サクソフォニストのためのハローワーク
第5回目の「サクソフォニストのためのハローワーク」は、日本を代表するプロ吹奏楽団の一つである大阪市音楽団(市音)のお仕事を紹介。これまで市音は、大阪市教育委員会の事業所として活動していましたが、今年4月から一般社団法人として新たなスタートを切りました。今回は同楽団に18年在籍しているアルト・サクソフォン奏者の田端直美さんに登場いただきました。
第5回目の「サクソフォニストのためのハローワーク」は、日本を代表するプロ吹奏楽団の一つである大阪市音楽団(市音)のお仕事を紹介。これまで市音は、大阪市教育委員会の事業所として活動していましたが、今年4月から一般社団法人として新たなスタートを切りました。今回は同楽団に18年在籍しているアルト・サクソフォン奏者の田端直美さんに登場いただきました。
今年4月より一般社団法人としてスタート!
大阪市音楽団にはどのような経緯で入られたのですか?
田端 大阪市音楽団(市音)が大阪市に属しているときに、大学の掲示板に公募が貼ってあるのを見まして、ちょうど大学院を出る年の冬で、楽器を吹く仕事をしていきたかったので受けることにしました。
それまでに大阪市音楽団はご存じでしたか?
田端 高校が伊奈学園という吹奏楽が盛んな学校でしたので、「吹奏楽のための神話」などの音源はよく聴いていましたね。前々から知っているところだったので、これだったらと思って受けました。そしたら運良く入団できました。
入る前と入ってからの市音のイメージに変化はありましたか?
田端 イメージ通りでした。市音は音が暖かいんです。シャキッとした音よりも全体を包み込むような音楽とサウンドの印象を持っていましたが、入ってみても同じ印象を受けました。私が入ったときは大阪出身の高卒からの叩き上げの方も何人かいらっしゃいました。女性では私が5人目でしたので、お爺さま方に可愛がられました(笑)。皆さん温かく迎えてくれましたね。
その頃の市音は何人在籍していましたか?
田端 55人くらいいたと思います。その後に市政改革などがあって、補充ができなくなって、辞めるけど採らないということが続いて少なくなってしまいました。
吹奏楽の演奏を仕事にされるというのはどういう感じですか?
田端 私は入団して18年目になります。市音は無料で大阪市民のためのコンサートや子どもの鑑賞会など地域密着の演奏がメインで、それはずっとやりたかったことなので充実しています。大阪のお客さんはダイレクトで、終わった後に良かったら声をかけてくれますし、よくなくても「もうちょい頑張りや!」という反応がしっかりとあり、やり甲斐がすごいあります。オーケストラでは3年でレパートリーが一巡して、7年したら2巡して、いろいろと見えてくると言いますが、私は5年目を超えたあたりから、このままで良いのかなといろいろ考えはじめ、室内楽やリサイタルなどの活動をし始めました。それから吹奏楽に帰ってくるとより新鮮でしたね。大阪市に守られてはいましたが、その分公務員ということで活動がとても制限されていましたので、CD を出す時などもすごく大変な手続きを経て、上の方に尽力していただいて制作することができました。
練習はどのような日程で行なわれていますか?
田端 基本的には本番の前1日が練習です。定期演奏会で3日、それ以外の大きな本番で2日くらいですね。本番は年に100公演くらいあります。鑑賞会も多いので1日練習して3日間ステージを続けることもありますし、定期のように3日練習して1日本番ということもあります。月に平均すると7公演~10公演になります。大阪市時代は9時に出勤してタイムカードを押して、10時から16時まで練習でした。その後は17時半まで他の業務をしていました。一般社団法人になってからは11時スタートの16時半までというのが基本パターンです。練習場所も以前は森ノ宮にありましたが、そこから南港ATCに移りました。
市音はどういったコンサートをされているのでしょうか?
田端 ベースになっているのは市内の中学・高校や幼稚園・小学校などの音楽鑑賞会、そして最近は伊丹市など大阪市以外からも依頼があり、吹奏楽コンクール対策に課題曲を演奏してクリニックをする場合もあります。ポップスコンサート、音楽鑑賞会、依頼演奏、定期などの自主公演の4本が柱になっています。今はさらに新しい企画を練っています。室内楽も最近はやったりしていますね。
市音と音楽監督の宮川彬良さんとの関係は?
田端 最初は大阪市が大阪国体のマーチを宮川さんに委嘱した時に、私たちが演奏したんです。その時に市音のことを気に入っていただけました。その後に東芝の録音の時にご一緒してそれからですね。宮川さんは練習も本番も全力投球で、市音も割とそれに近く手を抜かないので合っていると思います。今年度から市音側からお願いしてアーティスティック・ディレクターとして就任していただきました。
市音のメンバーはどのような方がいらっしゃいますか?
田端 最近入団しているのは東京の音大を出た方が多いです。それでもけっこう大阪色は強いですね。
市音に入団するためにはどのような準備が必要ですか?
田端 今は実技と論文で決めています。私の頃は公務員試験があったのですが、それはもちろんなくなりました。
受けた時の立場と審査する立場とではどのような違いがありますか?
田端 受けた時は無我夢中で記憶にないくらいなのですが、聴く立場になると冷静に聴けますね。今はポップスも多いのでクラシックとポップスの両方が吹ける方を必要としています。サックスはスタンドプレイも多いですから。クラシックは良いけどポップスがダメだという方は難しいかもしれません。アドリブを完璧に吹けるというわけではなくても、そういったテイストやノリが両方吹ける方が良いですね。とはいえ、それは経験で養っていけると思うので、市音独特のサウンドを作っていける技術や音色を持っているか? バランス感覚を持っている人かどうか? を、審査する立場では聴いています。
吹奏楽のスタンダードナンバーからポップスまでしっかりと知っている必要があるんですね。
田端 そうですね。ソリスティックなサウンドも作れるけれどアンサンブルもできるサウンドも出せるフレキシビリティがあると良いですね。そこらへんの案配が取れていないと全員投票の時に難しいですね。
10月のオーディションはどのような進行になるのですか?
田端 一次は小論文とカーテン審査でサックス・パートと外部審査員で行ないます。二次はオープンで楽団メンバー全員審査の過半数の投票が得られればその次に進めます。その次は面接です。それを通ったら半年の使用期間を経て採用となります。
今年から一般社団法人として新しくなった市音ですが、その経緯を教えていただけますか?
田端 大阪市は何年かおきに市政改革があるのですが、橋下徹さんが市長になった時に芸術文化関係の削減が大きくなってしまいました。実際に橋下さんが音楽団に来て話をしたりもしたのですが、橋下さんは文化芸術を行政は持たないという確固たる信念をお持ちだったので、こちらの話も聞いていただけず切られることになってしまいました。富裕層は自分たちのお金で芸術文化に触れることができますが、そうでない方もいらっしゃるので市音が大阪市には必要だと私たちは思っていました。それから市議会の投票もあり、一年前には大阪市から市音をなくすという宣言が出され、それからの一年間は怒濤でしたね。中には収入が不安定になってしまうことを考え、試験を受け直して大阪市の職員として残った方もいらっしゃいます。新しい法人になって、今は一丸となって頑張っております。
一般社団法人になってどのような変化がありましたか?
田端 まずは練習場が変わったというのと、勤務体系が変わりましたね。今までは9時~17時半でしたが、その拘束時間が減って、市の文章管理など演奏業務以外の仕事もなくなり、演奏に専念できるようになりました。ただ演奏だけをしていれば良いのではなく、広報活動など楽団としての活動はあります。
一般社団法人に移って良かったことと悪かったことは何ですか?
田端 音楽に集中できる自由な時間が増えたのは良かったですね。色々な活動ができるようになりました。その反面、何もしないと何も起こらないというのもあります。そのため皆が主体的に動くようになりました。悪かったことは給料が減ったことですね(笑)。でもそれは時間が減ったのでしょうがありません。今はその分を違う活動の時間にあてることができますね。
現在の市音としての課題はありますか?
田端 もっと知名度をあげることです。今までは大阪市限定で活動していたところもあります。大阪市としても外に行くことに良い顔はしていなかったので。これからは市音のサウンドを日本全国、世界に向けて発信したいですね。
市音の魅力を教えてください。
田端 それは圧倒的なパワーですね。音楽監督の宮川彬良さんには、音が面で迫ってくると言われるんです。自分たちも何となく思っていたのですが、指摘されて実感しました。気持ちとサウンドのパワーが魅力ですね。大阪のノリのような(笑)。
大阪市音楽団を目指す方にメッセージをお願いします。
田端 吹奏楽大好き、アンサンブル好き! と言う方はぜひ、大阪市音楽団を受けてください! 一緒に市音創立100周年を目指して新たなサウンドを作りましょう!!(今年91周年です)。音大でサックスを学んでいると「サックス」だけという感じになってしまいがちですよね。サックスも好きだけど吹奏楽やオーケストラも好き、クラシックもジャズもポップスもラテンもやってみたい! という興味の幅が広くて、柔軟にいろいろ吸収できると良いと思います。仕事柄いろいろな曲を演奏するので、そういった方が向いていると思います。どんな音楽でも嫌がらずに貪欲に演奏していただける方を望んでいます。
ありがとうございました。
佐藤淳一|千葉県出身。洗足学園音楽大学を経て、同大学大学院管打楽器首席修了。東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程修了。サクソフォン領域において日本初の博士号(Ph.D.)取得。在学中から演奏活動を開始し、ジャンルを問わず幅広く活動。現代音楽には特に積極的に取り組み、L.ベリオのコンチェルト「レシ/シュマンVII」などを日本初演した演奏は高い評価を受けた。また、演奏活動の傍ら、執筆活動にも多く携わる。海外における活動も多く、これまでにパリ・サックスフェスティバルやGAP夏期講習会に参加。東邦音楽大学非常勤講師を経て、現在は北海道教育大学の常勤専任講師。博士 (音楽)。
http://saxolab.net