サックス記事 新天地でサクソフォーンの祭典が開催!
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第38回サクソフォーン・フェスティバル 2019年3月10日(日)

新天地でサクソフォーンの祭典が開催!

REPORT

平成最後のサクソフォーンフェスティバルが大田区民ホール アプリコで開催された。今回の実行委員長は日本で初めてサクソフォーン領域での博士号を取得した佐藤淳一氏。昨年までとは会場が変更されたものの、催しの充実ぶりは健在だ。

2002年の第22回開催以降、東京都多摩市のパルテノン多摩で開催されることが恒例となっていたサクソフォーンフェスティバル。「サクフェス=パル多摩」の印象で愛好家の間に根付いているこのフェスティバルだが、パルテノン多摩の改装工事の関係で、今年は会場を移して開催された。
ホールの玄関をくぐり、大ホールの入口がある2階で受付を済ませると、すぐ目の前に楽器メーカー各社の展示ブースが広がる。それぞれの目玉商品に参加者たちは興味津々の様子だ。

 

各社の最新モデルが並ぶ (▲画像をクリック)

 

メイン会場となる大ホールでの最初のプログラムは、毎年恒例の音楽大学によるアンサンブルステージ。管弦楽からの編曲が大部分を占め、どの大学もサクソフォーンならではの鮮やかな響きを発揮して個性豊かな演奏を繰り広げた。

華やかな演奏の裏で注目を集めたのが、サクソフォーン音楽研究の権威、ポール・コーエン教授によるダール作曲『協奏曲』のレクチャーだ。


コーエン教授によるレクチャー。楽譜の展示も行なわれ、参加者たちが覗き込む場面も

クラシックのサクソフォーンを専門に学ぶ上でよく取り上げられるこの曲は、出版の際に大幅なカットを含む改訂が施されており、しかもオリジナルの楽譜は作曲者によって破棄されていた。
その幻の原典版をどのような経緯で演奏するようになったのか、出版譜と比較してどのような相違があるのか、演奏者自らが解説するという貴重な機会が設けられたのだ。
聴講生には学生からプロ奏者まで顔を揃え、質疑応答では鋭い質問も飛び出した。またとないチャンスを逃すまいと、終了後も熱心な参加者たちが教授と言葉を交わしていた。

午後はジュニア・サクソフォーン・コンクール優勝者による高校生離れした演奏と、スロヴェニア国際コンクールで見事優勝を果たした注目の奏者・住谷美帆による歌心に溢れた演奏が披露された。
A会員によるステージでは、田村真寛と本堂誠という珍しくも強力なタッグがベルノーの『ソプラノ・サクソフォーンとバリトン・サクソフォーンのためのソナタ』でたった2声とは思えない濃密な世界を展開した。
入れ替わりで松下洋が率いるRock'n Saxが登場。PAを通した大音響で、最前列には熱烈なファンも詰めかけ、サクソフォーンフェスティバルとしては異色の熱気に包まれたライブが繰り広げられた。
なお、この一連のステージは管楽器奏者の登竜門として知られる日本管打楽器コンクールの入賞者で占められており、国内の若手奏者の才能の豊かさが証明される場となっていたことは、注目に値するだろう。

 

午後の部(▲画像をクリック)

 

しばしの休憩を挟んで、再び舞台は大人数の演奏へ切り替わる。学生からプロ奏者のオールスターで編成される、フェスティバル・オーケストラだ。2019年が没後30年となる芥川也寸志の『弦楽のための三章』で、生命力に満ちた芥川の世界観が豊かな音色で表現された。続いて毎年恒例、客席を巻き込んでの大合奏へ。事前に配布されたパート譜を使い、舞台と客席が一体となって大迫力の合奏となった。

フェスティバルのフィナーレを飾るのは、吹奏楽とサックスによる協奏曲のステージだ。2曲がプログラミングされ、どちらも日本初演となる。まずは先述のコーエン教授をソリストとして迎えた、ダール『アルト・サクソフォーンのための協奏曲』。いわゆる「原典版」とも呼ぶべきこのバージョンの演奏はコーエン教授にしか認められておらず、他に得がたい機会となった。教授はこの曲の被献呈者であるドイツの伝説的奏者、シガード・ラッシャーの門下ということもあり、その音色は日本の奏者とは大きく異なる。きわめて高度な技術を要求するこの作品をラッシャーの伝統を受け継ぐ音色で聴けたことは、参加していた学生やプロ奏者に大いに刺激となったことだろう。

ダール『アルト・サクソフォーンのための協奏曲』の完全版日本初演
ダール『アルト・サクソフォーンのための協奏曲』の完全版日本初演。世界的にも珍しい機会だ

2曲目は2017年に世を去り深い悲しみを残した、マスランカの最後のサクソフォーン作品『サクソフォーン四重奏と吹奏楽のための協奏曲』。マスランカの作品といえば国内では「雲井雅人サックス四重奏団」が積極的に取り上げており、彼らが真っ先にソリストとして連想されるだろうが、今回のソリストを務めるのは高い実力とエンターテインメント性を兼ね備えた活動をしている「Quatuor B」。こういった意外な組み合わせを楽しむことができるのも、このフェスティバルの醍醐味だ。

 

演奏時間35分の大作に挑む「Quatuor B」(▲画像をクリック)

 

バッハをオマージュした旋律を用い、独特のオーケストレーションで神秘的な響きを生み出すのがマスランカの作品の特徴で、演奏時間も長く、高い集中力が必要とされる。Quatuor Bは安定感のある吹奏楽の伴奏をバックに、この作品の深遠な世界を描ききった。
演奏後はコーエン教授とQuatuor Bの面々がそろい踏みし、満場の拍手と共に舞台は幕を下ろした。


熱演を終え、健闘を称え合うソリストたち

昼間から始まったこのフェスティバル。終演後にはすっかり夜になり、サックス吹きたちは充実感とともに会場を後にするのだった。次回、第39回は2020年3月15日(日)に武蔵小金井(東京)の宮地楽器ホールで開催予定。詳細は決まり次第、日本サクソフォーン協会のホームページで発表される。


あたりはすっかり暗くなり、サックスを担いで帰路につく。また来年!
登場するアーティスト

本堂誠
Makoto Hondo

2012年、東京藝術大学音楽学部器楽科を卒業し同大学院に入学。
同年11月に渡仏し、パリ国立高等音楽院第一課程に入学。サクソフォン科、並びに室内楽科を最優秀の成績で修了。在学中アムステルダム音楽院へ短期交換留学し研鑽を積む。
ソリストとして2013年第7回スロヴェニア国際コンクール、2014年アドルフサックス国際コンクール(フランス)ソリスト部門、2015年第2回アンドラ国際サクソフォンコンクールの3つの国際コンクールで優勝、2017年第34回日本管打楽器コンクール第1位、および内閣総理大臣賞、特別大賞、聴衆賞等を受賞。2018年度 第56回レコード・アカデミー賞 特別賞を受賞。
室内楽においては2017年第9回大阪国際室内楽コンクール管楽部門で日本人として初めてとなる第2位受賞、また現在ブルーオーロラ サクソフォン・カルテットのバリトン奏者。
これまでにサクソフォンを冨岡和男、池上政人、原博巳、クロード・ドゥラングル、クリストフ・ボワ、アルノ・ボーンカンプの各氏に、室内楽を中村均一、貝沼拓実、ヘスン・カン、棚田文紀、イェンス・マクマナマ、ラズロ・ハダディの各氏に師事。
2015年度から2017年度までヤマハ音楽振興会留学奨学生、フランスにおいてロールデュラン財団、メイヤー財団より助成を受ける。
洗足学園音楽大学非常勤講師。

 

 

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