第14回 | 「Amazing Grace」
メンバー全員がフィギュアスケートファンだという、2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne】の皆さんにスケートのプログラムに使用されている楽曲の解説や、スケーターやプログラムに対する思い出、演奏のポイントなどを交えながら、名曲を演奏家の目線で紹介していただきます。今回は「Amazing Grace」を取り上げます。
こんにちは!2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne(ココロネ)】です。
1年遅れの夏季オリンピックで熱い戦いが繰り広げられ、半年後の北京も楽しみなこの頃。今回はオリンピック2大会に出場、世界選手権でも2度の優勝に輝いた安藤美姫さんの「Amazing Grace」についてお話しします。お楽しみください。
安藤美姫 2013-14 Ex
競技ほど難易度的には高くありませんが、それでも魅せられてしまうところが素晴らしいです。シーズン後もコロナウイルスと闘う医療従事者に向けたチャリティー動画リレーやデニス・テンさんの追悼など、折に触れて滑っていて、このプログラムを大切にされているようです。
なんと言っても、このシーズンは4月に出産からの復帰だった事。6月初めのアイスショーでは流石にジャンプは組み込んでいませんでしたが、6月末のアイスショーではもう3サルコウを入れています。
Amazing Graceは4コーラスあって、4回のサウンドの変化とともにプログラムも盛り上がりを見せます。
①F-Dur(アカペラ):ゆったりとした振り付け。うっとりと惹き付けられてしまう表現力が素敵です
②F-Dur(分散和音の大人しい伴奏):少しずつ動きとスピードが出てきます。そして鮮やかな3サルコウ
③Fis-Dur(半音転調してオケがゴージャスになる):さらにステップ
④G-Dur(さらに半音転調):スパイラル×2、スピン(チェンジフット) Ending
kokoro-Ne からみた「安藤美姫の魅力」とは
現役スポーツ選手だと、妊娠がわかった時点で競技から離れざるを得ないし、他の仕事よりも大きなブランクが空いてしまうと思うんです。一般的な経産婦の産後2ヶ月なんて、体型を戻す事すらままならない人が少なくない中、魅せる演技が出来るまでに状態を戻せるのが……ジャンプも1回転から練習し直したそうです。同じ人間とは思えないです!!リスペクトしかありません!!
(まゆ談:自慢じゃないですけど、私なんか出産の前後で1ヶ月しか休んでないのに、久々にフルート持ったらリッププレートが唇に当たらなかったですからね。笑)
「女子選手で初めて4回転ジャンプを成功させた16歳女子高生」とアイドル的な扱いをされたかと思えば、トリノ後は心ない言葉を浴びせる人もいて、フィギュア選手であるがために嫌な思いもたくさんしたんじゃないかと思います。それでも第一線で続けてくれて、歳を重ねる毎に表現力が増していき、魅力的なスケーターになっていくのが見られて、フィギュア好きとしては嬉しかったです。2度目の世界女王に輝いた休養前の2010-11年シーズンのSP「ミッション(ガブリエルのオーボエ)」の穏やかながら情感あふれるステップ、FS「ピアノ協奏曲(グリーグ)」のカッコよさ、どちらも表現力の幅広さに魅せられました。
2011-13年シーズンの休養、コーチ探し、所属先企業から退社、強化指定選手からも外れるなど、大きなハンデをいくつも抱える中、復帰を果たした2013-14年シーズンでは、9月には国際試合(GPシリーズより格下にはなりますが)で2位に。その後も、地方の予選から勝ち上がって出場した全日本選手権でのSP「マイウェイ」は戻ってきてくれてありがとう!という感動いっぱいの素晴らしい演技で、フィギュアの神様からのプレゼントのようでした。
バラエティ番組でもお見かけしますが、スケーターとしての魅力は変わらないし、後進への指導も上手なようです。女性の生き方や、日本のスケート環境の事まできちんと考えている方なので、今後の活躍がますます楽しみです。
楽譜紹介
フルートの楽譜
『Amazing Grace』収録(アルソ出版刊)
ザ・フルート スタイル vol.4
(フルートとピアノ)
kokoro-Ne版は、楽譜は「コンサートで使える中上級アレンジ〜フルート・デュエット曲集(ピアノ伴奏付き)」に、音源は1st Albumにそれぞれ収録されています。
kokoro-Neの楽譜・CDは「kokoroneshop」でお求めいただけます
演奏のポイント
ワークショップというとちょっとおこがましいのですが、実はコロナ前には「kokoro-Neと遊ぼう」というか、ゆるーい「kokoro-Ne楽譜相談会」的なものを開催していました。
kokoro-Ne版の楽譜は、アレンジが変わっているものもあって、その中でも「Amazing Grace」は、演奏や雰囲気作りで問い合わせの多い曲でもあります。実際にメンバーと一緒に演奏をしてkokoro-Ne風にアドバイスを、「なかなかメンバーが揃わない」という方には、アンサンブルの完成形を体験をしていただいたりしています。
今回はその体験会の様子をご紹介します。
動画の中で門井が連呼している「シンプルに」が大事なのかなと思います。大袈裟なビブラートをかけたり、派手に歌い込まなくても、メロディがきれいに聞こえるように書いています。
ピアノが入るまでは素朴に、遠くから聞こえるように、4拍子になってからは、16ビートを意識して、気負いすぎず演奏してみてください。(ピアニストさん、ムラのない16分音符、頑張ってください。笑)
このアレンジは、門井からのリクエストで書いたのですが、実は1st Album発売前に「むーりー!」と断ってるんです(笑)。原曲があまりにシンプル過ぎて何も思い付かず、手がつけられませんでした。
その頃、私が息子を妊娠中で、「最悪の場合、遺作になるかも」という覚悟も芽生えつつあって、1st Albumを録る話が急ピッチで進みました。そこで、kokoro-Ne格言「締め切りの力は偉大なり」追い込まれてやっと閃く恒例のパターンです。
結局、正攻法では書き上げられず、拍子もコードも違ったAmazing Graceが出来上がってしまいましたが、今でも気に入って下さってるお客様がいらして、kokoro-Neとしても大事なレパートリーになっています。
そしてこちらは7年前(3人とも若い・・・笑)。ピンクの曲集の発売記念コンサートのアンコールがAmazing Graceでした。懐かしの映像もお楽しみください。
kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
・2009年 1st Album 「kokoro-Ne/ココロネ」
・2013年「コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「Microcosmos」同収録のオリジナル曲「ミクロコスモス」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「kokoro-Ne Library」を立ち上げ、これまでに10作品を超える楽譜を発表。続々と新作発 表を控えている。
kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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