サックス記事 世界のサックス製造を支えてきた歴史ある台湾メーカーブランドLC saxophone に迫る
サックス記事 世界のサックス製造を支えてきた歴史ある台湾メーカーブランドLC saxophone に迫る
Gear Report from Factory │ LC saxophone

世界のサックス製造を支えてきた歴史ある台湾メーカーブランドLC saxophone に迫る

世界のサックスや管楽器を製造するメーカーが多く集まる街がある国、台湾。輸出産業はパソコンや半導体だけでなく楽器の世界でも生産大国のひとつと呼ばれ、世界の工場としての地位を確立する。その最初の源流となったメーカーが今回紹介するLC(エル・シー)サクソフォンだ。1945年創業の長い歴史は、その昔、実は日本との関係から生まれたという。世界の大手メーカーのサックスを作る時代を経て、いまは自社ブランドを海外展開するLC。技術力のあるメーカーならではの品質と豊富なラインナップを併せ持つ。日本では知られていないサックスメーカーの歴史を紐解きながら注目されるモデルもあわせ検証しながら紹介していこう。

取材協力:LC サクソフォン

“サックスや管楽器メーカーが集まる街”と呼ばれるその源流。

サックスは管楽器の中で歴史が浅いとされるが、今では多くのメーカーがあり、最新モデルもヴィンテージも人気があるのが特徴なのはご存知だろう。世界市場のサックスに目を向けると、サックスの輸出量ではフランス、日本に次いで世界3位という世界水準で楽器を製作していたのが台湾である。70〜80年代には二十数社のメーカーがあり、90年代以降は中国の台頭により品質の高い十社前後となったが、そのほとんどが実は、台湾中部に位置する后里(ホウリ)という街の工場で生産されている。

その歴史は、約80年前に遡る。音楽が好きでジャズバンドを組んでいた張連昌(チャン・リェンチェン)氏。LCサックスの創業者であり、後に『台湾サックスの父』と呼ばれるチャン氏は、当時日本に留学していた友人が持って帰ってきた高価な外国製サックスの音に魅了されたが、ある日火事で焼けてしまったという。この楽器を譲り受けたチャン氏は、サックスの音色の秘密を解き明かすべく、一つひとつすべての部品を分解し、半年かけて精密な画でスケッチし、手作りで金属を新しい部品に加工。組み立てを研究し3年がかりで独自のサックスを作り上げることに成功する。この第一号が台北で高値で売れるほどしっかり作ることができたことで、楽器づくりがスタートする。そのノウハウを自身の工房以外の周辺にもどんどん教え、農業中心だった街に新たな産業を根付かせることとなった。

大手のサクソフォンを製造し、技術力を高める

管楽器工場を牽引したLCサックスは技術力、生産力を評価され、ある世界の大手メーカーから受注を受けることになる。ここで世界基準の品質に向き合いさらに向上することで、LCの製造技術が大手メーカーの製品として世界中の楽器店に並べられるまでに成長した。

全モデルにハイエンドモデルのspecが施されハンドメイドで丁寧に仕上げられている

長年の製造技術から安定した高品質基準の楽器へ

この大手メーカーへの高い品質基準に応える製造技術と安定した生産工程やノウハウを用い、カスタム受注生産OEMや提携を進める中で製造輸出産業に対し国の後押しもあり世界各国の楽器作りと連携する形で発展していった。ここでも設計、材質、サウンドの改良に取り組むことで、幅広いニーズに対応することも可能となった。このOEMでの受注生産と、さらに自社ブランドの展開を進め、新しい素材での楽器作りにも挑戦、2013年には材質98%のレッドコパーを用い商品化[A-703]や、翌2014年にはシルバーアロイと白銅のキュプロニッケルでつくったアルトモデル[A-704]における製造技術が評価され台湾エクセレンス賞を受賞する。

しかし受注生産と自社と2つの製造工程を進める上で、生産品質は維持できるが、ブランド展開においては他社との差を埋めることができず、自社ブランドだけのラインにシフトチェンジすることを決める。ここからプロ奏者にも多く使われるようになり、いまではフランス、ドイツを始めヨーロッパ、北米、アジアへと海外展開を中心としている。

HISTORY of
GENERATION

創業から4世代に渡り
受け継がれてきたサックスづくり

創業者のチャン・リェンチェンが台湾で楽器を修復して組み立てたのが始まり。この技術を街全体に広め、数あるサックス工場へと発展させ『台湾サックスの父』と呼ばれる。その製造技術を評価され、海外の大手メーカーのサックス製造に携わる2代目張文燦の時代を経て、3代目の張宗瑤は技術力を活かし自社ブランドモデルに力をいれ世界へ輸出するようになる。そして、サックスカルテットの演奏にも取り組む姉妹四人へと受け継がれる。

本社にはLCサックスが運営するサックスの博物館とホールがあり、サックスの歴史紹介や仕上げ違いの楽器がたくさん飾られている。

LC
SAXOPHONE

BRAND Series
6 LINEUP

材質/仕上げ違いのシリーズ

豊富なモデルラインナップ

左からラッカーシリーズ、アンティークサテン仕上げ、ブラックニッケルプレート、ゴールドプレート、ヴィンテージ仕上げ、そしてカーボンファイバー製のキィとコパーの仕上げ違いで6つのラインナップがある。 海外輸出産業の技術力が認められ台湾エクセレンス賞を3つのモデルで受賞している。

  • SPLENDENT

    スプレンデント

  • AURORA

    オーロラ

  • OBSIDIAN

    オブシディアン

  • HERO

    ヒーロー

  • VINTAGE

    ヴィンテージ

  • PIONEER

    パイオニア

嗜好にあわせて材質の違う多彩なモデルをラインナップ

音楽ジャンルやシーンのニーズに合わせたサウンド感を作るため、金属マテリアルの成分配合比率の研究や工程の見直しなど無駄な製造コストを下げながら、音色や吹奏感と機能性などサウンドパフォーマンスへも市場の要求に応えてきたわけだ。このノウハウと製造ラインがあるため価格も抑えることができるという。

現在は、材質や仕上げの違う代表的な6つのシリーズでラインナップを展開する。

ラッカー仕上げのスプレンデントを始め、アンティークサテン仕上げのオーロラ、ブラックニッケルプレートのオブシディアン、ゴールドプレートのヒーロー、そしてヴィンテージシリーズと、パイオニアがある。このパイオニアは世界で初めてカーボンファイバーをキィパーツに用いてサックスの全体的な軽量化、操作性の向上、摩耗や変形の少ない安定性を追求する革新的な挑戦が評価され2018年には再度、台湾エクセレンス賞を受賞したモデルである。

この頃から日本での販売にも動いていたが、コロナにより見合わせを余儀なくされ、現在は再び日本国内での販売開始に向けて調整をしているとのことだ。

豊富なシリーズ展開をするLCサックスだが、楽器自体のサウンド、吹奏感や性能について詳しくアルトのスプレンデントシリーズの5つのモデルと合わせて紹介していこう。

 

注目のアルト5機種

各モデルの特性を検証比較。

スプレンデントシリーズ

SPLENDENT series

701GL│702GL│703GL│704GL│705GP

素材や仕上げの違う6つのブランドシリーズのうち今回は、『スプレンデント』の5モデルにフォーカスし、LCサックスの楽器の特性とモデル違いの特徴をさら深堀りしながら紹介していく。

豊富な組み合わせによる
多彩なモデルラインナップ

ソプラノからバリトンまで、各種“シリーズ”に分かれ、そのシリーズの中に素材と仕上げが異なる“モデル”がある。ソプラノは、ストレートからジョイントネックのストレートタイプ、カーブドソプラノの全17ラインナップ、バリトンは7ラインナップ。アルトとテナーは6つのシリーズに分かれ、各種モデルとしてアルトが全18ラインナップ、テナーが16ラインナップと他のサックスメーカーでも類をみない圧巻のラインナップを誇る。

そんな多種モデル数を誇るLCだが、全モデルに共通してハイエンドモデルクラスのハイspecな仕様が採用され、ハンドメイドで丁寧に作られている。

芳醇な音色を実現させる
バランスの良いA-702GL

管体は91%の銅でできた合金。コパー特有の柔らかく芳醇な音色が特徴。太い芯を持ちながら、煌びやかな付帯音も加味する音色は、クラシックからジャズまで幅広く対応する。キィはブラス製で、ゴールドラッカーフィニッシュが施されている。

A-702GL

[管体/キィ]91%コパー/ブラス

[仕上げ]ゴールドラッカー

[全モデル共通仕様]HighF#キィ、ダブルC#キィ、メタル製サムレスト・サムフック

High F#キィを装備し、針バネは高級機種に多くみられるドイツ製のブルー・スチールが採用されていることで弾力性に優れ、反応速度が速く、リバウンドのタッチがより繊細になる(詳細写真:左上)。パッドは気密性が高く、耐水性に優れているピゾーニ社製のウォータープルーフパッド、メタルリゾネーター(反射板)を採用。

ダブルC#キィシステム

中音C#(開放)では、このキィが開き、サックスのウィークポイントとも言える本来低くなりがちで、音色も開きがちな解放C#の音程&音色を補正。オクターブキィを押した高音のC#(高くなりがち)との音程の高・低差を修正すると同時に、替え指を使った場合、こもりがちになる解放C#の音色も改善されるので、C#のオクターブ間の音色の均一性にも優れる。

これは一部メーカーの上位機種でしか採用されていないシステムだ。

ネックの金属プレート

ネック正面には、程よい抵抗感を生み出すための金属のプレートが配されている。この702はコパー製のネック本体にキュプロニッケルのプレートという異素材による組み合わせによって、明るさだけでなく柔らかく奥行きのある音色が生み出される。この金属プレートは、すべてのシリーズに採用されているが、モデルによって素材が異なり、それぞれの個性的なサウンドキャラクターをもたらしている。

スプレンデントシリーズには、本体&キィがブラスの定番モデル「A-701GL」をはじめ、様々な素材を使ったモデルが存在する。

製造技術力が求められる98%コパーモデル

銅はとても柔らかく加工が大変な材質だが、「A-703GL」モデルは、コパーを98%使用した合金で、非常にブライトで伸びやかな存在感のある音色が特徴。

存在感あるシルバーアロイ&キュプロニッケルモデル

本体は銀の合金とキュプロニッケル (白銅)で、キィはブラス材、ネック前面の金属プレートと補強板、U字管の「打こん止め」が98%コパーというさまざまな金属が組み合わされた「A-704CL」は、指向性が強くダークな音色が特徴。他のモデルにくらべて抵抗感があるので、息圧が強めなプレイヤーに最適だろう。

音色や響きの良さと安定感

今回紹介したゴールドラッカー以外にクリアラッカータイプもあり、異素材の組み合わせやハイspecな仕様から、それぞれ個性的で豊かな音色を持ち、どのモデルも安定したサウンドと適度な抵抗感のある吹奏感がうれしい。キィ配置も快適でずっと吹いていたくなる。そんな楽しさを体感できるサクソフォンである。

大手メーカーの楽器製造の実績と研究開発に力をいれる歴史あるメーカーだけあって品質の高さが注目すべきポイントだ。

メタル製サムレストとサムフックを採用。音量レンジの幅が広がり、厚みのあるサウンドが得られる

音色の安定性を実現するダブルC#キィシステムを標準装備

ネックには材質違いの金属プレートが施されている

ハンドメイドのハンマリング、一枚取りで仕上げられたベル。二枚取りに比べ加工は難しいが、遠達性のある豊かな響きが特徴

A-701GL

[管体/キィ]ブラス/ブラス

[仕上げ]ゴールドラッカー

[全モデル共通仕様]HighF#キィ、ダブルC#キィ、メタル製サムレスト・サムフック

A-703GL

[管体/キィ]98%コパー/ブラス

[仕上げ]ゴールドラッカー

[全モデル共通仕様]HighF#キィ、ダブルC#キィ、メタル製サムレスト・サムフック

A-704GL

[管体/キィ]シルバーアロイ

キュプロニッケル/ブラス

[仕上げ]ゴールドラッカー

[全モデル共通仕様]HighF#キィ、ダブルC#キィ、メタル製サムレスト・サムフック

A-705GP

[管体/キィ]特殊コパー合金

[仕上げ]ゴールドプレート

[全モデル共通仕様]HighF#キィ、ダブルC#キィ、メタル製サムレスト・サムフック

 

注目のアルト5機種 仕様一覧

SPRENDENTseries BRAND MODEL

MODEL

A-701GL

A-702GL

A-703GL

A-704GL

A-705GP

材質

ブラス

91%
コパー

98%
コパー

シルバーアロイ/
キュプロニッケル

特殊

コパー合金

ベル

一枚取り

指貝

ホワイト

ホワイト

ホワイト

ブラック

ブラック

High F#/C#Key

あり

仕上げ

ゴールドラッカー(クリアラッカーモデルあり)

ゴールド

プレート

 

LC サクソフォン

住所:台湾台中市后里区公安路330-1号

Website: www.lcsax.com

E-mail:service@sax.org.tw

 
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