サックス記事 vol.4「あこがれの気持ちを持ってポジティブに練習しよう」
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THE SAX vol.26(2007年11月25日発刊)

vol.4「あこがれの気持ちを持ってポジティブに練習しよう」

LESSON

THE SAX vol.23から全50回に渡って連載された、須川展也の「Shall We SAX!」がSAX ONLINEで全文掲載!
第一線で活躍を続ける須川展也のトークを毎週更新します!

最近のスガワ

THE SAX 読者の皆さん、こんにちは。

晩秋を迎えたこの頃、皆さんそれぞれの“○○の秋”を楽しんでいらっしゃることと思います。僕はというと、9月末から始まったトルヴェール・クヮルテットのツアーをはじめ、イギリスで行なった新作アルバムの録音など、しっかり“芸術の秋”を過ごしていました! 特に、トルヴェール・クヮルテットのコンサートでは、たくさんのお客さんに見守られながら、20周年を迎えた僕らの思いを演奏に乗せてすべてを出し切ることができました。応援してくださる方々に感謝の気持ちでいっぱいです! ツアーはまだまだ続きますので、ぜひ僕たちに会いに来てくださいね。

 

 

 

上達お助けツールご紹介 Play編

海外での録音……という話が出たところで、今回は以前オランダで行なったレコーディングの音をいよいよ皆さんにお届けできることになりましたので、紹介させてください。

「須川展也 インストゥルメンタルテキストシリーズ」。これは、オランダのデ・ハスケ社から発刊される、「音楽表現やサウンドの向上を図るためのCD付き教材シリーズ」で、付属CDの模範演奏を僕が担当しています。すでに6冊が発売されているのでご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、今回新たに5冊発売されることになりました。

クラシックサックスのレパートリーは、誰もが知っている名曲と呼ばれる比較的優しい曲と、技術的にとても難しい専門的な曲の2つのカテゴリに大きく分けられると思います。つまり、残念なことにその中間レベルの曲があまりないのです。そのため、自分のレパートリーがだんだん増えてきたところでいきなり難しい曲にチャレンジしなければならず、挫折感を味わう人が多いのではないでしょうか? その中間的レベルのレパートリーを充実させたいというのがこのシリーズの目的なんです。中庸レベルというのは決して音楽的に劣るということではなく、リズミックな曲を楽しく吹いたり、きれいなメロディを歌ったり、ちょっとジャズのエッセンスを取り入れたりしながら、いろんな音楽のスタイルに触れることができるようになっています。

特に今回、僕のほうからお願いして実現したのが、「フェルリングの48のエチュード」のうち30曲くらいを選んでピアノ伴奏をつけてもらったこと。フェルリングのエチュードはサックスを勉強する人ならまず100%取り組むもので、大変きれいなメロディやいろんなリズム、拍子、すべての調性が含まれており、音楽的にも価値のある大切なエチュードです。サックスは単音楽器ですから、単旋律を吹きながら自分の頭の中で和音を想像することが大切です。しかしそれは、音楽の勉強を始めたばかりの人には難しいことだと思うので、和声を感じやすくするためにピアノ伴奏を作曲してもらい、収録したわけです。

その他は大半がこのエチュードのために作曲された曲ですが、中には有名なメロディもあるし、デュオもあります。僕の演奏を聴いてイメージを作り、マイナスワンで吹いてもいいし、お友だちにピアノを弾いてもらってアンサンブルしてもいいし……1曲1曲エチュードのように進めていき、様々な音楽のスタイルを学んでいけば、知らず知らずのうちに実力がついていると僕は確信します! そしていずれはサックスのために書かれた名曲にも挑戦できるようになるでしょう。


さて、このレコーディングは昨年5月に、オランダのヘーレンヴェーン北にある町のデ・ハスケ社スタジオで、丸一週間かけて行ないました。1日にだいたい20曲ずつ、朝から晩まで毎日レコーディングです。膨大な曲数があって事前にすべての譜読みができる量ではないので、その日の録音が終わったら翌日の曲をひと通り見てから帰るという毎日でした。しかもそのレコーディング前に僕は、イギリスでエドワード・グレグソン氏のコンチェルトを初演するコンサートがあり、そのままフランス、スペイン、イタリアでマスタークラスやコンサートをこなしていました。1ヶ月に渡るヨーロッパでのプロジェクトの最後にこの大変なレコーディングが来て、かなり体力的に疲労していたんです。でも、いいものを作りたい!という一心で自分の限界に挑戦しました。 特にフェルリングのエチュードは、“エチュード”ですから細かい部分が難しく、僕は初心に返って必死に演奏しました。エチュードって勉強するためのものだから、“忍耐”というキーワードが思い浮かんでいたんですが、ピアノパートが付いた今回の出会いで「こんなに美しいメロディだったのか」という再発見がありました。もちろん、人それぞれの解釈があるので「こういう伴奏じゃないほうがいいな」と思う人もいるかもしれませんが、これも発想のひとつだと思って取り組んでいただけたら嬉しいですね。

「練習しなさい」と言われて練習しているうちは苦痛が伴いますが、「楽しいな」「素敵だな」と感じてから練習に取り組めば、ポジティブに進んでいけると僕は思うんです。上手くなるためには、プレッシャーを感じたり悩むだけじゃなく、楽しいと思って自分からチャレンジしてみる気持ちが一番大事です。よく、「どうしたら良い音が鳴りますか?」とか「どうしたら上手くなりますか?」などの質問を受けますが、それにはまず「自分の好きな音」を作ること。「こういう音を出したい」とか「こんなふうにスムーズに吹きたい」というようなあこがれの気持ちを持って、それに自分から挑むことが、上達への第一歩だと思います。

今回僕は、このレコーディングに一週間取り組んだ中でくじけそうになった時もありました。体力的にも精神的にもキツいスケジュールでしたが、美しいメロディ、楽しいリズムに励まされながら、とても良いものが残せたと思います。これを聴いたみなさんがちょっとでもサックスを好きになって、目標にして、上手くなっていってほしい。そんな思いで自分を励ましながら乗り越えました。

この曲集が、少しでもみなさんの上達の役に立てたら、とても嬉しく思います!

※このコーナーは、「THE SAX」で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

次回のテーマは「レコーディング現場ってどんな感じなの?」。
CDの録音ってどんな風にしているの?指揮者やオーケストラとはどんなやり取りがあるの?レコーディング経験豊富な須川さんがお応えします。お楽しみに!

登場するアーティスト
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須川展也
Nobuya Sugawa

日本が世界に誇るサクソフォン奏者。そのハイレベルな演奏と、自身が開拓してきた唯一無二のレパートリーが国際的に熱狂的な支持を集めている。デビュー以来、長年にわたり同時代の名だたる作曲家への作品委嘱を続けており、その多くが国際的に広まっている。近年では坂本龍一『Fantasia』、チック・コリア『Florida to Tokyo』、ファジル・サイ『組曲』『サクソフォン協奏曲』等。東京藝術大学卒業。第51回日本音楽コンクール、第1回日本管打楽器コンクール最高位受賞。出光音楽賞、村松賞を受賞。98年JTのTVCM、02年NHK連続テレビ小説「さくら」のテーマ演奏をはじめ、TV、ラジオへの出演も多い。89年から2010年まで東京佼成ウインドオーケストラのコンサートマスターを務めた。最新CDは16年発売の「マスターピーシーズ」(チック・コリア/ファジル・サイ/吉松隆)。トルヴェール・クヮルテットのメンバー、ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督。東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。