第10回│「戦場のメリークリスマス」
なぜこんなにもフィギュアスケートに魅せられるのか。メンバー全員がフィギュアスケートファンだという、2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne】の皆さんにスケートのプログラムに使用されている楽曲の解説や、スケーターやプログラムに対する思い出、演奏のポイントなどを交えながら、名曲を演奏家の目線で紹介していただきます。今回は「戦場のメリークリスマス」を取り上げます。
こんにちは!2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne(ココロネ)】です。ついにフィギュアの季節が到来!今年はコロナ禍で大会も寂しくなりますが、そんな時こそ過去の名演を楽しもうではありませんか。
今回ご紹介するのは、映画『戦場のメリークリスマス』より「Merry Christmas Mr. Lawrence」です。
村元哉中 & クリス・リード組 2017-18FD
宮原知子選手 2013-14 SP
どちらもオリンピックイヤーに演じられた素晴らしいプログラムです。坂本龍一作品の魅力も交えてお届けします。
映画『戦場のメリークリスマス』について
舞台は「戦場」ですが、捕虜の収容所なので過激な戦闘シーンは一切出てきません。日本の将校と捕虜との交流を通して、日本の武士道的な精神論の愚かさ、海外の死生観、正義感などが描写されているのが印象的です。捕虜側と日本軍との会話に「We All Wrong(我々みんなが間違ってる)」「君もやはり人間だな」「Merry Christmas」というセリフが散りばめられていて、「敵味方はあれど同じ人間なんだ」「戦争する人間なんか間違っている」というメッセージが伝わってきます。
ラストシーン。場面は戦後で、処刑を控えた日本軍のハラ軍曹(ビートたけし)を捕虜だったローレンスが訪れるシーン。最後のセリフが「Merry Christmas Mr. Lawrence」。国境や言語を越えて通じる思いがあるから、もう人間同士で争わないで欲しい、と改めて願う作品です。
『Merry Christmas Mr.Lawrence』について
映画のサントラはエレクトリックなサウンドですが、最近はピアノの室内楽バージョンの方が浸透していますね。
でもって、この冒頭は絶対にいいピアノで聴きたい!!冒頭のハンマー音が大好きです。tong pooなど坂本龍一の作品全般に言える事ですが、テクノやバンド編成でも、室内楽スタイルでも、それぞれのアレンジで魅力を発揮できる楽曲のポテンシャルに感嘆してしまいます。いい曲、メロのパワーが強い曲って、どうにでもなるんだなぁと(笑)。
村元哉中&クリスリード 2017-18 FD
同じく坂本龍一作曲の「ラストエンペラー」→「戦メリ」の編集音源です。
ラストエンペラーの部分のステップ、すごい好きなんです。単なるゆったり3拍子に止まらず、メロディのリズムや起伏に振り付けや一歩一歩の図形の雰囲気が合っていて見惚れてしまいます。
①「ファ♯レミラシ」と②「ファ♯レミレ(↑)シ」の似てるフレーズの連続がでてきますが、「ラ」と「レ(↑)」が違うだけでフレーズの印象が変わります。フレーズの雰囲気に合わせるように、①はゆったり、②には畳み掛けるようにツイズルの細かい動きが入っています。こういう振り付けもとても魅力的です。
曲が「戦場のメリークリスマス」に変わって、ピアノの「ファミ♭ファシ♭ファミ♭」が始まる瞬間にかなちゃんの衣装チェンジ!
お馴染みのピアノの3連符を1回し聴き終わったところで見事なステーショナルリフトが入ります。
一旦持ち上げて→腰の辺りまで下ろして→もう1回肩まで持ち上げます。もう1回、て絶対大変だと思うんですけど、この一連が滑らかなんです。
さらに言うと、戦メリに入ってからこのリフトまでのピアノ1回しの間に、リフトに入りそうで入らないリフト未遂みたいなちょい持ち上げが2回あるんです。クリスが風で、かなちゃんが舞う桜のようで、感激が増しますね。
テンポアップしてからのステップも素敵です。もう曲と2人のグルーヴで十分、手拍子要らずなくらいです。「クリスマス」という枠に収まらない美しい世界観。本当に素敵な作品だと思います。
◆フィギュア豆知識◆
クリスはトロンボーン、お姉さんのキャシーはフルート吹くらしいです!
宮原知子選手 2013-14 SP
ソチ五輪は出られませんでしたが、その後の大躍進を約束するような当時15歳の演技でした。ピアノの3連のイントロでステップから始まる構成、リンクに雪が舞い降りて来そうです! 今と変わらない丁寧な滑りが大好きです。
前奏部分↓
|ミ♭ レ♭ ミ♭|ド(↑) ミ♭ レ♭|
|ラ♭(↑) ミ♭ レ♭|ド(↑) ミ♭ レ♭|
全部に音ハメせず要所を抑えた手動きと、2、4拍に当てたターンのタイミング、しっとりな曲調の中にもきちんとグルーヴ感があるのが素晴らしいなと思います。
中盤で同じく坂本龍一『Rain』を挟んでピリっとした演技になりますが、また、戦メリのアップテンポしたパーツに戻って、最後はさっとんお得意の両回転スピンで締め括られます。もう一度見てみたいプログラムです。
《教授》坂本龍一について
なつき(以下:な)「教授(坂本龍一の愛称)っていろんな顔があり過ぎて……Wikipedia見て笑っちゃったよ」
まゆ(以下:ま)「作曲家に留まらず才能の塊だよね。ジャンルも《教授》でいいと思う」
のぞみ(以下:の)「CMで使用されていたenergy flowとか癒されるけど、テクノ系も痺れるし、現代のバッハじゃない?」
な「そういえば、教授が弾くバッハは超いいよ」
の「えっ?聴いたことない!聴いてみる」
ま「ピアノのこと知り尽くしてるよね。そういえば、なつきさんから教授セルフアレンジの2台ピアノと連弾やろうって勧誘きた。時間ないってば(笑)」
な「時間は作るものよ。フフフ」
ま「ドS発動したな。でも教授に近づくには少し違う角度から接近してみるのもいいよね。アレンジもね、メロディがシンプルだけどそれが難しい。戦メリの全員2分音符で伸ばしとか、tong pooの裏打ちとか。音楽力の基礎の精度を問われる気がして毎回心臓に悪い(笑)」
の「やっぱ、まゆの思考回路はそっちに行くのね! 聴いてると心地いいんだけどね。演奏するほうとしては気合いが必要だわ」
フルートの楽譜
フルート、アルトフルート(または2本のフルート)とピアノのための「Merry Christmas Mr.Lawrence」はこちらです。
「Merry Christmas Mr.Lawrence」for 2Flutes and Piano / Ryuichi Sakamoto
kokoro-Neの楽譜・CDは「kokoroneshop」でお求め頂けます。
参考動画
演奏のポイント
の(fl):メロディが美しい分だけ、音程に気を配ります。特にDesとかは上ずりやすいので……。ビブラートは少なめ、テンポも敢えて伸び縮みさせません。「余計な事しなくていい」と曲本来の力とメンバーを信じて「淡々とシンプルにいい音程で」演奏することを心掛けました。
ま(fl):テンポの遅い曲に耐えうる「真のグルーブ感」が問われる曲だと思います。坂本龍一自身、演奏毎にテンポが違ったりしているけど心地良くて、単に「速いor遅い」より、曲を通したグルーブのキープが大事なのかなぁ。と感じます。8分音符×4拍分も均等に綺麗に演奏するのが案外難しくて、特に3〜4拍目(ミ♭ファミ♭ファラファなど)に向けてズルっと滑ってしまわないように、気をつけています。テンポが104に上がってからのアルトフルートは音がかなり高い部分があるので、ピアノの刻みの間にフルートに持ち替えてしまうのもいいと思います!
な(pf):ピアノが初っ端から「おいしい」ですよね。ただ、悦に浸ると聴いている人が心地よくないと思うので、和音の響きを感じつつ、「そのままを弾いて伝える」だけで充分美しい楽曲だと思います。テンポのブレは常に注意しています。
kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
・2009年 1st Album 「kokoro-Ne/ココロネ」
・2013年「コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「Microcosmos」同収録のオリジナル曲「ミクロコスモス」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「kokoro-Ne Library」を立ち上げ、これまでに10作品を超える楽譜を発表。続々と新作発 表を控えている。
kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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