サクソフォニストのためのハローワーク
第3回目の「サクソフォニストのためのハローワーク」は警察音楽隊のお仕事を紹介。いわゆる「制服バンド」として活躍されている警視庁音楽隊の佐野純也さんに登場いただきました。警視庁音楽隊の全員が警察官です。みなさん、警察署勤務などを経て、音楽隊員となります。
第3回目の「サクソフォニストのためのハローワーク」は警察音楽隊のお仕事を紹介。いわゆる「制服バンド」として活躍されている警視庁音楽隊の佐野純也さんに登場いただきました。警視庁音楽隊の全員が警察官です。みなさん、警察署勤務などを経て、音楽隊員となります。
音楽専務の警視庁音楽隊
警視庁音楽隊での仕事の内容を教えてください。
佐野 基本的には音楽隊なので演奏するのがメインです。所属としては広報課になりますので警察の内から外に向ける広報活動の一環としての演奏となります。それと同時に式典での演奏もあります。警察学校の入学式・卒業式、それ以外にも表彰式などでも演奏をしています。
基本的には音楽専務になるのですか?
佐野 そうですね。県によっては専務でないところもあります。専務の県もあるのですが、全員が警察官というのは警視庁音楽隊しかないと思います。
勤務形態はどうなっていますか?
佐野 基本勤務が8時30分から17時15分までです。出勤は7時30分くらいにはしています。それから事務仕事をして、余裕があれば音出しなどもします。10時からは合奏になり12時まで行ないます。12時から一時間は昼食休憩、そして午後は13時から2時間また合奏となります。それから退庁までの時間は引き続き事務をしたり、足りない部分の個人練習などにあてるのが、演奏会のない日の一つの流れです。
演奏会のある日はどのような流れですか?
佐野 移動距離にもよります。移動距離が短ければ、午前中に合奏をしたあと、現場で本番をして帰ってくるというパターンもありますし、東北への演奏旅行のように5泊6日というパターンもあります。また、年に1、2度ですが海外演奏に行くこともあります。
年に何回公演されるのですか?
佐野 式典も含みますが、昨年は162公演を行ないました。一日2本番という日もありますので、演奏機会は多いです。
この仕事に興味を持たれたきっかけは?
佐野 仕事を知ったきっかけとしては田中靖人先生に警視庁の仕事というものを紹介してもらって、一度仕事場に伺ってみたらとても魅力を感じました。プロの音楽をしている人たちは玄人を相手にされている場合が多いと思いますが、私たちのコンサートは音楽をあまり聴かない素人の方が多いです。そういった老若男女の方々を相手にするので、僕の考える身近な音楽というのは、こっちのほうにあるのではないかなと思っています。
大学で音楽を専門に習っていましたか?
佐野 一般大学でした。サックス自体は習っていたのですが、音楽を専門的に勉強することはありませんでした。卒業時に警察官の試験を受け合格することができました。
まずは警察官にならないと音楽隊に入ることができないのですよね。
佐野 そうですね。警察官になる前の警察学校も非常に厳しいです。今まで生きてきた20数年間とはまったく違い、いわゆる訓練と勉強を同時進行しているところです。警察官としての訓練と同時に柔道や剣道も行ない、勉強もこなさなくてはいけないのでとても大変でした。でもそこで警察官になるための誇りと使命感を学びました。
その後は警察官として交番勤務をされたのですか?
佐野 愛宕警察署所属で新橋駅前交番に配属になりました。それから音楽隊に自分を売り込みました。休みの日などには音楽隊の練習に参加して、音楽隊の方々に顔と名前を覚えてもらうようにしました。
音楽隊は空きがないと移れないのですよね。
佐野 空きがないと基本的には異動できません。交番だけではなく、機動隊や刑事、白バイ勤務を経て来た人もいます。異動のタイミングというのは自分では計れないので難しく、何年で異動できるかは分からないですね。
満員のホールで演奏できるのが一番のやり甲斐
佐野さんが音楽隊に異動されたのはいつですか?
佐野 平成16年の2月です。もうすぐ10年になります。パートの楽器は基本的には空いたパートに移ります。何年か経験したらパート内で話して楽器が変わることもあります。
年に160公演もこなされるととても大変ですよね。
佐野 本番の日が次から次へとやってくるので、演奏企画係がどういった対象に演奏するのか考えながらプログラムを組んでいきます。それを元にスケジュールを組んで、練習日程を決めていきます。1時間ないし2時間の合奏で次のコンサートの練習をしています。日によっては、午前は次の日の、午後はその次の日のリハーサルということもあるので、実際のリハーサル時間はかなり限られています。目まぐるしく次から次へと動いていきます。
警視庁音楽隊は自衛隊の音楽隊と違い隊長となる指揮者を外から招聘するのが印象的ですね。
佐野 警視庁音楽隊の立ち上げの時に、陸軍音楽隊の最後の隊長の方が警視庁音楽隊の隊長になられて、当時の陸軍の副隊長の方も一緒にいらして、その後隊長になられました。その流れで伝統的に外から指揮者の方をお呼びしています。
この仕事の大変なところはどこですか?
佐野 これは贅沢でもあるのですが、やはり本番の数が多いところですね。それに対するリハーサルの時間が充分に確保できないのが現実なので大変です。もう一つはプレイヤーが事務方をすべて兼ねているところです。一つのコンサートに対する企画と当日の運営、片づけに至るまですべて自分たちで行なうので、労力としては大変ですね。でもこれが普通だと思ってやっていると慣れてくるのですが。また宿直や庁舎警備など警察官としての仕事ももちろんあります。宿直は通常の退庁時間の17時15分から翌8時30分まであるのですが、その後にまた勤務に入るので、そのまま本番がある日もありますね。
外から見た警視庁音楽隊と実際に入られた時の違いは何か感じましたか?
佐野 外から見た時は良いところだけしか見えませんでした。制服は格好良いし、何千人というお客さんを前にして常にコンサートをしています。でも入ってみると先ほど話した苦労もありますし、160を超える本番もあります。そういった表からは見えない大変さが実際に入って感じたところですね。でもお客さんがたくさんいるところで演奏できるのが一番のやり甲斐です。私自身も前は観る側の一人でしたが、自分が実際に舞台の上に立って、毎回ホールが満員になるコンサートでの演奏を経験させてもらえるというのは演奏家冥利に尽きますね。これだけは何にも変えられないやり甲斐ですね。
最後に警察音楽隊を目指している方に一言お願いします。
佐野 とにかくやり甲斐のある職場です。目指すにあたってとても意義のある場所だと思います。演奏会の後に音楽隊に関するお話しをすることも可能ですし、少しでも興味を持ったら、ぜひ演奏会にいらして音楽隊の魅力を感じてください。
ありがとうございました。
佐藤淳一|千葉県出身。洗足学園音楽大学を経て、同大学大学院管打楽器首席修了。東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程修了。サクソフォン領域において日本初の博士号(Ph.D.)取得。在学中から演奏活動を開始し、ジャンルを問わず幅広く活動。現代音楽には特に積極的に取り組み、L.ベリオのコンチェルト「レシ/シュマンVII」などを日本初演した演奏は高い評価を受けた。また、演奏活動の傍ら、執筆活動にも多く携わる。海外における活動も多く、これまでにパリ・サックスフェスティバルやGAP夏期講習会に参加。東邦音楽大学非常勤講師を経て、現在は北海道教育大学の常勤専任講師。博士 (音楽)。
http://saxolab.net