フルート記事 第17回|「春よ、来い」
  フルート記事 第17回|「春よ、来い」
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kokoro-Neがお届けする〜フルートで彩る フィギュアスケートの世界〜

第17回|「春よ、来い」

LESSON

皆さまこんにちは! 北京オリンピック、男子・アイスダンスまで観終えて、興奮と感動が冷めやらないまま原稿を仕上げているkokoro-Neですが、皆様いかがお過ごしでしょうか(と言いつつ、女子のSPを点けてしまってます……)。そんな今回は、羽生結弦選手のエキシビジョン「春よ、来い(松任谷由実)」をご紹介します。今シーズンのSP「序奏とロンド・カプリチオーソ」が誕生するきっかけともなった、ピアニスト清塚信也さんとの出会いのプログラム。そして、このコーナー17回目にして、初めて取り上げる日本の歌謡曲! 是非お楽しみください。

と、その前に……

北京オリンピック、男子シングルとアイスダンスを観終わった3人の冷めやらぬあれこれ

 

なつき
個性溢れる素晴らしいスケーター達の演技に、競技ということを忘れて見入ってしまいました。特にジェイソン・ブラウン、羽生結弦、ネイサン・チェンの演技は無意識に拝んでました…w。この3選手の音楽との融合、世界観、まるで2時間の映画を観たかのようでした。羽生結弦選手のSPは原曲のヴァイオリンではなく、清塚信也さんの奏でるピアノソロ版を使用していましたが、妙に納得させられます。減衰するピアノの音色が吐息のように儚く鳴ると、ゆづの動きもピタリと一体化して、まるで時空を操っているかのような錯覚に陥りました。またこのペアの作品を是非観たいです!!

 

のぞみ
ネイサン・チェンのこれまでの4年間が爆発したようなステップも、ジェイソン・ブラウンの美しすぎて音楽の中に溶け込んだ演技も本当に素晴らしかったです。特に印象に残ってるのは、ショートを滑り終わった鍵山優真選手の笑顔のガッツポーズですね~。めっちゃ可愛かった! 本当に素直で朗らかで真っ直ぐな子なんだろうなと。どんな子育てをしたのかご両親に伺いたいくらいです(コーチであるお父様は厳しいというお話ですので、お母様がどんな方なのか気になります)。
それから、羽生選手の会見(2/14)の「だれもが生活の中で挑戦している。守ることもひとつの挑戦だ」という言葉に胸を撃ち抜かれました。達観しすぎていて仏の領域に達していらっしゃる……。
今後どうされるかも気になりますが、まずはゆっくり足を治していただきたいですね。皆様、感動をありがとうございました!!

 

まゆ
●ジェイソン・ブラウン
いつもながら「お金払って観たい」てこういうこと! 技と技の間に隙間がなく、すべての要素を音楽に溶け込ませたプログラム。SP、FS通して4回転ジャンプを1本も跳んでいないのに、4回転を複数跳んだ選手を何人も上回り、羽生選手に2点差弱まで迫る演技・・・萌♡

●ネイサン・チェン
SP、FS通して終始危なげなく、特にSP「ラ・ボエーム」のラストで手がフワッとするところ、快心の余り「おりゃっ!」となってしまっていたのがツボでした!

●宇野昌磨
しっかり歌い込まれた演技は流石でした! 平昌から更に進化しているし、オバサンとしてはこの4年間でインタビューとその内容がシャキっとしたことに感激してしまいました。寝落ちの心配がネットでは定番になってしまってますが、そろそろ卒業できるのではないかと!(笑)

●羽生結弦
SP「序奏とロンドカプリチオーソ」では冒頭の4サルコウ以外はいつも変わらない、というかそれ以上の演技……細かいフレーズの一音たりとも逃さず拾い上げて、まるで清塚さんが現地で弾いてるかのように見えました。普通に惹き込まれてしまったけど、あれだけの大舞台、あれだけのアクシデントの後に、あれだけの演技、一体どういう神経してるのかと……あっぱれ! 「ロンカプ」に関しては、別途お話しする機会が必要と感じています。

●パパダキス&シゼロン
この2人も、しっかりと4年前の忘れ物を取りに来ましたね!(kokoro-Neリハとドン被りでリアタイ観戦できませんでしたが) フリーなんか号泣です。「エレジー(フォーレ)」て、こんないい曲だったっけ……。深い深いエッジ、スピード、滑らかさ、音楽との一体感など、アイスダンスはパパシゼ以外の上位のカップルも、ルールを知らなくてもフィギュアの魅力がわかるので、是非ご覧いただきたいです!

女子、ペアも選手皆さんの活躍をお祈りしてます!!

 

羽生結弦 × 清塚信也 スーパーコンビ 2018 Ex「春よ、来い(松任谷由実)」

2018年のアイスショー「ファンタジー・オン・アイス」で清塚信也さんと共演するにあたり、アレンジから二人三脚で作られたプログラムで、2019年以降も度々披露されています。

スポーツニュースでリハーサルの映像を見たのですが、羽生選手から清塚さんに強弱やテンポについて具体的にリクエストする場面があったり、清塚さんも「音楽にも詳しい」「音楽家と話をしているような」と羽生選手の音楽に対する姿勢を絶賛していました。

今季の「ロンカプ」でも清塚さんが羽生選手に対して
「聴く能力にも長けている」
「もう1パートあって、そこを羽生選手が一緒に演奏してくれてるように見える」
「音楽の解釈、10点なんて!もっと上だよ!」

など、ベタ褒め! 音楽家特有の目線なのかもそれませんが、私も常日頃、“好きな演技=使用されている楽曲が割増しでいい曲に聴こえる”と思って観ているので、「あーもー、清塚さん、わかりすぎるー! よく言ってくれた!!!」と。羽生選手の演技を見るとGOE(出来栄え点)もPCS(演技構成点)も上限の撤廃を熱望してしまいます。

その2人の夢のコラボ版「春よ、来い」では、Aメロ(♪淡き光たつ~)とBメロ(♪それは それは~)は出てきません。

イントロ(ピアノのフレーズ)⇄サビ(♪はーるーよー)

を繰り返すシンプルな構成で弾き切り、華麗なエンディングで締め括られる脅威のアレンジです。原曲から離れて、完全にピアノ曲としてカバーされています。

スケーティングそのものが美しいので、エキシのように技が少ないプログラムを普通に滑ってるだけで観入ってしまいます。その持ち味を活かしたデヴィット・ウィルソンの振り付けも見事です。

「メロ以外にこんな音入ってたんだ」と演技に気付かされるような細部への音ハメは、挙げたらキリがない程に散りばめられ、サビの終わりのフレーズ(♪懐かしき声がする~♪)には、ここぞとばかりにジャンプ、ディレイシングルアクセル、ハイドロなど羽生選手らしい要素。そして、最後はイナバウアーで締め括られます。原曲・アレンジ・演奏・振り付け・演技、全てにおいて最高ランクの作品が融合した芸術作品です。

「ジャンプだけじゃない」とご紹介しておきながらも、羽生選手のジャンプは最小限の助走、クリーンな踏み切り、引き締まった細い回転軸、離氷~着氷の前後の流れが絶品です。全ての要素に対してレベルが孤高の領域にあって、それらが細部まで音楽と融合した濃密なプログラムを作り上げてしまう、という今の採点基準では評価しきれない魅力がたくさんあります。誰よりも頑張って、出し切ったと思うんですけど、それでもまだまだその先を観たいスケーターです。

楽譜紹介

フルートで吹く 朝ドラ
(アルソ出版)

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気分で吹いちゃう フルートDuo
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演奏動画

 

自称「ユーミン育ち」、主に小~中学校にかけて、荒井時代~80年代後半のユーミンにどっぷりハマっていました。その名曲の数々から、無意識に擦り込まれて学んだことも多かったかもしれません。なので「春よ、来い」に対しても「ユーミン、他にもっといい曲あるじゃん(・ε・)」と思うのですが、羽生×清塚コンビの作品を見ると「あ、やっぱ名曲でした、すいません。m(_ _)m」と平伏してしまう魅力があります。

確実に自分の音楽観の一部となってるに違いないユーミン。その名曲を節操がない程に詰め込んだストーカーばりのアレンジでメンバーに遊んでもらいました。1箇所、別のゆづプロがチラつく箇所もあります。ネタがわかった方は是非お友達になってください。笑

【種明かし動画】

 

kokoro-Ne風、日本の歌謡曲のアレンジのあれこれ

歌モノをインストで演奏する際の「歌詞の欠落」のダメージについては今までも何度か触れてきましたが、フルートで演奏する際には「別の曲になってしまう」くらいの覚悟でどう取り組むかを考えています。特に「春よ、来い」は、美しく選び抜かれた日本語のみで書かれた歌詞と、その歌詞に寄り添って流れるような和風のメロディの融合が魅力です。それだけに他の歌謡曲以上にインストの演奏で失うものも大きくなります。
(だから清塚さんのピアノ曲として大きく振り切ったアレンジも凄いと思うのです!)

まず、「春よ、来い」のイメージを決定づけているイントロのピアノのフレーズについては、マイクの入ったボーカルと、プログラミングされたバンドサウンドがあってのものかな、と感じました。室内楽スタイルでそのまま演奏してしまうと、ピアノとメロディの16分音符が当たってしまう箇所も多く、アンサンブルを成立させるのはなかなか難しいものがあると思いました。

ここからは余談で。個人の好みなんですけど、歌モノのカバーの場合、曲が始まってしばらく経ったタイミングで「あ! この曲」って気付くくらいが好きで、ついでに言うと、長年「♪春よ~遠き春よ~♪=これ、冬の歌だよね……」と思ってたんです。1コーラス目辺りは標準的なkokoro-Neアレンジになっているので、併せてお楽しみください。

 

kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール

kokoro-Ne (ココロネ)
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
主な作品
・2009年 1st Album 「kokoro-Ne/ココロネ」
・2013年「コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「Microcosmos」同収録のオリジナル曲「ミクロコスモス」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「kokoro-Ne Library」を立ち上げ、これまでに45タイトルを超える楽譜を発表。続々と新作発 表を控えている。
kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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