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誕生から20年を迎えた至高の銘器に魅了されたヴィルトゥオーソたち
上野耕平×住谷美帆 華のあるキャラクターで愛される若手実力者対談
師である須川氏を通じて初めて出会った875EXに感じた衝撃
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お二人の、現在に至る使用楽器の遍歴を教えてください。
上野
小2で吹奏楽を始めて(「早い!」という声)、小3でヤナギサワのエントリーモデルを買ってもらいましたが、中1で参加したキロロのサックスキャンプで初めて須川先生に習った際に、先生の楽器(YAS-875EXG)を吹かせていただいてびっくりして、買い替える機会があった時にYAS-875EXに替えて芸大1年まで吹きました。その後YAS-875EXGに替え、2019年の10月に第二世代のYAS-875EXGを買って今も使っています。ソプラノは中1からセルマーのシリーズⅢでしたが、大学1年でそれを売ってYSS-875EXを手に入れ、2015年4月にYSS-875EXGに替えました。
住谷
最初はヤマハYAS-23やビュッフェ・クランポンのS1、セルマーSA80など借り物や備品をいろいろ吹きましたが、中2でセルマーのシリーズⅢを買ってもらい、それをずっと吹いていました。ですが藝大1年の時に、その楽器を地面に落としてしまい入院させなければならなくなり、須川先生の部屋に置いてあったサブのYAS-875EXGをお借りして吹いた時に、これだ!と思ったんですね。それ以来、この楽器をとても気に入って吹いています。
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お二人とも、ヤマハの875EXGを吹いて驚かれたことが転機になっているんですね。何がそれまで吹いていた楽器と違ったのでしょう。
上野
人間味と暖かさ、ですね。今でも覚えています。中音域のド、シ、ラ辺りの、サックスで一番鳴らしづらい音の豊かさと丸い音がとにかく凄かった。
住谷
私も中音域ですね。私はそれまでソロコンの講評などで、上と下はきれいだけど中音域が……みたいなことをずーっと言われ続けていたのですが、いきなり自分の理想の音が出てしまったようでした。音程も何も小細工が要らないし、今までの苦労は何だったの、という感じでしたね。
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EXではなく、金メッキのEXGを選択した理由は何ですか。
上野
表現力の豊かさ、ですね。金メッキはパワーが出る、と思われがちなんですが、それだけではなくて、弱音も含め全方向への音の通り方が全然違うんです。特にソプラノには、低い倍音が豊かに鳴るという、ヴィンテージ楽器に通じる稀有な美点があります。
住谷
そう、広いコンサートホールでの音の通り方がまるで違いますね。ピアノともよく溶け合います。
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上野さんはYAS-875EXGの、第一世代と2015年モデルチェンジの第二世代の両方を吹かれてきたかと思いますが、何が変わりましたか。
上野
より人間と音楽との距離が縮まった、という一言です。一筆書きで音楽をするように、余計な気を遣わずに音楽表現に没頭できます。正直、第一世代は低音域に少し難しさがありましたが、そこが劇的に改善されました。僕は古楽器を吹くことがあるんですが、そういうテイストすら備えています。
これ1本でどの時代にも行ける!
上手くなるを超えたレベルに連れて行ってくれる!!
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YAS-875EXGという楽器が、自分の欠かせない相棒だと感じる理由や、そういうエピソードがあったら教えてください。またこの楽器によってご自分の新しい表現や新しいテクニックが引き出された、と感じたことはありますか。
上野
これ1本あればどの時代にも行ける、というところですね。バッハもクラシックも現代も、様々なスタイルを吹き手のさじ加減一つで1本の楽器で、しかも奥深く表現できること。それを実感しています。
住谷
ヤマハに替えた際の決定的なきっかけが、オーケストラスタディでした。オーケストラの中で吹くのって、いわゆるサックス的な曲とは全く違うコントロールが要求されますが、ヤマハはそれに全部応えてくれるんです。ただ上手くなる、というレベルを超えた『その上』に連れて行ってくれる楽器だ、と直感しました。その時初めて、私は一生サックスを吹いていきたいと強く思いました。
上野
オーケストラと言えば、コンチェルトを吹いてその後すぐオケの中に入って吹く、みたいな本番がよくあるんですが、リードを替えずにいけます。そこまでコントロールできるんです。
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お二人は、ぱんだウインドオーケストラでは一緒に演奏されていますが、お互いの演奏についてどう思っていますか。
上野
僕に合わせるのに苦労してるだろうな、と思います。毎回吹き方が違うらしいです(笑)。
住谷
それだけ違うアイディアがあるのは凄いんですが、ホントに違うんです。多重人格みたいに。
上野
決して適当にやってるわけじゃないんですが(笑)、違うからこそ面白いと思っています。コンマスはいろいろな人に信号を発したり、時には指揮者をけしかけたり、自分のパートまでなかなか目配りできないんですが、住谷さんはよくフォローしてくれています。それにしても住谷さんはこの2~3年で化けるように成長しましたよ。隣で感心しています。
住谷
上野さんもどんどん音が良くなっているのが分かります。別の自分になることを怖がらない。昔とは別人のようになって、世の中のほうがむしろそれを追いかけているようなところもあります。
世界に出たい! 聴く人の耳をもっと広い世界に開かせたい!!
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今後、この楽器とともにどんなことにチャレンジしていきたいですか。
上野
世界に出たい! もっと海外での活動を増やしたいですね。そして、変な言い方ですがアンチがもっと増えてほしいですね。有り難いことにお誉めの言葉はたくさんいただくんですが、否定的な意見をもらうことが滅多にないんです。もっと賛否を呼ぶようなセンセーショナルな演奏をしたい。そのためには自分というものをもっと鋭利に出していっていいのかなと。
住谷
サックスという楽器はヴィブラートをかけて良い音で奏でれば、それだけで満足させてしまうところがあって、ある意味有り難いんですが、聴く人の耳をもっと広い世界に連れて行きたいんです。そのためにも楽器というものを超えた表現をしたい。他の楽器のプレイヤーにはそれができる方がいますよね。
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最後に、まだ吹いたことのない人にYAS-875EXのおすすめポイントを教えてください。また、どんな人や奏者に使ってほしいと考えますか。
上野
最も重要なポイントは、演奏する人の身体の一部になってくれる楽器だということですね。そして工業製品でありながら人間味がある。だから楽器ではなくて演奏者自身の個性が表れるんだと思います。そして何よりも、お求め安い! 今の時代、世界の最高級品がこの値段というのは他に無いですから。
住谷
音程が良くてコントロールしやすく、変な替え指も要らないから、上達が早いんじゃないでしょうか。大人になって、何年も触っていなかった楽器を再び始めよう、という人にも試してみてほしいですね。きっとびっくりすると思いますよ。
上野耕平が愛用するYAS-875EXG
住谷美帆が愛用するYAS-875EXG
登場するアーティスト
上野耕平
上野耕平
Kohei Ueno
茨城県東海村出身。8歳から吹奏楽部でサックスを始め、東京藝術大学器楽科を卒業。日本国内では早くから頭角を現し、学生時代にデビューを果たす。第28回日本管打楽器コンクールサクソフォン部門において、史上最年少で第1位ならびに特別大賞を受賞。2014年には世界最高峰サックスコンクール、第6回アドルフ・サックス国際コンクールにおいて第2位を受賞。2016年のB→C公演では、全曲無伴奏で挑戦し高評価を得ている。常に新たなプログラムにも挑戦し、サクソフォンの可能性を最大限に伝えている。CDデビューは2014年「アドルフに告ぐ」、2015年にはコンサートマスターを務めるぱんだウインドオーケストラのメジャーデビュー、また2017年にはThe Rev Saxophone QuartetのデビューCDをそれぞれリリース。第28回出光音楽賞受賞。現在、演奏活動のみならず「題名のない音楽会」、「報道ステーション」等メディアにも多く出演している。昭和音楽大学非常勤講師。The Rev Saxophone Quartet、ぱんだウインドオーケストラコンサートマスター。