輝く女性サックス奏者たち Women's SAX STORY -History-
サックス・シーンにおける女性の進出と、それを牽引してきたパイオニアたちの足跡を辿る。
現代の音楽シーンは、ジャンルの枠を超えて女性の活躍が目覚ましい。それはサックス界においても同様だ。THE SAX88号の特集ではサックス・シーンにおける女性の進出と、それを牽引してきたパイオニアたちの足跡を辿る。また、現在精力的に活動中のベテランと若手を織り交ぜ、時代の流れとともに状況がどう変化してきたかなどを、彼女らに秘められた魅力とともにお届けする。
Classic編(文:中野 明)
多様できらびやかな才能と音楽性を持った女性奏者たちが、百花繚乱といった趣で活躍を繰り広げる現代の「クラシック」のサックス界、そもそもヨーロッパのいわゆる「クラシック音楽」の源泉である、18世紀以前の王侯貴族たちの宮廷音楽、およびキリスト教会の礼拝音楽は、基本的に男性音楽家の専有だった。そのことがサックスに限らず、音楽界に女性の進出が遅れた理由であることは確かだろう。では「女性サックス奏者」とは歴史的にはどのように現れ、発展してきたのだろうか。
記録に残る最初の女性サックス奏者として、米国ボストン在住の富裕なアマチュア奏者、エリーズ・ボイヤー・ホール夫人(1853-1924)に敬意を表したい。ドビュッシーの有名な「ラプソディ」は彼女の委嘱で書かれている。
存命中の「最も影響力のある大御所」の女性奏者としては、カリーナ・ラッシャー(1945-)の名前が挙げられよう。マルセル・ミュールと並ぶもうひとりのクラシック・サックスの巨人シガード・ラッシャーの娘。父に英才教育を施され、父が結成した「ラッシャー・サクソフォン四重奏団」のリーダーの座を継ぎ、2002年に自ら引退するまで全ヨーロッパで演奏活動を繰り広げた。
(写真左より:エリーズ・ボイヤー・ホール夫人(1853-1924)、ラッシャー・サクソフォン四重奏団(1987)左端がカリーナ・ラッシャー)
(続く)
Jazz & Pops編(文:熊谷美広)
ジャズにおける女性サックス奏者は、ジェーン・アイラ・ブルームやジェーン・バネットなどといったソロ・アーティストや、ビッグ・バンドのサックス・セクションなどにいたものの、1990年代頃まではマイナーな存在だった。そんな状況の中、1990年代に入ってキャンディ・ダルファーがデビューし、そのファンキーなサウンドと熱いブロウで世界的なブレイクを果たす。彼女の出現によって、音楽シーンにおける女性サックス奏者の地位が一気に向上し、それに続くように、パメラ・アンダーソン、ミンディ・エイベア、アダ・ロヴァッティ、ティア・フラーなどといった、ファンキーで実力を兼ね備えたプレイヤーが続々と登場して人気を博し、さらにイギリス出身のヨランダ・ブラウン、韓国系アメリカ人のグレース・ケリーなど、より幅広い音楽性を持った実力派のプレイヤーたちもデビューし、海外の女性サックス・シーンもようやく活況を見せつつある。
(写真左より:ジェーン・アイラ・ブルーム、キャンディ・ダルファー、ミンディ・エイベア、アダ・ロヴァッティ)
(続く)