サックス記事 Dr.Sawamuraの「ゼロから始めるアドリブ入門!」Lesson1
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THE SAX 72号 連載<第1回>

Dr.Sawamuraの「ゼロから始めるアドリブ入門!」Lesson1

LESSON

アドリブができずに悩んでいる読者に向けて送る、沢村氏による連載第1回目!

Sonic Solfa Music Method TM.(渋谷アクタスSelmer Japan)後援
難しい音楽用語を一切使わずに自由にアドリブが出来る様に工夫 された、効率の高い新しい学習システム、Sonic Solfa Music Method TM.を確立した沢村満氏が、アドリブができずに悩んでいる読者に向けて送るアドリブ入門クリニック! 音楽のスタイルではなく、根本的に自分のアイデアで自由にアドリブができるように、72号から連載を通して沢村満氏がナビゲートします!
LESSON 1  “アドリブ”とは? 

 

Q1 :  そもそも、アドリブって何?
A : AdlibとImprovisationの認識の違いを知る必要があります。
Adlib=「アドリブ」という言い方は、英語圏ではほとんど使われず、あえてAdlibと表現する時にはかしこまった言い方が似合う状況の時に多く使われます。場合によってはビッグバンドの譜面にAdlibと書かれた上に既にフレーズが書かれている場合がありますね。これはビッグバンドでアルバムの名演奏がそのままレジェンドとして記録されているような場合に多く、一目置いた扱いのAdlibという表記を見ます。その名演奏も恐らく当時はその場の最高なフレーズが録音されたに違いありません。
実はジャズ発祥の地の英語圏では自分の思うように即興で音楽することを「インプロヴァイズする」と言います。日本にとってジャズは輸入された音楽なので、最初からお手本だったりレコード自体が標本のような存在でした。レジェンドとして尊敬されるプレイヤーのフレーズは皆お手本のように標本化された経緯から、日本ではかしこまった標本的な捉え方の表現であるAdlibが定着したのだと思います。

Improvisation=英語圏では広くジャンルを問わず「音楽を即興演奏する」ということをImproviseすると言います。つまり、日本で言う「アドリブする」は、「インプロヴァイズする」という表現がグローバルな認識です。
譜面に書いてあるものを観ながら吹いたり、あらかじめ練習したフレーズを上手に吹くことではなくて、自分が発想したりひらめいた通りの素直な気持ちをその場ですぐに表現する創作のことをいいます。思い通りのフレーズがその場で吹けたり、気持ちの通りの音色で吹けたりすると、とっても楽しいですよね!
Q2 :  アドリブって、本当にその場の思い付きで吹いているの?
A : 客観的に世の中には大きく4つのタイプの演奏が存在します。
①あらかじめ覚えたフレーズを吹くタイプ
雑誌などに載っている有名アーティストのアドリブをコピーした譜面の通りたくさんのフレーズを覚えて、どの曲でも、その覚えた譜面と同じコード名のところがあれば、その覚えたフレーズを吹く! 最初は皆この辺からスタートしますが、この場合その場の自由な思い付きでは吹いていません。
②たくさん覚えたフレーズの中から使い分けて吹くタイプ
覚えたフレーズが吹けるチャンスが曲の中で少ししか見つからない①とは違い、コピーされたフレーズをたくさん覚えて、そして吹けるようになると当然その覚えたフレーズを吹く場面が多くなります。①よりもさらにアドリブらしく吹けるけれども、一旦事情が違うコード名が出るとたちまち吹けなくなるか、音を濁したり、半音を重ねてその場をごまかしたりするしかなく場をしのいでいるタイプです。 これも、文字通り、基本的にお手本フレーズを数多くなぞっていることに変わりはないので、その場の自由な思い付きで吹いていないタイプと言えます。
③事前に気に入ったフレーズをたくさん用意して吹くタイプ
①や②よりもさらに練習した人は音数が多く吹けるように聞こえるけれども、どの曲も同じフレーズになってしまうことに気づき始め、自分の気に入ったフレーズをたくさん試すようになります。基本的にその場の自由な思い付きというよりも事前に気に入った自分のフレーズを用意しておいて演奏するタイプ。これも、文字通り、その場の自由な思い付きでは吹いていないタイプになります。
④本当にその場の思い付きで吹いているタイプ
コピーされた名演奏のフレーズは知っていてもそれらを一切吹かずに、自分の必然性を音にするタイプ。やる曲のストーリーの中に入れて自分に夢中になれるタイプ。吹こうとしている曲や、その作曲家の生き様を尊重しながら作曲家の心のストーリーに忠実に自分の人生観を擦りあわせることができ、そのルールの中で自由に思い付いた通りに自分を最大限アピールしようとするタイプ。このタイプの演奏のみ、本当にその場の思い付きで吹いています。

 

Q3 : アドリブをやるには、コード理論やスケールを知らないとできないの?
A : 大丈夫。むしろ最初は理論をまったく知らない人の方が早く上達します。また、ドレミファソラシドは当然吹けて、理論もある程度知っているという方でも自由にアドリブできないのはなぜか? できないのには必ずできない原因があります。
Q3 : アドリブをやるための手順としてコード理論から入ったほうがよい?
それとも耳コピーから?
A : そのどちらでもありません。従来の伝統的な勉強の仕方は、私も含め、コード理論から入り、そしてたくさんレコードを聴いて耳コピーするという学習の仕方しかありませんでした。結果、なかなか理論が直ぐに演奏に結びつかなかったり、耳コピーしても人のフレーズだったりして上手くいきません。既に理論やたくさんの知識を積んだ方や、たくさん耳コピーをしてきた方でさえも、自由に自分のアドリブができない悩みを抱える現実があります。ネイティブに発音できない英語に似ていますね。それは、ネイティブに自分のために音を発音して表現する音楽の入り方の手順に問題があるわけです。コード理論を一切使わず、耳は自分の心に問うために使う。これが正攻法の手順です。

■最初にコード理論が必要ない理由
皆さん身に覚えがあるように、文法からお勉強するとネイティブな発音ができませんね。それと同じです。なまじ理論の知識があるとそれが邪魔をして、自由な発想の心の扉を固く閉ざしてしまいます。 まずはネイティブに思ったことを話せること。その後に自分の意志を雄弁に相手に伝えたくなった時に初めて文法(コード理論)の知識が役に立ちます。

■最初に耳コピーが必要ない理由
「自分のアドリブ」がある程度できてから次の研究段階として、他の人はこの曲でどういうアプローチをしているか? 演奏されたフレーズを論理的に解明してその人の生き様を理解するための耳コピーはとても深く高い価値がありますが、自由にアドリブができなくて悩んでいる今、まず必要なことは、“自分が吹いた音を自分の心は本当は何を感じているのだろう?”“音を聴いて自分の心の何が共鳴しているのか?または共鳴したいと思うのか?”誠実な心で正面から自分に向き合う勇気と、心に問う誠実な耳が求められます。耳は自分の存在に気付くためにあります。  コード理論も耳コピーもしないことで、自由に自分の思ったままにアドリブができる手順を体感していきましょう。既成概念のない子どもの頃にあった遊びたい一心の冒険心と好奇心で毎号のホームワークをプログラム通り、しっかりとこなしていけば誰でも成功します。では、次回からモニター受講生と一緒に体験がスタートします。お楽しみに! エール!!!
講師紹介  沢村満 

Profile 沢村満…………1975年タンパ・フロリダ州立Chamberlain高校卒業。1981年ボストン・バークリー音楽大学卒業。フィル・ウッズ、ジョー・アラード教授に師事。在学中に2年間理論補講クラスの講師を務める。在学中に結成したグループがランディ・ブレッカーに認められ、来日の際にランディ・ブレッカーの「Jazz Life」誌インタビューで紹介されたことをきっかけに、日本の音楽業界で活動を始める。その後、YMOリーダーの細野晴臣のために作成したデモテープが採用され本格的にレコーディング契約を結ぶ。また、坂本龍一や渡辺香津美などのツアーメンバーとしてサックスとキーボードを担当。さらにキリンビール、キャノン、日産自動車などのCM音楽を手がける。その後、パリコレクションの音楽担当などを経て、細野晴臣主宰の代々木アニメーション音楽学校の理論主任を務めるなかでSONIC SOLFA MUSIC METHOD TM. 登録商標を獲得。以降、メソッドはスキルや知識情報伝達に関しての合理的なシステム開発へと進む。現在、自己のソロアルバムをレコーディング中。