年に結成した2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne(ココロネ)】のメンバーとして、これまでに2枚のCDを発売。
オフィシャルサイト https://n-fluteacademy.com
大和田真由
Mayu Oowada
武蔵野音楽大学卒業。フルートを野口みお、市毛里香、各氏に師事。5歳よりピアノ、10歳よりフルートを始める。演奏活動に加え、kokoro-Ne結成を機に、編曲や楽譜の販売など、作品の発表も精力的に行なっている。
kokoro-Ne