フルート記事 kokoro-Neがお届けする〜フルートで彩る フィギュアスケートの世界〜
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第24回|「エレジー」

kokoro-Neがお届けする〜フルートで彩る フィギュアスケートの世界〜

今シーズンもグランプリシリーズからファイナル、全日本と熱戦が繰り広げられました。特に、全日本の男子フリーは最終グループが6人とも素晴らしい演技で……(TOT)。解説の本田武史さんの「最終G全員(世界選手権に)連れて行ってあげたいですよね」に「連れてってー!」とテレビに向かって返事をしてしまいました。5位に入賞した佐藤駿選手の『四季』の振付を手がけたのがギョーム・シゼロン。ガブリエラ・パパダキスとの最高傑作『エレジー』を今回はご紹介します。

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フォーレ

まゆ:フォーレの曲の中で何が一番好き??
のぞみ:私は『コンクール用小品』かなぁ。初めてホールで聴いた時、美しすぎて天使が降ってくるかと思った。
なつき:私はやっぱりピアノ曲。フォーレ最後の作品のピアノトリオも好き!
まゆ:被った!笑。あれは、圧巻だよね! フォーレの集大成的な。子どもの時のフォーレ初対面が『ドリー』の「スペイン舞曲」(オケ版)で、カッコいー!と思った。『ペレアス〜』の「前奏曲」とか「糸を紡ぐ女」辺りも。
なつき:『ピアノと管弦楽のためのバラード』。卒業演奏会でソロ版を弾いて思い出の曲でもあるよ!
まゆ:いいねー。コンチェルトまでいかない感じの絡み具合が新鮮で好き。
のぞみ:あと弦楽四重奏も好き。あ、フルート吹きだから『シチリアーノ』も入れておこうね。
なつき:フォーレの和声感がさすがオルガン奏者って感じがするの。内声の使い方が萌え。だから譜読みも結構大変だったりする。聴くのと弾くのが大きく印象が違う作曲家のお一人。いずれ『パヴァーヌ』を心のままに弾けたら本望です!!

 

Élégie, Op.24

1880年に作曲されたチェロとピアノのための作品で、【エレジー = 哀しみを歌った詩などの文学作品、楽曲】という意味です。

 この曲に関して
・1890年には、指揮者の依頼でフォーレ自らの手でオーケストラ版も書かれていた

という情報くらいしかなく、1878年に惚れ込んでいた女性から結婚を破談されてしまったことから生まれた曲では、と言う人もいます。この頃からフォーレが外遊に行く機会が増えており、それを「酷く落ち込んだフォーレを親友のサン=サーンスが気晴らしで外遊に連れて行った」などと、結びつけた記録もあるようです。

昨今「史実≠事実」な情報がゴロゴロ出てくるのを目の当たりにしていると、あれこれ調べたところで「ほんと?それ本人が言ってたの?」ということもあり得ますよね、笑。それに、曲を書く側からすると、何百年後の見ず知らずの異国人に「失恋曲だ!」なんて決めつけられたり、勝手な想像を盛り込まれてたらフォーレだって良い気がしないかも……なんて思ってしまいます。
 
「特筆するような背景や出来事がないと、曲を書いちゃいけませんか(T_T)」

と感じることもあるのですが「そんなに詮索せずとも、楽譜の音を出していけばOK!」と思わせてくれるのがパパシゼの演技です。次項で演技とともに掘り下げたいと思います。

パパダキス&シゼロン組 2021-22年 FD「エレジー」Élégie, Op.24

ガブリエラ・パパダキスとギョーム・シゼロンは9歳からチームを組み、2009-10シーズンにジュニアデビュー。2013-14シーズンにシニアデビューするや否や、翌シーズン2015年の世界選手権で優勝。その後、お互いの怪我やアクシデントがありつつも、国際大会に出場する度に世界最高得点を更新、採点が追いつかないんじゃないか、というくらいの快進撃を見せました。

しかし、金メダル最有力と思われていた2018年の平昌オリンピックでは銀メダル(※1)。母国の偉大な作曲家(しかも同名※2)の名曲『エレジー』をFDに選んだのを見て、「金メダルを獲りに行く」並々ならぬ覚悟を感じました。

拍手やスタオベを忘れて見入ってしまう深いエッジ、スピード、美しいスケーティングスキル。カップル競技によくある男女ならではのストーリーなどの背景がなくても、曲だけでプログラムの世界観を作れる、むしろ曲の魅力を引き出してしまう表現力と技術。このチームの素晴らしさを挙げたらきりがありません! とにかく、2人が幼馴染だった奇跡、2人を組ませたパパダキス母(元コーチ)に感謝(^^)

前置きが長くなりました。演技の話に入ります。

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ピアノのド・ミ♭・ソの悲しげな短三和音で始まります。8回も弾かれてしまうと、もう葬式が脳裏に過りそうな暗さを帯びてきます。が! この8回に合わせて、停止したまま個性的で芸術的なポーズの連続ですっかりプログラムの世界観に惹き込まれてしまいます。
 
チェロのメロディ開始とともに滑り出すとぐんぐん加速。からのワンフットステップシークエンス(*´∀`*)

・2人が離れた状態
・片足
・4つのステップを入れる

あたりが条件で、エッジの傾け方、タイミングなどシンクロ度を評価されるらしいです。それらは当たり前のようにクリアした上で「一蹴りでどこまで行っちゃうのーーーー!」という滑らかさ、えげつない移動距離、最後のツイズルでも落ちないスピード! 圧巻です。

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この後、ホールドしてからの足捌きが絶品です(^^) 特にパパダキスの前後左右に回り込むシゼロンが瞬間移動のようです(イラストでお伝えするのが困難な神業なので、是非どこかで動画を見てください!(笑)
「すごいーΣ(゚∀゚ノ)ノワープした!!」とはせず、「そこにいるのが当たり前」な感じで自然に見せてしまうところに更に悶絶します。からのリフト。足元はイーグルで、決して小柄ではないパパダキス(166 cm)を持ち上げ、その間にポジションも色々チェンジしながら、そんなことお構いなしのスピードでリンクを突っ切ります。

すでに萌え尽きそうなくらい見どころいっぱいな状態で序盤の見せ場、ツイズルに入ります。曲的にも序盤の山場を迎えたこの小節を2回繰り返す編集をしています。

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ファ♯ーソが4回聴こえてくるので、曲を知っていると
「?なんか変?!」→「あ、ここ気に入ったのか(^o^)」という小さな楽しみもあります。
絶望感いっぱいのフレーズの後は、中間部は、希望の光が射してくるような、優しい曲調に変わります。

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演技もダイアゴナル・ステップシークエンス(ホールドした状態)で、2人の伸びやかなスケーティング、深〜いエッジワークが堪能できます。いつまでも見ていられる美しさですが、穏やかな時間が嘘だったかのように、曲もクライマックスに向けて急激に悲壮感が戻ってきます。

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楽譜の見た目も気も穏やかじゃないです(笑)。
演技も険しさを帯びてきます。

実際の曲とは異なり、チェロの駆け上がり前のフレーズを2回繰り返す編集がされています。
ここも「なんか違う?」となりますが、繰り返すことで溜めができて、駆け上がりのフレーズが威力を増して聴こえます。

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曲最大の山場での2人のスピードがたまりません! 背景が流れが速過ぎて、フェンスに広告を提供してる企業が気の毒になるレベルです。たっぷり加速して深いエッジでカーブリフト。

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曲終盤に、中間部の穏やかなメロディが不穏な和音を伴って影を帯びて再現されます。ここでのローテーショナルリフトは、シゼロンの上げ下ろしや、パパダキスの所作の一連がフワッと優雅で、山場での険しいリフトとまったく雰囲気が違います。

聴き慣れた『エレジー』を曲調の変化だけでこれ程までにクリエイティヴに彩ってしまうとは……。演技終了時には、感嘆のため息をついてしまいます。『ガブリエルのオーボエ』の時に、モリコーネが映画を音楽でデザインしている、みたいな話をしましたが、パパシゼは演技で音楽をデザインしているようで、楽曲とスケーティングがあれば他に何も要らない。そういう芸術の極みを見せつけられた気がしました。

アイスダンスを見るとフィギュアスケートを見る目も変わると思います。シングルしか見ない派の方にもおすすめしたい名演です!


(※1)不運なアクシデントにも関わらず、演技はとっても素晴らしかったです。テサモエ(テッサ・ヴァーチュ&スコット・モイア組)が気迫で更にその上を行った、という感じで、非常に見応えのある大会でした!

(※2)ガブリエルとガブリエラ
ガブリエル(Gabriel)は、元々は旧約聖書に出てくる天使の名前です。それにちなんで男性名に使われており、さらにガブリエルの女性名がガブリエラ(Gabriella)
 ガブリエル・ユルバン・フォーレ (Gabriel Urbain Fauré)
 ガブリエラ・パパダキス (Gabriella Papadakis)
ヨーロッパでは同じ名前。という扱いらしいです。そう言えば「のぞみ」や「なつき」も男女両方で使われますよね。何か成し遂げる(やらかす)人は名前から違うのかもしれません!(笑)

チェロの曲をフルートで

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そもそもの高さが全然違うのは言うまでもありませんが、オクターブ上げて、さらにアルフルートを加えても、音域の広さがチェロにはまったく敵いません。でもいい曲だからフルートで演奏したいんです(;_;)

どのみち、フルート1本だけだとブレスが苦しいので、2本でどうにかしてみよう!
→チェロのパートをフルート2本で単純にシェアすると流石に暇すぎてマヌケ
→オケ版があるじゃないか!!

ということで、チェロ版とオケ版、それぞれスコアと音源を行ったり来たりして、フルートとアルトフルートで再現してみました。とは言え、チェロが弾いていたベースラインをアルトフルートに当てていると、ピアノと高さが入れ替わって和音が馴染まなかったり……「フォーレはスレスレの音使いをしてたんだ!」と気付かされる箇所もありました。

 

演奏動画

kokoro-Ne YouTubeチャンネル
 
 

楽譜のご紹介

フルート、アルトフルートとピアノのための『エレジー Op.24 (G. フォーレ)』
上記動画から更に修正、改良を加えました。12/25(月)発売です。
製本版とダウンロード、2種類ご用意しています。

 

◆製本版
https://kokoroneshop.thebase.in/items/81150651

◆ダウンロード版
https://store.piascore.com/scores/238016

※どちらも楽譜の内容は全く同じです。

 

 
 
 
 
 
 

kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール

kokoro-Ne (ココロネ)
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。
クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。
2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。
TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
主な作品
・2009年 1st Album 「 kokoroーNe/ココロネ 」
・2013年 「 コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編 」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「 Microcosmos 」
同収録のオリジナル曲「 ミクロコスモス 」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「 kokoro-Ne Library 」を立ち上げ、これまでに30タイトルを超える楽譜を発表。続々と新作発表を控えている。

kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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