フルート記事 第20回|『くるみ割り人形』より「花のワルツ」
  フルート記事 第20回|『くるみ割り人形』より「花のワルツ」
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kokoro-Neがお届けする ~フルートで彩る フィギュアスケートの世界~

第20回|『くるみ割り人形』より「花のワルツ」

LESSON

こんにちは! 2本のフルートとピアノのトリオ、kokoro-Neです。

オリンピックの翌シーズンが始まっていますね。世界情勢や、トップ選手の休養、引退で寂しくなるかと思いきや、グランプリシリーズでは日本人選手の目覚ましい活躍! 迫る全日本選手権も楽しみです。

さらに今シーズンは、アイスダンスが豊作!早くもあれもこれも見逃せないシーズンとなっています。そんな今回は、シニアデビュー1年目でグランプリファイナルを制覇した浅田真央さんの『くるみ割り人形』から「花のワルツ」を取り上げてご紹介します。

 

チャイコフスキー

なんと言っても、メロディのわかりやすさ! ちょっと聴けば口ずさめるような、それでいて、決してありきたりや陳腐ではなく、人の心に残って、脳内でループまでするような唯一無二感と吸引力。私たち世代だと、チャイコフスキーもピアノ協奏曲第1番も知らなくても「ザ・カリーの曲」と言うと「ああ!!」とピンと来る人が多いのが、わかりやすい現象かもしれません。

特にバレエ音楽の場合はストーリーや情景とこの上ないマリアージュは圧巻です。チャイコフスキーの時代に映像の技術があったら、映画音楽など、視覚と融合した作品が量産されたのでは、と思ってしまいます。

オケの使い方が上手いなぁ、と感じます。私が好きなのはホルン(「ザ・カリー」もホルン始まり。お気に入りなんですね 笑)とハープの使い方です。第18回の『シンドラーのリスト』で、ジョン・ウィリアムズでも同じことを言ってますが、ストーリーとの密着度といい、ジョン・ウィリアムズにチャイコフスキーの香りを感じてしまう所以かもしれません。

浅田真央×「花のワルツ」

「THE、おとぎ話」なイントロとともに、腕や膝の使い方の美しいこと……幼少期から培ってきたバレエの所作の美しさが遺憾無く発揮されます。見惚れていると、あっという間に加速してフワッと3アクセルを決めてしまいます。開始約20秒で呆気に取られてしまった衝撃は今でも忘れません。

この後もハープのカデンツァの間に3ルッツを軽々と。曲の本編に入ると、

この部分、やはりAメロに使われるのはホルンですね。ふくよかなハモりの無敵感に音楽的にも「やられた!(・∀・)」と思うところでもあります。サビの弦のメロと木管のピロピロ、音色のコントラストが際立つことで、カラフルな花の世界が目に浮かびます。

ワルツのグルーヴにきちっとハマった助走で優雅に決めるジャンプ。

序盤のジャンプが終わると、ストレートラインステップ。後に「鬼ステップ」と言われる真央ちゃんの素晴らしさが随所に溢れています。

〈一言メモ〉織田信成さんのYouTubeチャンネルで、真央ちゃんの伝説のソチフリーにチャレンジした動画が公開されています。真央ちゃんのステップの鬼度がとってもよく伝わるので、ご興味あれば是非ご覧ください!

↑このフレーズは臨時記号がいっぱいで、個人的にも苦労する所です。

曲は中盤で「金平糖の踊り」に変わります。15歳当時の真央ちゃんの魅力を活かしたローリー・ニコルさんの技が光る部分で、可愛らしい振り付けと美しいスピンやスパイラルが繰り広げられます。

ラストの「コーダ」では、曲調に合わせて面白いように連続ジャンプが決まります。この時の「スケート大好き!」が溢れてる感じ♥引退まで見届けた今見返すと、感慨深く大好きなプログラムです。

〈一言メモ〉「花のワルツ」は使われていませんが、ミーシャ・ジーさんの2016-17シーズンFS『くるみ割り人形』も、とても素敵なプログラムです。シブい所を突いた選曲と、セルフ振り付けの個性あふれる作品。機会があればご覧ください!

楽譜のご紹介

参考演奏&ピアノ伴奏CD付き『FLUTE on ICE vol.2(アルソ出版刊)
編成:FlutePiano
価格:¥2,640(税込)
https://www.alsoj.net/store/view/ALFLOI2.html?storecd=#.Y5GUqOzP3OI

「花のワルツ」kokoro-Ne Library(近日発売予定)
編成:Flute, Alto Flute Piano
https://store.piascore.com/publishers/1510

 

演奏動画

kokoro-Ne YouTubeチャンネル
 

アレンジの話

前出の「オケの使い方がうまい曲」にフルート2本とピアノのトリオで挑もうとすると

・人(楽器の音色)が足りない

・その割にユニゾンが多くてフルートのどちらかが持て余しがち

・音域が重なる→サウンドがペラペラになって気まずい

アレンジの時点で詰んでしまいます。早々に、フルート2本を諦めて、ちょっとでも音色に変化をつける&4音でもいいから音域が広がれば!と淡い期待を込めて1本はアルトフルートにしました。これで3人フル稼働となります!

とはいえ、早速メロディ担当の入れ替えで頭を抱えることに。誰か1人のメロディが続くと面白みがなくなってしまうので、1箇所変えると、その前後のフレーズが繋がらなくなったり、次に交代するタイミングが見つからなかったり……結局、広範囲で入れ替えになったりしました。この編成にしては、ピアノのメロディの分量も多めになりました。迷える大和田アレンジに巻き込まれたせいで、3人とも、どのメロディ&裏メロも演奏できるようになったと思います。

それから和音の成分を何度も確認しました。演奏者は何度も演奏しているし、お客様もかなりの確率でご存じの曲。なので、同じ和音でも中に含まれる音がちょっと違うと、一瞬でも「?なんか違う?」と違和感、これが続くとストレスになりがちです。属七系は省く音(3、5音)or盛る音(♭9音)、三和音は第5音の有無など、スコアや原曲を何度も聴いて、リハでも何度も確認しながら書き進めました。

 

演奏のアドバイス

【フルート】
この曲は、メロディと装飾、伴奏など一人何役もこなさなければならないので多重人格みたいですね。そして間髪入れずに色々な役割が回ってくるので、ブレスを取る時間が短いです。ほんの8分休符の隙間でうまく吸えると良いと思います。
あとはずっと吹きっぱなしなので体力勝負ですね!!(門井)

【ピアノ】
ピアニスト的にも、伴奏や連弾、2台ピアノなどで弾く機会が多く、また耳馴染みのある曲というだけで安易に手を出し、本番直前に後悔するというのはあるあるではないでしょうか(^_^;)
農耕民族の血筋を消して、3拍子、しかもバレエの軽やかさを涼しい顔で……かなりの熟練が必要かと思います。伴奏で重たいと言われないように、そして必死感が滲み出ないように頑張りましょう♪(田仲)

【アルトフルート】
フルートとの音色の違いを出しつつも、この曲ではクラシカルなサウンドに馴染ませられるといいのかな。と思っています。低音フルート属特有のパイプっぽい感じが出過ぎないよう、サイズの大きなフルート、笛らしい音色をイメージするように心がけています。(大和田)

お知らせと読者プレゼント!

kokoro-Ne Presents「フィギュアスケートの世界 Vol.3チケットプレゼントあり♪
大好評のフィギュアシリーズが4年ぶりに帰ってきます! バックナンバーでご紹介した19回分に、新レパートリーを加えてお届けする予定です。お楽しみに!
こちらのコンサートを、抽選で2組4名様にプレゼント!
ご応募お待ちしております!!

[日時]2023223日(木・祝)14時~
[会場]パウエル・フルート・ジャパン アーティストサロン“Dolce”(各線「新宿」より徒歩5分)
[プログラム(予定)]J.ウィリアムズ:シンドラーのリスト、M.ルグラン:キャラバンの到着、B.ウィーラン:リバーダンス、E.モリコーネ:ガブリエルのオーボエ
[料金]一般¥3,500 学生¥2,000 kokoro-Neメンバーズ¥3,000
[問合せ・予約]mail@kokoro-ne.net

[応募締め切り]1月31日(火)
※無料のアカウント登録が必要になります。

 
 

②kokoro-Ne Libraryのカタログができました!
kokoro-Neの楽譜、Libraryシリーズも5周年を迎えたのを記念して、これまでリリースしてきた楽譜のカタログを作成しました。お選びいただきやすいようカテゴライズしてご紹介しております。是非ご覧ください。



 

kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール

kokoro-Ne (ココロネ)
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。
クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。
2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。
TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
主な作品
・2009年 1st Album 「 kokoroーNe/ココロネ 」
・2013年 「 コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編 」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「 Microcosmos 」
同収録のオリジナル曲「 ミクロコスモス 」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「 kokoro-Ne Library 」を立ち上げ、これまでに30タイトルを超える楽譜を発表。続々と新作発表を控えている。

kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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