第1回 |「ソナチネ Op.36-1」
レッスン動画を参考に、 “自分とデュエット”しながら上達を目指す「録ってもデュエッツ」!!
みなさんこんにちは。おかげさまで「録ってもデュエッツ」は今号より第2シーズンの連載がはじまりました。第1シーズンではスタジオジブリの作品を練習してきました。今回からはピアノの「ソナチネアルバム」より編曲した曲を練習していきたいと思います。
「ソナチネアルバム」は、ピアノの練習では必ずといっていいほど使用する曲集です。収録曲は古典派の作品を多く収め、練習過程で自然とその音楽のニュアンスを取り入れられるようになっています。
そんなピアノの良い例にならって、フルートでもそれらの曲を練習していきたいと思います。第2シーズン全6回、どうぞよろしくお願いいたします。
ONLINEだけの"とってもコラム"も毎回更新します。動画と一緒にお楽しみください♪
M.クレメンティの『ソナチネ Op.36-1』は、ソナチネアルバムに進む過程で初期に練習する曲です。シンプルな構成の中に音楽の基礎がキュッと詰まっている一曲です。
Lesson
参考演奏
演奏:齋藤寛
「優しい忘却」
「涼宮ハルヒの憂鬱」というアニメをご存知でしょうか?
約1ヶ月前の京都アニメーション放火事件で見知った方も多いのではないでしょうか。多くの人に夢や感動を届けてきた方々が、なぜこんな最期を迎えなければならなかったのか。本当に悲しくて、やりきれなくて、残念で、犯人に対しては怒りを通り越した怒りしかありません。亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に、被害にあわれた方々の一刻も早い回復を願っております。
京アニの作品はどれも魅力的なものばかりです。中でも私にとって「涼宮ハルヒの憂鬱」は特別なものです。ストーリーを簡単に説明しますと、涼宮ハルヒという女子高生の周りに宇宙人や未来人、超能力者があらわれて、無自覚に世界を再編させてしまうハルヒの力を本人には気づかれないようにドタバタと処理していく話です。話の中心は、ハルヒの結成した部活「SOS団」。ハルヒにとっての偶然は、必然であり、思うことは具体化してしまうため、世界の常識に反しないようにSOS団が奔走します。過去の伏線から現代を有るべき方向へ導くために活動するわけですが、そこは、登場人物「宇宙人」、「未来人」、「超能力者」それぞれの思惑があり、各々が均衡を保ちながら物事の収束を図ります…
このストーリーの伏線で一番重要な話があります。なぜ、ハルヒの周りに異質な人たちが集まってきてしまったのか。そのキッカケとなってしまった七夕の夜に起きたある事件。
「校庭落書き事件」
小学6年生だったハルヒは七夕の夜に学校へ忍び込み校庭に大きな落書きをします。その落書きは、一見意味のわからない模様。しかし実は偶然にも宇宙語で書いた「私はここにいる」という言葉でした。
すべての出来事はこの落書きから始まります。宇宙規模の情報爆発は新しい秩序の様にハルヒを中心として集約をはじめました。(説明が雑把すぎるので興味のある方は原作をご覧になってください)
7年前はじめて録音音源をYoutubeに投稿しました。
「優しい忘却」は「劇場版 涼宮ハルヒの消失」のエンディングテーマです。今でこそこのように連載動画や参考音源、デュエット曲を多く公開していますが、当時はそんなアイディアもなく、ともかく「私はここにいることを知ってほしかった」のです。ユーチューバーという言葉がまことしやかにささやかれていた当時、ヒット映画の曲ということで、もしかしたら!という甘い期待もありましたが、そんな期待は一瞬で消失しました。世の中には面白い動画やハイレベルな演奏を公開している人達が五万といますからね。
大学を卒業して約5年。本当にフラフラしていました。あれもやってみたい、これもやってみたいと色々なものに手を出しては、結局何もモノにならず悶々として過ごす日々。そして、大震災。自分の無力さと音楽家としての存在意義をやっと真剣に考えはじめ、やはりちゃんと音楽を勉強したいと決意してグラーフの講習に参加し、本当に基礎から音楽の勉強をやり直しました。
ポピュラーソングの歌のメロディーは普段のエチュードやコンクールや受験の課題曲に比べれば音の数も少なく、音域も狭いし、単純に感じることもあり、譜面だけ見れば「難しくない」と判断できます。実際それまでは「簡単なもの」と高をくくって、軽く見ていました。しかし、そのメロディーを「歌」として演奏することは本当に難しいことです。上手に演奏できる、には様々な要素が含まれると思います。指が早く動く、強弱のコントロールができる、正確無比、など。楽器のテクニックは有るに越したことはないですが、音楽の本質を忘れてはいけません。すべては「歌」であり、それは「言葉」です。
なぜ、フルートの勉強をもう一度はじめたのに、この曲を録音したかと言えば、前に書きましたが、僅かな下心と、単純に好きだった、からです。映画館でこのエンディングが流れた時、ときめきました。今どき珍しく終始アカペラです。それが妙に心に染みて吹いてみたいと思ったんですね。
今も「私はここにいる」との思いで続けています。この作品に出会わなければ今の自分はいないと思います。京アニの作品に携わったスタッフの方々へ祈りと感謝を心より捧げます。
次回は、ベートーヴェンの『ソナタ Op.49-2 ト長調』よりAllegro non troppoです。
それではまた、次回お会いしましょう。ありがとうございました。
齋藤 寛 (さいとう・かん)
東京芸術大学卒業。フルート奏者、作編曲家。2011-2014年ザルツブルクモーツァルテウム音楽院マスタークラスにてP.L.グラーフ氏に師事。京都フランスアカデミーおよびパリにて室内楽をクリスチャン・イヴァルディ氏に師事。2013年「あまちゃんスペシャルビッグバンド」参加。フルート四重奏「宵待小町」主宰。主な著作「フルートデュオ名曲集25」、「ディズニーソング・デュエットコレクション」、「ジブリメロディー集」等。