サックス記事 サックス・カルテットJGに訊く ヤナギサワ漆サックスの音色
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THE SAX vol.93 Interview

サックス・カルテットJGに訊く ヤナギサワ漆サックスの音色

GEAR

日本古来の伝統工芸である漆芸を身に纏った「漆塗りサックス」が、世間を賑わしている。2018楽器フェアでもこの漆サックスのカルテット4本が展示され、Twitter等のSNSでも14,000以上のリツイート、27,000以上の「いいね」を得てトレンド入りし、大きな反響を呼んだ。メンバー全員が実際にこの漆サックスを奏で、演奏活動を行なっているサックス・カルテットJGに、漆サックスについて語ってもらった。

いま、日本古来の伝統工芸である漆芸を身に纏った「漆塗りサックス」が、世間を賑わしている。本誌でも昨年6月に輪島・漆芸美術館で開催された漆サックスによるコンサートをレポートしたほか、2018楽器フェアでもこの漆サックスのカルテット4本が展示され、Twitter等のSNSでも14,000以上のリツイート、27,000以上の「いいね」を得てトレンド入りし、大きな反響を呼んだ。さらにテレビや新聞でも取り上げられているので、それらを目にして、どんな音がするのだろう?とご興味を持たれた方も多いのではないだろうか。そこで今回は、メンバー全員が実際にこの漆サックスを奏で、演奏活動を行なっているサックス・カルテットJGに、漆サックスについて語ってもらった。
協力:柳澤管楽器 (http://www.yanagisawasax.co.jp/)、プリマ楽器/文:近藤香織

漆サックス,JG
左から津田真人さん(Ss)、近藤瑛美さん(As)、小林正憲さん(Ts)、笹尾淳一さん(Bs)

多くの人を魅了する、まろやかな音色

そもそも、この「漆サックス」は、富山大学芸術文化学部で漆芸を学んだ赤岩友梨江氏の卒業制作に端を発するプロジェクト。柳澤管楽器の協力を得て2015年に第1号機としてテナーが作られ、その後、新たにソプラノからバリトンまでのカルテットが完成。この4本のカルテットを、現在、JGがさまざまな場で演奏している。

――
漆サックスを実際に手にし、音を出してみて、どのようなことを感じられましたか?
津田
初めて見たときは、衝撃を受けました。ソプラノは沈金という技法で撫子とススキが描かれているのですが、本当に繊細で美しい加飾がなされていて、楽器というよりも芸術品といった感じで、触るのが怖いくらいでした。見た目の印象から吹奏感が重たそうという不安があったのですが、実際に吹いてみると吹奏感はむしろ軽くて吹きやすく、まろやかな音色がする楽器だなと思いました。
笹尾
バリトンには螺鈿といって貝を貼る技法が用いられていて、その厚みぐらいまで漆が塗り重ねられているそうなので、僕もやはり重い音というか、音が出しにくいのかなと予想していたのですが、吹いてみるとむしろ軽い印象でしたね。低音でバリバリ鳴らすのがバリトンらしさだと言われることも多いですが、僕はむしろ柔らかさだとか、たとえばファゴットのような木管低音みたいな音色が好きで、この漆サックスは、そちらに近い、まろやかというか丸みのある音色、という感じです。
漆サックス,ソプラノ
ソプラノ(沈金仕上)
漆サックス,バリトン
バリトン(平蒔絵・螺鈿仕上)
 
小林
テナーは、赤い椿がドーンと描かれているのがとても印象的でかっこいい! 音色は、漆の見た目のイメージどおり、光っているけど乾いているみたいな状態に近い、マットな音がするなって思ったんですよ。ダークめだけど、音の外側はクリアな感じ。
近藤
アルトには平蒔絵、そして金梨地という技法が用いられていて、そのキラキラしているグラデーションが、一目見て気に入りました!てんとう虫があえて目立たないところについているのも日本的ですよね。吹いた印象ですが、クラリネットにも近いような、温かくて丸い、まとまりのある音で、まさに、こういう音が出したい!と思っていた音色が出てびっくりしました。
漆サックス,テナー
テナー(平蒔絵・高蒔絵仕上)
漆サックス,アルトアルト(平蒔絵・高蒔絵・螺鈿仕上)
 
――
JGの皆さんは、普段ヤナギサワのシルヴァーソニックを演奏なさっていて、以前、本誌にご登場いただいた際、シルヴァーの楽器は低音の響きや音の柔らかさ、まろやかさ、力強さが特徴だとお話いただきました。それと比較して、漆サックス(ブラス製)の特徴は?
笹尾
シルヴァーは、柔らかい音も出せるし、バリバリも吹けるし、やはり表現力に幅があります。漆は柔らかい音が特徴で、その柔らかさには温かみや深みがあって、響き方も、直線的ではなくて会場全体に響く、という感覚があります。
小林
シルヴァーはジューシーでウェットな感じ、漆のほうは、角がとれていてマットな音。柔らかい音というのはどちらの特徴でもありますが、その柔らかさの質が、両極端な位置にある気がします。
津田
僕は、シルヴァーのソプラノ・サックスはヴァイオリンみたいな、漆のほうはフルートとかオーボエみたいな音色だと思っています。シルヴァーは、響きが高く、繊細なコントロールにも応えてくれて、かつ、サックスらしいパワーも持っている。漆は反応速度が本当に速くて、ppの繊細なコントロールもしやすく、より木管楽器的なニュアンスが再現しやすい。吹奏感も、フルートとヴァイオリンを持ち替えているくらい感覚が違って、表現できる幅がそれぞれにあるので、両方吹かせていただいていること自体、すごく楽しいです。
漆サックス,JG
――
漆サックスを手にされてからしばらく経ったいま、楽器が育ってきたというか、何か変化を感じていらっしゃいますか? またそれは、たとえばシルヴァーソニックの育ち方と比べて、どのように違いますか?
近藤
漆芸制作指導をされた林先生にも同じ質問をされたことがありますけど、まだそこまでの変化は特に感じていないですね。漆は、他のプレイヤーの方が吹かれているのも聴きましたが、やはり誰が吹いても柔らかくて丸い音がするなと思いました。ただ、皆さんおっしゃっていましたが、ほかの管楽器の方たちと一緒にやると、ちょっと埋もれちゃう。だから、シルヴァーの中に漆1本とかだとバランスが難しい。やはり漆4本のアンサンブルでこそ、この音色の良さが一層生きてくるのだと思います。
笹尾
たしかに、アンサンブルはしやすいですね。シルヴァーソニックは、個が浮き出て聴こえて、それが全体で混ざり合うような感じですが、漆は、もとから同じような音が出ていて、ひとつのまとまった音として混ざりやすい、というイメージを持って吹いています。
漆サックス,JG

漆サックスと「和」との共演

昨年11月、漆サックス発祥の地・富山の富山能楽堂で開催された「漆SAX TOYAMA Debut Concert」は、とりわけ印象に残るステージだった。能楽堂という静謐な空間に和装で登場したJGは、4本の漆サックスのための委嘱邦人作品をはじめ、日本の童謡・唱歌、ポップス、ジャズやタンゴなどさまざまなジャンルの楽曲を披露。途中、従来の楽器との吹き比べや、漆芸制作を行なった赤岩氏と漆芸指導に携わった富山大学・林曉教授による解説もはさみながら、漆サックスが見た目の美しさにとどまらず音楽的にもさまざまな可能性をもたらすことを提示した説得力のある演奏会となった。

漆サックス,JG
写真:山瀬剛志
――
「能楽堂」や「和装」という、「和」との共演のアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか?
津田
このコンサートは、主催の富山市民文化事業団、富山市、富山大学芸術文化学部の方々が中心となり、セッティングしていただきました。
小林
主催の方から、せっかくなら着物の演奏は可能でしょうか?とご提案いただき、地元の着物屋さんが衣装協力してくださいました。
近藤
全曲を漆4本でレコーディングしたCD『genic2 漆』のジャケットでも和装しているので、ずっと着物で演奏会をしたいと思っていて、やっと実現できて嬉しかったです。でも、着物でサックスを吹くのはすごく苦しかったです!
――
富山のコンサートの中で、とりわけ4本の漆サックスのための委嘱邦人作品では、しっとりと落ち着いたまとまりのある音色の中に繊細な明晰さと潤いのある色彩感がキラリと輝き、声部の交錯が滑らかで、ハーモニーの柔らかさもまさに漆サックスならではのものだと、楽しませていただきました。普段、選曲は、どのようなことを意識して構成されていますか?
津田
僕たちとしては、CD『genic2 漆』にも収録している、漆サックスのための作品をまずは聴いていただきたいと思っていて、あとは先方からのリクエストにお応えするという感じで決めています。この漆の楽器を通して和の場面での演奏というものにもすごくご縁がある気がするので、和をテーマにした演奏にも挑戦してみたいなと思います。
小林
音色が楽しめる選曲をしていきたいですね。
笹尾
そして、その空間の響きとか音質感っていうものは実際にその場にいないとわからないので、是非、生で聴いてほしいですね。
――
では、今後、この漆サックスの演奏を生で味わえるチャンスは?
津田
今年の秋、九州と北海道でコンサートをさせていただくことが決まっています。また、漆芸の世界の方々ともこういう形でご縁ができたので、我々も微力ではありますが、漆芸という日本の文化を世界に発信できるひとつのきっかけにもなれば、と思っています。
近藤
春には埼玉でも演奏します。今後のスケジュールは、Facebookをチェックしてください!

サックスに漆塗装を施すことでどのような効果が得られるのかについては、現在、音響工学の側面からも研究が進められているそうだが、同じく漆が施されている和楽器とのアンサンブルなども聴いてみたいし、漆サックスの特徴を生かしたレパートリーの拡大にも期待が高まる。また、吹き込むにつれて楽器がどのように育っていくのかも楽しみだ。日本の伝統工芸との邂逅により、さまざまな分野において新たな道をひらきつつある漆サックス。是非、今後の展開にも注目してみてほしい。

漆サックス,JG
写真:山瀬剛志
漆サックス,ソプラノ
ソプラノ「秋の気配」
漆サックス,アルト
アルト「夏暁」
漆サックス,テナー
テナー「寒椿」
漆サックス,バリトン
バリトン「花の春」

 

撮影:富江延彦
柳澤管楽器 http://www.yanagisawasax.co.jp/
 

プロフィール
Saxophone Quartet JG


津田真人(Ss)、近藤瑛美(As)、小林正憲(Ts)、笹尾淳一(Bs)によるSAX四重奏グループ。2011年より活動開始。2016年、4人全員がヤナギサワのシルヴァーソニックを使用したSAXカルテットとしてデビューアルバム『genic1』をリリース。また、2018年には4人すべてがヤナギサワの漆SAXで演奏した2ndアルバム『genic2 漆』をリリース。第10回横浜国際音楽コンクール室内楽部門第2位。

Facebook:http://www.facebook.com/jg4sax.tokyo/

 


CD Information

「genic 2 漆 Urushi」
【FOCD-9783】¥2,700(税抜)
フォンテック

[収録曲]滝澤俊輔:サクソフォーンアンサンブルの為の小組曲 -SKY walker- より
I. Departure
II. Venetian
菅野由弘:猫はしばしば箱にもぐる IV 水上浩介:The Celestial Hierarchy
佐藤信人:永久の花
(「前奏曲」 第一曲「撫子」 第二曲「朝顔」 第三曲「寒椿」 第四曲「藤」)
[演奏] サックス・カルテットJG
[使用楽器]YANAGISAWA特製 漆のサクソフォン

 

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