サックス記事 早わかり! ラテンジャズ・サックス史  ラテンとジャズの融合〜発展の流れ サックス記事 早わかり! ラテンジャズ・サックス史  ラテンとジャズの融合〜発展の流れ
THE SAX vol.90 Special Contents-2

早わかり! ラテンジャズ・サックス史  ラテンとジャズの融合〜発展の流れ

THE SAX 90号では、意外と深く知る人が少ない、ラテンジャズ・サックスにフォーカス! そんなラテンジャズ・ビギナーの方は、このコーナーを読んで、ラテンジャズとサックスの出会いから発展におけるポイントとなるヒストリーをつかもう! (文:原田和典) 

1910年〜
ジャズとラテンは今世紀初めにはすでに仲良しだった。W.C.ハンディが採譜したとされる「セントルイス・ブルース」(1914年出版)にはハバネラ(アバネーラ)が使われているし、ジャズ初期の偉大なピアニスト/作曲家であるジェリー・ロール・モートンは自らのサウンドにあるラテン音楽からの影響を“スパニッシュ・ティンジ”とよんだ。デューク・エリントンの『マオリ』(30年)やルイ・アームストロングの『南京豆売り(エル・マニセロ)』(同)も、ぼくにとってはラテンジャズ黎明期の傑作だ。

 

1940年〜
ただ「サックスとラテンジャズの本格的な出会い」となると時代はもう少し後に移る。2018年の今になっても、どうしても聴いていただきたくてしようがないのがソプラノ・サックス奏者シドニー・ベシェの“オリジナル・ヘイシャン・ミュージック”と題されたセッション(39年)だ。ペーソスに満ちたメロディと沸き立つようなリズムの宴は、80年の歳月を軽く超えて胸に迫ってくると思う。40年代のニューヨークでラテンとジャズの融合に最も意欲的に取り組んだのはキューバ出身のバンド・リーダー、マチート(フランク・グリージョ)であった。トランペットとサックスをこなす凄腕マリオ・バウサーを音楽監督に擁し、チャーリー・パーカー(As)、フリップ・フィリップス(Ts)、ブリュー・ムーア(Ts)などをフィーチャリング・ソリストに迎えて傑作を連発。全6楽章からなる『アフロ・キューバン・ジャズ組曲』は永遠の金字塔だろう。マチート楽団は50年代にもジョニー・グリフィン(Ts)を迎えた「マチート・ウィズ・フルート・トゥ・ブート」、キャノンボール・アダレイ(As)を迎えた傑作「ケニア」を残している。
マチート
マチート「アフロ・キューバン組曲」

 

1950年〜
キューバ出身の奏者では1913年生まれのホセー・チョンボ・シルバ(Ts)がラテンジャズの草分け的ひとりだろう。ついた呼び名が“キューバのレスター・ヤング”、50年代に渡米してスウェーデン系アメリカ人ヴィブラフォン奏者であるカル・ジェイダーのバンドに入った。2012年にCD化されたパナマ録音「JOSE “CHOMBO” SILVA with LOS EXAGERADOS」では、いわゆるデスカルガ(ジャム・セッション)形式で気持ちよさそうに吹きまくるチョンボの姿に触れることができる。
ホセー・チョンボ・シルバ
「JOSE “CHOMBO” SILVA with LOS EXAGERADOS」

 

1960年〜
60年代にラテンと結びついて際立った成果をあげた奏者としてはエリック・ドルフィー(As他)とバンキー・グリーン(As)を別格と呼びたい。ドルフィーはラテン・ジャズ・クインテット(異なるメンバーのものが2種類存在する)と、それぞれ「キャリベ」(60年)、「ザ・ラテン・ジャズ・クインテット」(61年)を共作。スティーヴ・コールマンやグレッグ・オズビーら後進からも絶大な評価を受けるバンキーは「バンキー・グリーンのラテン化計画」(66年)でマンボやブーガルーに取り組んだ。しかもバンキーはここで電気サックス(ヴァリトーンというエフェクターを使用)、さらにシカゴのドゥーワップ・コーラス“ザ・デルズ”をゲストに迎えているのだ。この混じり具合、半世紀先を行っていたR+R=NOWではないか……という気もぼくにはする。
エリック・ドルフィー キャリべ
エリック・ドルフィー「キャリべ」

 

ドルフィーやバンキーの先輩格にあたるソニー・スティット(As,Ts)は「スティット・ゴーズ・ラテン」(63年)という快作を残す。ドラムスはコンガ奏者としても知られるウィリー・ボボ、ピアノは“ラテンジャズ界に颯爽と登場したばかりの新鋭”チック・コリアが担当している。60年代では他に、フルートよりもテナーサックスで大活躍するモンゴ・サンタマリア楽団時代のヒューバート・ロウズ、“プエルトリコ系のジョン・コルトレーン”として将来を期待され、ティコ・オールスターズ等で演奏したが惜しくも夭折したアル・アブルー(Ts)のプレイにも注目したい。
ソニー・スティット
ソニー・スティット「スティット・ゴーズ・ラテン」

 

1970年〜
70年代以降はさらに多士済々だ。ティト・プエンテ楽団等で活躍したドミニカ生まれのマリオ・リベラ(Ts)、キューバの超絶バンド“イラケレ”で世界に飛び出したパキート・デリヴェラ(As)のプレイは、ぜひ押さえておきたいところ。若き日にはモード・ジャズ~フリー・ジャズ畑で活動していたアルゼンチン出身のガトー・バルビエリ(Ts)も70年代以降はラテン・ジャズ・フュージョンというべき世界に歩みを進めた。より近年ではジェーン・バネット(Ss)(カナダ出身だがアフロ・キューバン・ジャズへの探求を続ける)、ヨスバニー・テリー(As)、セサル・ロペス(As)の活躍が突出している。
またアンサンブル形式でのラテンジャズ・サックスを味わってみたいという方には、キューバ生まれのグループ“ハバナ・サックス”、“マジック・サックス・カルテット・デ・サンティアゴ・デ・キューバ”、“キューバン・グルーヴィング”がお勧めだ。とにかくラテンジャズの世界は、俺たち私たち、まだラテンジャズのことちっとも知らないんじゃねえの? と思わずにはいられないほど奥が深くて広い。
セサル・ロペス
セサル・ロペス
サックス