第11回 A.デザンクロ「プレリュード、カデンツとフィナーレ」
第7回アドルフ・サックス国際コンクール第1位を受賞し、国内外で活躍の場を広げているサクソフォニスト 齊藤健太氏と、室内楽奏者として絶大な信頼を得ているAKI マツモト氏による「サックス名曲! アンサンブル道場」が好評連載中です。
この連載の特徴は、サックス奏者からの目線にプラスしてピアニストからのアドバイスも掲載していること。またこの連載を動画で、演奏を交えながらYouTubeで配信してくれることです。
クラシックの楽曲の中で超定番と言われる楽曲を取り上げていきます。
第11回はアルフレッド・デザンクロの『プレリュード、カデンツとフィナーレ』です。
そして今回はなんと!
デザンクロの『プレリュード』と『フィナーレ』のピアノ伴奏が付録としてダウンロードできます。
ピアノはもちろんAKIマツモトさん。
解説を読んで、実際に吹いて楽しんでください♪
誌面では今回も齊藤さん、AKIマツモトさんが丁寧にわかりやすく解説してくれました。
例えば……
●健太 走ってしまうかそうでないかの違いは、ピアノパートをきちんと勉強しているかどうかです。ピアノの8分音符の動きを把握して、しっかりと聴くこと。
あまり動きがなかったピアノがここで初めて8分音符を弾いていますよね。ピアノパートはここまで細かくても付点4分音符までしか出てこず、後ろで響いているという印象を持つ人もいるかもしれませんが、そもそも最初からピアノは重要なところで鳴っています。2、3、5小節目の頭など動きの肝になる部分で弾いているので、流れの中にピアノを取り入れれば、11小節目でびっくりすることはありません。常にピアノとアンサンブルをして進んでいくと、このピアノの8分音符がよく聴こえてくるはずです。
●AKI ピアノを勉強するということは、ピアノがどこで入ってくるかをあらかじめ想像して吹くということですよね。あらかじめここで8分音符が出てくる、と想像しておくと走ることもありません。
(本文冒頭11小節目解説より)
このように、1曲を通してサックス、ピアノの両者の目線で解説してくれています。
憧れの曲にじっくり取り組んでみてください。
本誌では動画にはない「健太とAKIのよもやま話」も人気コーナーです。
今回は誌面に掲載しきれなかったよもやま話を特別にONLINEで公開します♪
♪ジャズのイントネーションを徹底的に
●AKI 2022年末にYouTubeを収録しましたよね!
この号を発売する時には公開できているかは微妙なところですが、挾間美帆さんの『秘色の王国』を収録しました。いかがでしたか?
●健太 超難しかった。まず、音を覚えるのが非常に難しい。
●AKI クラシックのスケールじゃないですからね。
●健太 見たことない音列だったから、それを覚えるまでがとても大変で。覚えないと指もすらすら動かないし。 とくに3楽章のアドリブの途中から、ピアノを聴いても意味がない、っていうことを理解するまでにすごく時間がかかりました。
●AKI 聴いても意味がない、とは?
●健太 もちろん、聴かなきゃいけないんだけど。ピアノに拠り所を求めてはいけないというか。拠り所を求めようとすると、不安になって吹けなくなってしまう。 自分で、「自分はこうやります、このテンポでこう行きます」と腹を括っていかなきゃいけない、ってわかるまでは大変だったなぁ。それまではピアノに拠り所を求めていたので。
●AKI 普通の曲だとそうですからね。ピアノと2人で一つ的な感じだから。
●健太 噛み合う部分を必ず求めるでしょう。
●AKI そこを一つの軸として、普通はやりますからね。
●健太 それがない、ってわかったらのでだいぶ楽になったけど。 ないならないで、そうするしかないんですよ。 普通のクラシック曲ではまずそういうことはありません。それを理解してそういうふうにするってすごく難しかった。なんでできないんだってめっちゃ思い悩んだし。
みなさん、『秘色』の3楽章を練習する時は、アドリブの終わりからテーマに戻ってくるまでは、ピアノのリズムだけを聴いてください。 自分で音楽を作って、発展させて完結させるというのが大事。わりとフリーに吹いているつもり、でもテンポ感だけは合わせる。このような感じですね。
●AKI 『秘色』は、前回の管打コンクールの3次予選の選択に入っていましたよね。
私は3次は3人伴奏させてもらって、コルニオ1人、秘色2人でしたが、他にはブートリー、カブキ……など色々あった中で、『秘色』をそれらの曲と同じ土俵においてコンクール審査するということは、曲のテイストが違うから審査するほうも審査されるほうも難しさはあったと思います。健太さんが審査するんだったら、どういうふうな感じで聞くのかなと思って。
●健太 その曲のスタイルをちゃんと理解して吹いてるか、一番大事なこと。 『秘色』はクラシックじゃないからね。ほら、一昔前はクラシック科の子がジャズを吹いてたら白い目で見られる……みたいな風潮も少しはあったじゃない?
●AKI 確かに。
●健太 今はもうそうじゃないから。課題曲でこういうものが出てきているから、むしろ奏法も知ってないと。 そういう曲を選んだのであれば、思い切りそっち側に舵を取っていかないといけないと思うんですよね。
アーティキュレーションをちゃんとジャズの形に変えるとか、ゴーストトーンを作ってあげるとか、イントネーションをジャズに寄せているかどうか、とか。
●AKI 3楽章は音が多いから並べるのだけでも大変ですが、このフレーズはどう吹いたからかっこいいかな、と考えてることがスタイルを考えるっていうことですかね。
もし健太さんが管打コンクールのコンテスタントとして『秘色』を演奏するんだったら、どういうアプローチで持っていきたいですか?
●健太 おそらくやり方としては変わらないかな。YouTubeで吹いている演奏の形で出すとは思います。(スイジャズ系のアプローチをすることに)最初はもちろん躊躇もあるだろうなとは思うけど。でもそういうものだ、と割り切ってやらないと、曲の魅力を出せません。
●AKI 思い切りの良さが、ほかの曲に比べると必要になってきますね。
●健太 クラシックの曲を選んだならクラシックだけ勉強すればいいけど、『秘色』を選ぶのなら少しはジャズもかじっておかないと、そのニュアンスは出てきません。
●AKI 実際に聴きにに行ったり、自分でも少し吹いてみると良いかもしれませんね。
●健太 俺がもしこの曲をコンクールで選んだとしたら、ジャズの先生にレッスンを受けに行くと思う。アドリブは取れなくてもいいので、イントネーションを徹底的に教えてくださいって。
●AKI そういうことも大事ですよね。
その曲をやるにあたってなんの要素が必要なのか。そういうのを考えていくと、ただ音を一生懸命並べてっていうよりは楽に吹けるっていう部分もありますよね。
●健太 これが今回のデザンクロの話につながってきますが、結局どの曲もスタイルがわかっていなければその曲を楽しむこともできないし、無理がある状態で進むことになる。(無理があると)違和感がある状態でやらないといけなくなる。 だからスタイルをきちんと勉強すると、出ている音だけじゃなく演奏している自分も楽になります。
皆さんもぜひスタイルを勉強してみてくだい。
●AKI YouTubeの『秘色』も何回も繰り返し見てくだいね。 今年もどうぞよろしくお願いします!
齊藤健太(Sax)
第7回アドルフ・サックス国際コンクール第1位、及び新曲賞受賞。2002年の故・原博巳氏以来、日本人2人目となる快挙を成し遂げる。洗足学園音楽大学を卒業、同時に優秀賞を受賞。東京藝術大学別科修了。第31回及び第34回日本管打楽器コンクールサクソフォーン部門第3位。第9回国際サクソフォンコンクールノヴァゴリツァ(スロベニア)第2位。2020年6月、CAFUAレコードよりデビューアルバム「凱旋-GAISEN-」リリース。これまでにサクソフォーンを金井宏光、二宮和弘、須川展也、池上政人、林田祐和の各氏に、室内楽を池上政人、有村純親の各氏に、ジャズサクソフォーンを佐藤達哉、MALTAの各氏に師事。洗足学園音楽大学講師。
AKIマツモト(Piano)
東京藝術大学音楽学部附属音楽高校、東京藝術大学器楽科卒業。アンサンブルピアニストとして須川展也、齊藤健太、上野耕平、住谷美帆を 始めとする日本を代表するサクソフォン奏者と共演多数。2018年「第9回 スロヴェニア国際サクソフォンコンクール」優勝の住谷美帆氏、2019年「第7回アドルフサックス国際コンクール」優勝の齊藤健太氏の伴奏を務める。「第9回スロヴェニア国際サクソフォンコンクール」公式伴奏者。TV朝日「題名のない音楽会」、BS日テレ「恋するクラシック」、NHK-FM「リサイタル・パッシオ」等メディア出演。2020年5月オリジナル 曲による1stアルバム「Back to the Moon」リリース。
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AKIマツモトさんが演奏するアンリ・トマジ『バラード』のピアノ伴奏音源がダウンロードできる!
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齊藤健太
Kenta Saito
東京都出身。2015年、洗足学園音楽大学卒業、同時に優秀賞を受賞。2017年、東京藝術大学別科修了。第31回及び第34回日本管打楽器コンクールサクソフォーン部門第3位。第27回大仙市大曲新人音楽祭コンクール管楽器部門最優秀賞、並びに審査員推薦を受ける。
9th International Saxophone Competition Nova Gorica 第2位。2019年、第7回アドルフ・サックス国際コンクール第1位。洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団とH.トマジのサクソフォーン協奏曲で共演(秋山和慶指揮)。これまでにサクソフォーンを金井宏光、二宮和弘、須川展也、池上政人、林田祐和の各氏に、室内楽を池上政人、有村純親の各氏に、ジャズサクソフォーンを佐藤達哉、MALTAの各氏に師事。Saxophone Quintet “Five by Five”では「KENTA」として活動。ブリッツフィルハーモニックウインズ、コンサートマスター。