サクソフォニストのためのハローワーク
第1回目の「サクソフォニストのためのハローワーク!」は、大学教員のお仕事をされている佐藤淳一氏を紹介。大学教員が仕事の魅力や、その職業に就くための条件などを語ってもらいました。
THE SAX vol.62よりスタートした「サクソフォニストのためのハローワーク!」は、サックスに関わる職業を取り上げるコーナーです。第1回目となる今回は大学教員のお仕事を紹介。サックスオンラインでは、大学教員が仕事の魅力や、その職業に就くための条件などを語ってくれました。
非常勤と常勤では拘束時間が異なる
佐藤さんは大学の非常勤講師と常勤講師の経験をされていますが、どこに違いがあるのでしょうか?
佐藤淳一(以下、佐藤) 私は2007~2013年まで、東邦音楽大学の非常勤講師をさせていただき、2013年4月からは北海道教育大学の常勤の専任講師として赴任しました。非常勤と常勤のまず最初にあげられる違いは拘束時間だと思います。常勤になると授業の数が増えるのはもちろんですが、運営にも関わるので会議の時間などが増えますね。それと常勤講師になるということは大学に対する責任感も増します。また音楽大学と国立大学の教育学部の大きな違いは、後者は教員養成課程を主としていることです。レッスンなど共通する科目も多いですが、他のカリキュラムや到達目標が違うので、そこも大切なことです。
非常勤講師にはどのように就かれたのですか?
佐藤 たまたま非常勤講師の枠に空きができたので、東邦音楽大学の先生からの紹介で決まりました。私立や国立も含めて非常勤講師は大きく公募が出ることが少なく、内々で決まることが多いように思います。公募がないので自分から応募することは難しく、人との繋がりが大事だと言えますね。非常勤講師は良くも悪くも時間が多く取れたのが良かったです。その時間を使って他の仕事をしたり、リサイタルの入念な準備などもすることができました。でも、その時間が多ければ多いほど給与は少なくなりますが(笑)。
非常勤講師の仕事内容を教えてください。
佐藤 基本的には個人レッスンです。専攻の学生と副科の学生を毎週教えに行っていました。今はどこの大学でも前期に15回、後期に15回の配分になっていると思います。他には期末ごとに実技テストがあるので、その試験官や、大学主催のコンテストの審査員などもしたことがあります。
研究者人材データベースを活用
北海道教育大学にはどのような経緯で?
佐藤 北海道教育大学も含めて国公立の大学の常勤は基本的には公募を出すという決まりがありますので、そちらに応募して審査を経て採用していただきました。
どのように公募の情報を知ることができるのですか?
佐藤 独立行政法人の科学技術振興機構が公開している「研究者人材データベース(JREC-IN)」(以下JREC)というものがありまして、そちらに公募の情報が公開されています。JRECは多くの研究分野に分かれていますので、そこから自分の専門に合った項目を選び登録すると公募が出た時点でメールに通知がきます。もちろん各大学でも公表しているのですが、JRECにはすべて集まるので便利です。たまに非常勤講師の公募もあります。
公募にはどのような条件がありますか?
佐藤 各大学によって違うので一概には言うことができません。また私立大学の常勤の場合は公募がないことが多いです。ここでは国公立大学の話しをしたいと思います。公募の条件には修士号が求められることが多いので大学院を修了している必要があります。それと論文の数も重要です。管楽器専攻の公募では演奏経験が豊富なのはもちろんですが、大学は研究機関でもありますので、論文の数も求められます。修士論文はその中に含めないことが多いので、それ以外に1本以上執筆しておいたほうが良いと思います。また条件としては修士号より博士号、論文については、査読と呼ばれる審査のあるレフェリー論文を書いているほうが業績を積んでいると見られる傾向があるようです。また公募条件で「望ましい」と書いてある場合は必須要件だと思ったほうが良いです。例えば「教員免許を持っているのが望ましい」「教育歴5年以上が望ましい」とある場合はそれぞれの用件が必須である場合が多いですね。まずは書類選考があり、そこから数人面接に呼ばれて、複数回の面接を経て採用が決まります。面接では実際に演奏したり、模擬授業をするケースもあります。
教育、演奏、研究の仕事に就けるのが魅力
北海道教育大学での仕事内容は?
佐藤 非常勤講師の時と同じように個人レッスンが中心です。以前と違うのは教育学部の管楽器専攻なので木管楽器をすべて教えることですね。今は24人くらいを教えています。金管は他に非常勤講師の方が担当しています。オーボエやフルート、クラリネットを教えるのには色々と工夫が必要です。他には指揮法、合奏、作曲・編曲法、倫理・人権、教職実践演習などの授業を担当しており、月に一度教授会と委員会もあります。大学院生もいるので、その実技や論文指導もあります。校舎が違いますが、兼任講師として週に一度、芸術課程のある岩見沢校にもサックスを教えに行っています。同じ北海道でも100km近く離れているので移動が大変です(笑)。
大学教員の仕事の魅力は何ですか?
佐藤 私は教育、演奏、研究の三分野のどれも同じくらい興味があるので、それを中心に仕事ができる大学教員はとても魅力がありました。特に研究分野に関しては科研費といわれる助成金に応募することができますし、研究室がいただけたり、より良い環境で腰を据えて研究できるのが良いですね。また教育大学で教えるにあたり、今までとは違った勉強が必要になってくるのも良い機会でした。演奏活動に関しても大きく制限されることはないので助かります。ただ国立大学は地方が多く、チャンスも少ないので場所を選ぶことはほぼできません。さらに管楽器専攻の公募は非常に少なく、年に1、2度しかないので、しっかりとした準備が必要ですね。私は関東で演奏活動をしていましたが、北海道には縁がないので、これから徐々に演奏の場を増やしていかなければと思っています。
最後に大学教員を目指す方に一言お願いします。
佐藤 大学教員というと自由に時間が使えると思われがちですが、授業は意外と多く、それ以外にも運営面で時間がとられます。また研究などは時間外にしなくてはならないため、研究が立て込んでいる時は帰りが遅くなることも稀ではありません。公募の数も少ないので勤務地も選ぶことは難しいでしょう。ですがそれ以上にやり甲斐があり、周りの先生方や学生のモチベーションも高く刺激が多い毎日です。演奏する以外にも教育や研究が好きで大学教員に興味がある方は、どの分野でも偏りなく実績を積んで、ぜひ公募にチャレンジしてみてください。
ありがとうございました。
佐藤淳一|千葉県出身。洗足学園音楽大学を経て、同大学大学院管打楽器首席修了。東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程修了。サクソフォン領域において日本初の博士号(Ph.D.)取得。在学中から演奏活動を開始し、ジャンルを問わず幅広く活動。現代音楽には特に積極的に取り組み、L.ベリオのコンチェルト「レシ/シュマンVII」などを日本初演した演奏は高い評価を受けた。また、演奏活動の傍ら、執筆活動にも多く携わる。海外における活動も多く、これまでにパリ・サックスフェスティバルやGAP夏期講習会に参加。東邦音楽大学非常勤講師を経て、現在は北海道教育大学の常勤専任講師。博士 (音楽)。
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