第2回 | 「愛の讃歌」
皆さま、こんにちは! 2本のフルートとピアノのトリオ『kokoro-Ne(ココロネ)』です。 今回は、鈴木明子さんの名演が記憶に新しい「愛の讃歌」を取り上げます。毎日溶けるような暑さが続いていますが、フィギュアスケートに想いを馳せてこの夏を乗り切りましょう!
kokoro-Neメンバー×フィギュアスケートの衣装
門井のぞみ
【担当】フルート、ピッコロ
【好きなスケーター】高橋大輔、鈴木明子
【好きな衣装】エリザヴェータ・トゥクタミシェワ 2014-15 FS「バットワニス・ビーク/サンドストーム」
大和田真由
【担当】フルート、アルトフルート、作編曲
【好きなスケーター】ジェイソン・ブラウン、パパダキス&シゼロン
【好きな衣装】鈴木明子 2012-13 FS「O(オー)」
田仲なつき
【担当】ピアノ
【好きなスケーター】浅田真央、高橋大輔
【好きな衣装】浅田真央 World 2015-16 FS 「蝶々夫人」
「愛の讃歌」について
歌・作詞 / エディット・ピアフ
作曲 / マルグリット・モノー
日本ではシャンソン歌手の越路吹雪さんがカバーし、大ヒットした。
ピアフが妻子を持つ恋人との恋愛に終止符を打つために書いたものだと考えられている。
スケーター鈴木明子の集大成
恩師である長久保裕コーチが好きな『愛の讃歌』。「これまで支えてくれた感謝を込めて」と、現役最後の2013-14年のショートプログラムにこの曲を選んだ。 当時のルールでは、競技でのボーカル曲使用は減点対象だった。そのため、既存のインスト版を探して使用するしかなかったのだが、オリジナル音源を作るというチャレンジをした。編曲・ピアノ伴奏はCM音楽作家にしてフィギュア経験もある平沼有梨さん。メインのヴァイオリンは古澤巌さん。振り付けに合わせた秒単位のリクエストに応えてアレンジされた。2013年全日本選手権優勝、2014年ソチオリンピック8位、世界選手権6位入賞。
まゆ(以下:ま ):「あっこちゃんの演技には毎回魅せられるけど、ソチ直前の全日本はフリーの《オペラ座の怪人》含めて神がかってたね。」
なつき(以下:な ):「ほんと。競技という事を忘れてたよ。歌モノのインストであそこまで色々表現出来るなんて!私たちも『愛の讃歌』はリクエストいただいて編曲したんだよね。」
のぞみ(以下:の ): 「歌の曲→楽器で演奏、て簡単に吹けると思われがちだけど、実はアレンジが大変。」
ま :「歌モノは歌い手の声の力が大きいからね。歌詞と歌声の欠落という2大デメリットは痛い。その前提で、楽器ならではの良さが出るよう原曲と向き合う作業がね…大編成のオケものをトリオにアレンジするより脳みそが疲れる!笑。」
の :「声の音域だとフルートには物足りないんだけど、かといって同じメロディが出てきた時にこれ見よがしに1オクターブ上げたりするのも違う気がして。変にフェイクすると原曲が台無しになる事もあるし。」
な :「だからピアノが譜読みしにくくなるのか。笑」
の : 「結果的にはシーンを選ばずどこで演奏しても人気のレパートリーになったね。」
ま :「こういうタイプの曲は、楽曲の新しい伸び代を見出す工夫=丁寧に“カバーする”が大切かも知れないね 」
鈴木明子ショートプログラムをkokoro-Ne的に解説
プログラムは大きく①序盤②中盤③終盤に分かれます。
①「スケートとの出会い」
余計なイントロなどなく、ヴァイオリンと可憐なピアノでシンプル且つ優雅に始まり、ジャンプに入るまでの滑りの美しさで既にこのプログラムの良さを予感させます。調性も♭系ではなく、A-Dur(イ長調)、#3つという辺りが、派手すぎず、明る過ぎず、サウンド的にもよく合っています。
■譜例1(スクロールしてご覧ください。)
このお馴染みのワンフレーズが終わるタイミングで3回転トゥループの連続ジャンプ。
→他の弦楽器も加わってサウンドに厚みが増したところで、2回目のメロディに入る。というアレンジ的にはお約束なパターンですが、こういう流れがあると演技も軌道に乗れますね。
2フレーズ目は7小節目くらいのタイミング、1本目のジャンプより早めのタイミングで3回転フリップ。中間部に向けて一旦落ち着けて、雰囲気が変わります。ついついジャンプで騒ぎがちですが、個人的には着氷後のツイズルやポーズがあっこちゃんらしくて好きな所です。
②「苦悩の時期」
平行調のfis-mollになって、曲調もガラっと変わります。
■譜例2 (スクロールしてご覧ください。)
1フレーズ目: FCSp(フライングキャメルスピン)
2フレーズ目:LSp(レイバックスピン)
いずれもポジションに変化が美しい2つのスピンで畳み掛けたところに、カデンツァ(伴奏を伴わない即興的な演奏)が続きます。摂食障害に苦しんだ大学時代を彷彿とさせます。
③「再び滑れる喜び」
再び元の①のメロディに戻ります。ティンパニーが入ったり、大きくrit.がかかってタメが入ったところで2回転アクセル。苦悩から解き放たれた様にサウンドも豪華になり、クライマックスに向けた躍動感あふれる華麗なステップがたまらないです。
2フレーズ目はB-Durに転調して半音上がって、より明るい印象に変わります。
■譜例3 (スクロールしてご覧ください。)
メロディもちょっとフェイク(原曲のメロディをちょっと変化させたり崩す)されているのですが、8分音符3個×4のバックのサウンドに対して、所々2連譜を入れている辺りがおしゃれです。
ちなみに、私も2拍3連的な要素が好きでよく使うのですが、
2拍3連とは…
このようなリズムを出す効果があって、躍動感がupします。
その2連符、4連符が振り付けに見事音ハメされているのですから、見ている側はこの段階でスタンディングオベーションをかなり我慢する状態に!
そしてとどめの CCoSp(チェンジフットコンビネーションスピン)
あっこちゃんらしい姿勢から高速スピン。
ラストのポーズはあっこちゃんかフレディ(QUEEN)しか考えられません!
ソチオリンピックにまつわる思い出
ま:「ソチオリンピックの頃は、曲集の出版作業も佳境で、楽譜の校正を夜な夜なやってたよね」
な:「うん。作業しながらリアタイで試合見て、みんな睡眠不足の山場!感情の大渋滞だったね 」
の:「支え合ってなんとか生きてたね!懐かしい〜。」
フルートの楽譜
アルソ出版さんの「FLUTE on ICE〜表情の名曲をフルートで〜(CD伴奏付き)」ではフルート&ピアノ編成、kokoro-Ne監修の「コンサートで使える中上級アレンジ〜フルート・デュエット曲集(ピアノ伴奏付き)」にはフルート2本&ピアノ編成が収録されています。
kokoro-Neの楽譜・CDは「kokoroneshop」でお求め頂けます。
参考動画
演奏のポイント
kokoro-Ne版の楽譜では、12/8拍子なので2ndやピアノとの絡みが8分音符単位でしっかりハマるように書かれています。縦を丁寧に合わせるときれいです。
● 1st FLUTE
中間部のFis-mollの所は拍通りにサクサク進まず、セリフのように間合いをあけたり(時には「これでもか!」というくらいに)、逆に巻いたりして変化をつけると良いと思います。 (のぞみ)
● 2nd FLUTE
↑1stのメロに相の手を入れるように、特に、1stより音域が上回る箇所は音色に気を付けましょう(まゆ)
● Piano
イントロ部分は、楽譜にとらわれず 自由に演奏して下さい。ただ 情熱的に弾きすぎると重くなりがちなので音色など工夫してみて下さい。(なつき)
次回予告
さて「フルートで彩るフィギュアスケートの世界 第2回」、お楽しみ頂けましたでしょうか?
次回の10月号は羽生結弦選手の「Hope & Legacy」についてご紹介する予定です。
それではまたお会いしましょう!
Profile
kokoro-Ne (ココロネ)
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。 クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢 えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。 TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエン スはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
主な作品
・2009年 1st Album 「 kokoroーNe/ココロネ 」
・2013年 「 コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編 」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「 Microcosmos 」同収録のオリジナル曲「 ミクロコスモス 」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「 kokoro-Ne Library 」を立ち上げ、これまでに10作品を超える楽譜を発表。続々と新作発 表を控えている。
kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
門井のぞみ
Nozomi Kadoi
武蔵野音楽大学音楽学部器楽学科卒業。桐朋学園大学音楽学部研究科修了。第14回日本フルートコンベンションコンクール アンサンブル部門第2位。第18回日本クラシック音楽コンクール全国大会木管楽器部門入賞。ウィーンをはじめ国内外のマスタークラスに参加。2007年に結成した2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne(ココロネ)】のメンバーとして、これまでに2枚のCDを発売。
オフィシャルサイト https://n-fluteacademy.com
大和田真由
Mayu Oowada
武蔵野音楽大学卒業。フルートを野口みお、市毛里香、各氏に師事。5歳よりピアノ、10歳よりフルートを始める。演奏活動に加え、kokoro-Ne結成を機に、編曲や楽譜の販売など、作品の発表も精力的に行なっている。