サックス記事 バラード・アルバムのシリーズ第6弾をリリースした現代のテナー巨人
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THE SAX vol.108 Cover Story

バラード・アルバムのシリーズ第6弾をリリースした現代のテナー巨人

ARTIST
 

2022年、新年あけましておめでとうございます。未だに肌寒い冬の季節が続きますが、日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。今号はサックス界だけでなく多くのジャズファンやミュージシャンから絶大な支持を得るサックスプレイヤーのEric Alexander氏に登場していただきます。筆者が90年代にニューヨーク・マンハッタンに来て以来、個人的にも長い間お付き合いをさせていただいているエリックにインタビューをさせてもらいました。取材場所はプロモーターでVTY Jazz Artsの代表のArnie Perez氏が主催するニューヨークの素晴らしいクラブ「The Cutting Room」からお伝えします。なおニューヨーク市はインドアのイベントについてはコロナウイルスのワクチン接種証明書の提示が義務付けられています。写真はCutting RoomのオーナーのSteve Walter氏。

 

Text/Photos by Yuki Tei (yukiteiphoto.com) IG: @yukiteiphoto and @yukiteimusic
Special Thanks to: Arnie Perez (vtyjazz.com), Steve Walter at the Cutting Room (thecuttingroomnyc.com)

 

小学校でクラリネット、中学校でアルトサックスを手にする

Yuki
こんにちは。今日はお忙しい中ありがとうございます。本当にお久しぶりですが、お元気そうで。最後にお会いしたのはおそらくコロナ禍に入る数年前だったと思うのですが……。さて、早速ですが未だにパンデミックの真っ最中で、新種のオミクロンが猛威をふるっていますが、いかがお過ごしでしょうか?
Eric
Yukiとこうして会うのは久しぶりだね。パンデミックに突入する前は多くの演奏活動場所があったし、ツアー、そしてレコーディングなど色々なプロジェクトもあったのだけど、パンデミックに突入して以来、私たちの生活は本当に変わった。今まではごく“普通の”ことが普通でなくなってしまうのだから、人生どうなるか分からないよね。コロナのワクチンの接種率が上がり、ここ最近ようやくコンサートを行なえるようになってきたけど、未だに色々と大変だね。
Yuki
本当に平和で健康に過ごせる日々が一日でも早く訪れると良いですが。さて、ここからは時代をさかのぼり、Ericの育った環境や音楽との出会いなど、あまり知られていないお話を聞かせていただきます。
Eric
1968年にイリノイ州で生まれたけど、父親が大学の教授だった関係からワシントン州の州都のOlympiaに幼い頃に引っ越し、そこで高校を卒業するまで育ったんだ。一番最初に始めた楽器はピアノで、小学校5年生の時にクラリネットを学校のバンドプログラムで吹くようになった。中学校に入るとバンド ディレクターからバスクラリネットを勧められた。でもバスクラリネットを教えてくれる先生がいなかったので、アルトサックスを吹き始めた。当時は特にこれといって音楽にすごく興味があったというわけではなかったね。でも、高校3年生になって将来の進学などを考え始めた時に、当時とても大好きだった映画「Breaking Away」(1979年制作。日本でのタイトルは「ヤング・ゼネレーション」)の影響で音楽の学校を目指すことにした。その映画の舞台背景がインディアナ州のBloomingtonで、インディアナ州立大学ブルーミントン校だったんだ。だからその大学に行きたいというごく簡単な志望理由だったんだけどね。
Yuki
長年お付き合いをさせていただいていますが、エリックがクラシックサックスを演奏していたり、インディアナ大学に在籍していたなんて初耳ですね。インディアナ大学ブルーミントン校の音楽科は長い歴史がありますし、Eugene Rousseauやジャズの教育者で知られる故David Bakerも教鞭をとっていました。以前に故マイケル・ブレッカー氏も短期間ですが在籍したことがありますよね。
Eric
そうだね。そうしてインディアナ大学に入学したんだけど、サックス科と政治学科の両方を専攻していたんだ。当時は音楽で生計を立てていきたいなんてまったく考えてもいなかったからね。アルトサックスでクラシックの勉強はしていたけど、あとは一般教養のクラスなどで勉強していた。ところが、あるパーティの仕事があってテナーサックスを吹かなければいけなくなった。当時はジャズのスタンダード曲などもまったく知らなかったし、ブルースやII-Vなどのジャズ理論もまったく分からないというレベルだったんだよ。でもテナーサックスを演奏し始めるとどんどんジャズのことが好きになってきてね。それからはもっと上手くなりたいという気持ちが俄然強くなっていった。
しかし、インディアナ州は田舎で自分に適した環境でないと考えるようになった。やはりニューヨークに行かないといけないなと思いDavid Baker氏に相談したら、ニュージャージー州にあるWilliam Paterson大学のジャズ科を勧めてくれたんだ。誰が教えているかなどまったく分からなかったんだけど、ニューヨークからそれほど離れていないし、彼の言葉を信じてダメもとでオーディションを受けてみたら、合格したんだ。晴れてニュージャージーに引っ越すことになって、新学期が始まる前の夏休みはもう練習を何10時間もしていたよ。恥ずかしいことにチャーリー・パーカーは聴いたことはあったんだけど凄さはあまり分からなくてね。ある日突然、そして徐々に彼のすごさが分かり始めて、それからたくさんジャズを聴くようになったんだ。
 

次ページにインタビュー続く
・ニュージャージーに出てジョー・ロヴァーノらに学ぶ
・いかにメロディを“唄う”かに注力したバラード作「Gentle Ballads Ⅵ」

「Gentle Ballads Ⅵ」のメンバーであるジョン・ディ・マルティーノ(Pf)とエリック(写真提供:ヴィーナスレコード)

●CD Information

「ジェントル・バラッズⅥ」
エリック・アレキサンダー


【VHCD-1296】¥2,934(税込)
ヴィーナスレコード

[収録曲]ソー・イン・ラブ、セイ・イット、レッツ・ザ・サイレンス・スピーク、ムーン・アンド・サンド、ユアー・マイ・スリル、ハッシャバイ、エスターテ、アイ・シー・ユア・フェイス・ビフォア・ミー、ブライト・モーメンツ、これからの人生

[演奏]エリック・アレキサンダー(Ts)、ジョン・ディ・マルティーノ(Pf)、デズロン・ダグラス(Bass)、ウィリー・ジョンズIII(Ds)
 

PROFILE
ERIC ALEXANDER(エリック・アレキサンダー)

1968年8月4日、イリノイ州ゲイルズバーグ生まれ。6歳でピアノのレッスンを開始、クラリネット、アルトサックスを経てハイスクール卒業後にテナーサックスを始める。1991年にはセロニアス・モンク・ジャズ・コンペティションで銀賞を獲得。1992年には初リーダー・アルバム「Straight Up」を発表。以来、現在まで多くのアルバムを残す一方で積極的にツアーを行ない、“世界で最も多忙なジャズ・テナーサックス奏者”とも言われている。2004年にリリースされた「Gentle Ballads」(ヴィーナスレコード)はジャズ・ディスク大賞の「銀賞」「制作企画賞」をダブル受賞。そして今年、シリーズ第6弾となる「Gentle Ballads Ⅵ」(同)を第5弾から10年ぶりに発表。さらに深みを増した円熟のプレイが堪能できる仕上がりとなっている。

 
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