特集 サックスで魅せる ルパン・ジャズ
「ルパン・ジャズ」誕生の背景を辿り、珠玉のアルバムに耳を傾け、名曲の最新ヴァージョンを実際に吹けば、サックスを演奏するための秘宝が、きっと見つけられるはずだ!
大野雄二&鈴木央紹の両氏に登場してもらった表紙と巻頭インタビューに続いて、本号(本誌vol.89)では特集も「ルパン三世」の音楽にスポットを当てる。「ルパン・ジャズ」とも呼ばれるポップで分かりやすい、それでいてマニアを唸らすエッセンスもふんだんに盛り込まれた、独自のジャズの世界に潜入していこう。誕生の背景を辿り、珠玉のアルバムに耳を傾け、名曲の最新ヴァージョンを実際に吹けば、サックスを演奏するための秘宝が、きっと見つけられるはずだ!
目次
不朽の海外作品から話題の国内作品まで
アニメとジャズの歴史
(文:原田和典)
part.1 海外事情(一部無料公開)
・ジャンプやディキシーなどが使われたMGM作品
・ディズニーアニメーターたちでジャズバンド結成
part.2 国内事情
・二人のピアニストがジャパン・アニメの音楽を変えた
・ビバップ、フリージャズまでがアニメの世界に登場
必聴!ルパン名盤コレクション
(文:熊谷美広)
1970年代後半からリリースがスタートしている大野雄二が手がけたルパン関連の作品は、いまではタイトル数が優に100を超える。そんな多作な天才が生み出したアルバムのなかから、ここでは厳選して必聴の10枚をピックアップ。さらにカバーの名演も紹介!
※「オリジナルプレイヤー鈴木央紹による直伝レクチャーでルパン名曲2018ver.を吹く!」はオンラインでは掲載していません。本誌vol.89でお楽しみください。
◆◆ Contents START ◆◆
不朽の海外作品から話題の国内作品まで
アニメとジャズの歴史
いまやアニメ作品のテーマ音楽やBGMにジャズが使われることは珍しくない。近年はジャズをテーマにしたコミックも盛んでアニメ化による話題の作品も多い。日本でその先駆けとなったのは言うまでもなく「ルパン三世」だが、海外に目を向けると発祥はさらに遡ることになる。その歴史を辿っていこう。(文:原田和典)
Part.1 海外事情
ジャンプやディキシーなどが使われたMGM作品
職業柄、一年に少なくとも十回は“ジャズを好きになったきっかけは?”とか“初めてのジャズ体験は何でしたか?”と尋ねられる。こちとらアドリブで生きている人間なので答えはその都度フレキシブルであるはずなのだが、自分のジャズ史を振り返るたびに頭の中でネコとネズミが超高速で走り回る現象に関してはいつも変わりがない。
ぼくは1970年、北海道に生まれた。幼稚園や小学生の頃、平日の夕方はいつも「トムとジェリー」にチャンネルを合わせていたような気がする。MGM制作のアニメーションで、広くて大きな家、巨大な冷蔵庫、デカイ牛乳瓶、画面に登場する英単語は、ぼくにとってまだ見ぬアメリカそのものだった。そしてジャズがふんだんに使われていた。
トムがメス猫を口説くときにウッド・ベースで弾き語ったのは『イズ・ユー・イズ・オア・ユー・エイント・マイ・ベイビー』(サックス奏者ルイ・ジョーダンのヒット曲)、住人の留守時に野良猫が部屋に集まってきて鍋蓋をシンバルに、グラスをヴィブラフォンに見立ててジャム・セッションを行なうシーンではディキシーランド・ジャズの定番『ダークタウン・ストラッターズ・ボール』をモダン・ジャズ風にアレンジしたヴァージョンが流れた。
ルイ・ジョーダン
「トムとジェリー アカデミー・コレクション」(ワーナー・ホーム・ビデオ)
MGMのスタッフ・ミュージシャンにはアンドレ・プレヴィン(Pf)、バーニー・ケッセル(Guit)、レッド・ノーヴォ(Vib)らがいたというから、彼らがサウンドトラックに関わっていた可能性も大きいのではないか、というのが個人的な見解だ。見ていたころの「トムとジェリー」は各回3本立てだったが、真ん中は猫とネズミの追っかけっこではなくドルーピーという犬を主人公にした別種のストーリーであった。
その中で忘れがたいのが、ジャズ好きのドルーピーがノミのジャズ・バンドを体内で飼うという話。ノミ楽団のリーダーの名前はピー・ウィー・ラントという。これがキャピトル・レコードに数多くの作品を残すトロンボーン奏者Pee Wee Huntの“もじり”であることを知ったのは、ジャズに心を奪われてしばらくしてからのことだ。
ピー・ウィー・ハント
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