[2ページ目│記事トップ]
THE SAX vol.92
藤野美由紀 「キャンディー・ダルファー・マスター・ブック」発刊10周年記念スペシャルインタビュー
彼女が敬愛するキャンディ・ダルファーを題材に自ら手がけた教則本「キャンディ・ダルファー・マスター・ブック」の発刊から10年が経った。ここで再び彼女に登場いただき、ルーツや最近の活動について話を伺った。
求められたのはオリジナリティ
- ――
- 男性が中心といってもいいその頃のシーンで、女性奏者として苦労したことはありますか?
- 藤野
- ちょうどキャンディが出てきた90年代、私がプロ活動を始めた頃なのですが、プロデューサー的な人たちが音楽に対しても女性に対しても厳しく、ある意味やりやすくもありやりにくい時代でもあったんです。そんな中で、女性奏者としてどう道筋を作ったらいいか分からなくて……。途中で潰されそうになったこともありましたし、競争も激しい時代でギクシャクしていて、いまみたいに女性サックス奏者同士で集まって……みたいなことは本当にありませんでしたね。でもそのあとに、ちょっと時代が変わってくるんです。ちょっと女性を引き上げようという時代に。
でもその頃、キャンディを目指しているって言ったら、それは言わないほうがいいよと言われていました。キャンディのマネごとなんかせずに、オリジナルで行けって。今思うと、それって正解なのかなって思うんですけどね。でも私はキャンディが大好きなので、2000年以降からは堂々と公言していましたね(笑)。 - ――
- 演奏面で苦労したことはありますか?
- 藤野
- 女性でありながらも、男性のような太い音でサックスを吹きたいという思いがあったので、常にイメージを持って太い音を出すためにマウスピースやリードのセッティングをいろいろ探りました。そのうちに、ただ野太いだけじゃなく、繊細さもほしいと思うようになってきて、色気的なものも意識するようになってきました。女性のセクシーさって、繊細さの中にあると思うんですよね。
- ――
- 最近は女性のサックス奏者が急激に増えてきました。藤野さんとしてはどのように思われますか?
- 藤野
- 2000年に入った当初、しばらくジャズの女性プレイヤーは多かったけど、フュージョンやファンク系はまだ少なかったですね。そして2004年の映画「スイングガールズ」の影響で、女性のプレイヤーも増えていったんでしょうけど、そんなことに気づきもせずに私はただただ夢中に活動していました。その後は音大にジャズ科も増えてきて、そこで学んできた人たちが、いまプロとして活動しはじめて増えてきているのではないでしょうか。
私が20代の頃は、音楽を学ぶツールが今に比べて少なかったから、最近の人たちよりも上達のスピードが遅かったかもしれません。だから、現役の音大生や音楽教室のインストラクターの若い人たちが、コレを使っていますって「キャンディ・ダルファー・マスターブック」や「Funk & Soul」を持ってきてくれたときは嬉しかったですね。
若い女性プレイヤーから、「私たちは、藤野さんの背中を見て育ったんです」って言ってもらったことがあるんですけど、それを聞いて、私が試行錯誤してきたことは間違ってなかったんだな、何か女性の皆さんにヒントが与えられたんだったら良かったのかなと、しみじみ思いました。
今は情報が溢れていていい時代になったなと思うんですけど、若いプレイヤーの皆さんには、今やっていることのルーツをもっと学んで、そこからオリジナルを生み出してほしいなと思っています。
ノウハウを伝授していきたい
- ――
- 現在、後進の育成にも力を入れている藤野さんですが、どのような生徒さんが多いですか?
- 藤野
- 石森管楽器(東京都・大久保駅近く)とa-note music school(東京都・目白駅近く)で個人レッスンを行なっていますが、やはりファンク、ソウルが好きな人が多いですね。仕事も趣味もちゃんとやります!みたいな明るくて前向きな感じの人が多いですね。あと最近、島村楽器でインストラクターの方たちに教える機会もいただいています。教えることの意味やノウハウを少しずつ伝授しています。将来的には、生徒さん自身がプロとして演奏活動を続けられるようなインストラクター養成講座をできたらいいなと思っています。
- ――
- 生徒さんに教えるときに、一番大事にしていることは何ですか?
- 藤野
- まずは、お話することです。コミュニュケーションをとるようにすると、この人は何を求めているのか?というのが見えてくるんです。ふざけたことを喋っていても、結構見ているんですよ(笑)。リラックスしてモチベーションをあげる。私自身も、講師向けのセミナーを受けています。
- ――
- 今後のファンク&ソウル、またはサックスシーンに期待することは?
- 藤野
- サックス=ジャズというイメージが強いと思うのですが、ジャズから派生した音楽もたくさんあるんですよということをもっとたくさんの人に知ってもらいたいですね。藤井尚之さんや武田真治さんなど著名な方々にはサックスを持ってどんどんメディアに出ていただき広めてほしいです。
- ――
- 今後の展望をおきかせください。
- 藤野
- アーティスト活動としては、ソロはもちろん、今後もいろんな人と共演を重ねていきたいです。いま発売中の最新作でお世話になったエディ・Mさんが、次回は全面的にサポートしてくれると言ってくれているので、また一緒にやりたいと思っています。そして2020年に新しいアルバムを出すことを目標にしています。レッスン活動のほうはさらに幅広くやりたいと思い、WEBサイトを立ち上げました! そこで「THE SAX」と連動したオンラインレッスンも予定しています。ぜひ見に来てください!
登場するアーティスト
藤野美由紀
藤野美由紀
Miyuki Fujino
FUNK,SOULを中心とする、日本のサックス奏者。ソロ活動を展開し、国内外多数の有名アーティストとの共演。リーダーアルバムを4枚リリース。アルソ出版からCandy Dulfer Master Bookや、FUNK&SOULなどの著書もリリース。 2018年 5月には、ギタリスト佐橋佳幸によるプロデュースで、アルバムRight Timeを制作し、アメリカのファンキーサックス奏者 Eddie.M(プリンス、シーラE、13cat'sのサックス奏者)をスペシャルゲストに迎える。2019年には台湾のP.Mauriatと米国Jody Jazzと契約。2022年New Album、SAXIE FUNKをリリース。日本から世界に向けてFUNKな音楽に乗せてメッセージを発信し続けている。
YouTubeチャンネル:FUNKY SAX 藤野美由紀