サックス奏者 Tomo Takemoto Selection
サックス愛好家にはお馴染みのホームページおよびブログで、サックスにまつわる専門的でマニアックな情報を次々に発信しているTomo Takemoto氏。数々の貴重な逸品を所有する楽器やマウスピースの目利きでもある。アルトとテナーそれぞれの楽器本体とマウスピースの銘品について見解も聞かせてもらった!
サックス愛好家にはお馴染みのホームページ「tomosaxのマニアックなサイト」およびブログ「Tomo’s サックス徒然草」で、サックスにまつわる専門的でマニアックな情報を次々に発信しているTomo Takemoto氏。New York Queens College Jazz科 大学院修士課程修了という経歴を持つプロ演奏家であるとともに、音楽制作・配信会社やジャズスクールの運営も手がける才人だ。そして、氏は自らも数々の貴重な逸品を所有する楽器やマウスピースの目利きでもある。アルトとテナーそれぞれの楽器本体とマウスピースの銘品について、Takemoto氏の見解も聞かせてもらった!
Alto Saxの銘器
Yanagisawa A-991UL(アンラッカー)
セルマーマークVIの延長上にある楽器は良品が多数あるが、過去数十年でアルトサックスを別次元への移行に成功し支持されるヤナギサワのアルト。マークVIの音色をライフルとするなら、丸く太いバズーカ的な音が鳴る。高音が詰まる、高音から低音までの鳴りが均一でない、テナーよりは音が細く弱い、といったアルトの弱点を大きく改善し、現行品でニューヨークのアルトプレイヤーたちに圧倒的に支持されるモデル。ブラス製、銀製などの人気が高いが、ブラスのアンラッカーモデルは、特にアントニオ・ハートの2000年代の使用が有名で、枯れたジャズ的な音色とラッカーがないことでより管が振動し細かい表現がつくのが特徴。艶やかさを加えたい場合は氏のようにネックを金メッキにするのがオススメ。A-WOの1つ前の上位機種で受注生産モデルのA-991ULは、数十年後にはヴィンテージとして扱われることへの期待が最も大きいモデル。
SELMER Mark VI(アメリカンセルマー)
アメリカンセルマー マークVI #145XXX
セルマーマークVIの中で最も人気が高い14万台は直前の13万7千頃にデザインが変わることにより、低音の反応、鳴りの不均一さなどが大きく改善される。14万台の中でも刻々とデザインが変わり、音色や鳴りの大きさフィーリングも大きく異なるが、今まで選定などで数十本の14万台を吹いた中で、14万台の特に14万中期(5千、6千)のあたりが最もバランスが良いものが多い。上から下まで均一に安定して鳴ることはもちろん、14万後期よりもしっかりとしたキャラクーがあり洗練されている。またキャラクターがさらに濃い14万台初期よりもパワーと均一性に優れ、14万台の中ですべてにおいて最もバランスが良いのが特徴。
アルト用マウスピースの銘品
Vandoren V16
バンドーレンV16 A5M
様々な良いマウスピースが売られている中で、敢えて1つジャズ向きのモデルを挙げるとすればV16。NYメイヤーの流れを汲むマウスピースとして、ニューヨークのプレイヤーに最も支持されているモデル。基本的な音色の方向性はそのままに、高音が詰まる、音の跳躍の反応が悪いというアルトのマウスピースにありがちな難点を大きく改善。幅広いダイナミクスをもち、音色の幅も広いことで古いジャズはもちろんモダンなスタイルにも対応できる。音程のばらつきもヴィンテージよりもはるかに安定し、初心者でもメイヤーと比べると「太く大きな音が出る、楽器が良く鳴る、高い音もきれいに出る」と感じられることだろう。スモールチェンバーについては、数年前にs+にモデルチェンジして、以前より鋭く、明るいほうに音が寄ったため、それ以前のモデルが好まれ、特に2004年以前の初期のモデルの人気が高い。ヤナギサワアルトとV16は定番だが、マークVIタイプとも相性が良く使っている人も多い。
Dukoff D(砂けし太めモデル)
デュコフD(砂けし太め)
アルトの数多くあるヴィンテージの中でヴィンテージメイヤーと並び一世を風靡したデュコフ Dモデル。ハイバッフル系マウスピースの礎となる、数多くの現代のマウスピースに影響与えるデザインとサウンドが特徴。一般的には、黒デュコフなどとMiami時代をひとまとめにするような呼称があるが、その中でも実際には材質、長さ、太さなどかなりのバリエーションがある。特に内部が砂消しゴムのような材質感かつ太い個体は、暗い中に上品なハイバッフルの切れが加わった“あの”音色が特徴。マウスピースの安定性もさることながら、“通常”のMiamiモデルよりもやや大げさに言えば1.5倍ほど大きく鳴る。また、太いデザインゆえ、レコーディングでは拾いきれない音の太さ、厚みがあり、アコースティック的にも“通常”モデルとは大きく異なる。あの代表的アルト・ハイバッフルサウンドを奏でるデュコフの真骨頂モデル。
Tenor Saxの銘器
Wood Stone Tenor WST-SP(プロトタイプ)
※2020年受注製造予定
現行品テナーとしてはアメリカをはじめ、ジャズシーンで最も評価を受けているウッドストーンのテナー。現代の楽器では、鳴りが大きい、明るいフォーカスされた音色、それなりの重さをもつ楽器が多数を占める中、ヴィンテージのフィーリングと、枯れた音色、楽器のヴィンテージ的な軽さの再現など細部にまでヴィンテージテナーを感じさせる唯一の現行のモデル。ヴィンテージのテナーで最も難しい、SBA(スーパーバランスドアクション)のような鳴りを保ったままフォーカスされていないボワッとした“ぼけた”音色を、このシルバープレートモデルのみ特に低い音で、再現に成功している。即ち、現行品モデルの中でヴィンテージ的丸い音色を持つ唯一の存在。しかもSBA同様、シルバーの効果で低音の反応も非常に軽く、落ち着いたシルバーの太い音が非常にジャズ的。強く吹くとややパワーも出るが、通常のダイナミックレンジで最もヴィンテージ音色に近いぼけた音が魅力。
SELMER Mark VI(アメリカンセルマー)
6万台中・後期(6万4000〜7万3000)
6万8000番台のアメセル マークVI
SBAと並んでヴィンテージテナーの王道であるマークVIだが、SBAの完成度を高めてマークVIとなったことを考えると、機能面で分のあるマークVIを選びたい。そのバリエーションの豊かさからどの番手がベストかというのは用途によるが、SBAからの流れであるビバップ・ホーンに重きを置いた時、SBAの完成形として6万台(中期〜後期)が最も優れていると考える。6万2000番頃、一度モデルチェンジしてデザイン的に本当の意味でマークVIになり、低音の軽さや音色の利点を残しつつ、音の均一性、安定性、太さの点で大きく飛躍し、最もジャズ的で機能面も優れているといえる6万中期。強く吹いても音に張りが出にくいのはこの頃までで、その後徐々に古い音色が失われ、低音に太さ、音色に張りが出てくる。その意味で6万中期の魅力はビバップの用途に唯一無比と感じさせ、ビル・エヴァンス氏のようにガーデラを合わせても、軽く現代的に使うことができるのも魅力だ。
テナー用マウスピースの銘品
10年間生き残ったモデルすべて
学生時代スティーヴ・ウィルソン氏に「マウスピースの評価には10年かかる」と言われた。10年以上市場から消えずプレイヤーに使われ続けているモデルは多数ありますが、そのようなモデルは使われ続ける理由があり、そして次のヴィンテージにつながる。現代では多くのマウスピースが新しく発売されるが、その多くは素晴らしいものである。スタイルや革新性がこれから評価される、あるいはその進行形だが、“10年生き残ったモデル”それらすべては、使う人にとって将来の銘器となりうるだろう。それゆえ、敢えて1つのモデルではなく、個々の方々にとってそれぞれそのようなマウスピースが銘器と考える。
Guardala Brecker SPC(スペシャル)
ガーデラ ブレッカー SPC
オットーリンクの偉大さを別格とすれば、音色、スタイルの面で過去40年でデュコフと並び最も大きな功績がある言わずと知れたガーデラ。アメリカンセルマーの5桁番台後期テナーと組み合わせたその音のイメージは、マイケル・ブレッカー氏そのものといっても過言ではなく、現代的テナーサックスの定番といえるほどの圧倒的な音色、スタイルを奏でるのに必要なマウスピース。量産型はブレッカーI、ブレッカーIIというモデルがあるが、シャア専用ザクともいえるSPCモデルは本人のために作られた専用モデルで、量産型のはブレッカーI、IIとはバッフルの高さ、滑らかさが大きく異なる。私の知る80年代SPCとブレッカーIIを比べると、量産型より高いほうに重心が置かれ、フラジオなど高音域の安定性が高い。また、音域にわたる均一性があり、異なる音域でも同じように吹ける点で量産型よりも音にさらに一貫性がある、まさに伝説のハイバッフルマウスピースといえる。