サックス記事 齊藤健太×馬場智章 Special Saxophone Night
サックス記事 齊藤健太×馬場智章 Special Saxophone Night サックス記事 齊藤健太×馬場智章 Special Saxophone Night
ヤマハホール・コンサート・シリーズ 珠玉のリサイタル&室内楽

齊藤健太×馬場智章 Special Saxophone Night

 
 

クラシックとジャズ それぞれの視点で現代音楽を

前半はそれぞれのソロパートになりますが、どんなプログラムになりますか?
齊藤
僕は、最初にJ.S.バッハ『フルートと通奏低音のためのソナタ BWV1035』を演奏します。今回、一番に出てくる音になりますから、クラシック奏者として何をお客さまに提示できるかを考えました。誰が聴いても「これぞクラシック」というバッハを置くことは、ジャズとクラシックのタッグコンサートだからこそインパクトがあるかなと。その次に演奏するのは、棚田文紀『ミステリアス・モーニングⅢ』です。僕のあとに馬場くんがソロで演奏するので、まず彼が普段演奏しているものが何かを考えて、コンテンポラリージャズだなと。つまり、現代のジャズ。そこで、僕はクラシックから生まれた現代音楽を演奏することにしました。「ジャズから見た現代音楽」との対比ができたら、面白いのではないかなと。
なるほど。そして、そのバトンを馬場さんが受け取るのですね。
馬場
そうですね。実は、僕はまだ確定していません。このリサイタルの打ち合わせで、「そうだ! クラシックのみなさんは、演目発表するんだった!」と気づきました。僕らは、ほとんど事前発表しないので(笑)。いま考えているのは、いわゆるジャズのスタンダード曲と、自分のオリジナル曲をやろうかなと。選曲理由は、齊藤くんがいま話した観点とまったく同じです。クラシックファンのお客さまもいらっしゃるので、まずはジャズらしい音楽を届けるのと、「こんな音楽もジャズなのか!」という両方を見せたいなと。齊藤くんの気持ちをいま初めて聞きましたが、お互いに考えていたことは似ていたなと思いました。
先程、「クラシックとジャズは出音から違う」というお話がありましたが、やはり決定的な違いは音色ですか?
齊藤
間違いなく音色ですね。馬場くんの音は、色彩感豊かで振り幅がある。ヴァリエーションが多いと感じるし、それこそがサックスの魅力ですよね。僕らの音色は全く違うけれど、一緒に演奏するとどんなブレンドになるか。例えば、料理で「乳化させる」という言葉がありますよね。水と油のように本来混ざり合わないものが、ちょっとしたことでいい感じになる。これが音楽でも作れると、面白いかなと。
馬場
確かに(笑)。齊藤くんのスケール練習だけ聴いても、やっぱりすごいなと思います。楽器のコントロールが上手いし、「うわ、こんな音がでるんだ!」と驚かされます。お互いの特徴や優れている点が異なるだけに、それが合わさったときにどうなるのか、予想ができないですね。
会場となるヤマハホールは、どんな印象ですか?
馬場
僕は、今回初めて演奏します。ジャズの場合、小さなライブハウスで演奏する際は生音でやることが多いけれど、逆にコンサートホールでやるときは、フェスティバルなどが多いので、必ずPAが入る。今回のように、ホールでマイクなしというスタイルは、僕にとって大変めずらしい機会なので、楽しみにしています。
齊藤
僕は一昨年の年末にリサイタルをやらせていただいて、響きの良いホールという印象があります。ヤマハホールは、演奏家にとって憧れのホールのひとつです。今回のような新しい取り組みの幕開けを、こうしたホールで開催できるのは、光栄なことだと思っています。
 

二人が見据える日本サックス界の未来

以前、それぞれにお話を伺った際、齊藤さんは「日本をスーパーな国にしたい」と、馬場さんは「NYで培ったものを日本に還元したい」と話していました。世界を知るお二人から見て、これからの日本サックス界に必要なのは、どんなことだと思いますか?
齊藤
世界的に見ても、日本はサックス大国だと思います。権威ある「アドルフ・サックス国際コンクール」で優勝した過去二人だけの日本人である原博巳さんと僕は、どちらも長期的な留学経験がありません。これは、日本の教育が素晴らしいという証です。一方で、これは日本に限ったことではありませんが、バロックの教育が薄いと感じます。サックスでバッハの作品を演奏しても、サックスの演奏家たちが喜ぶバッハになってしまうのです。ピアニストやヴァイオリニストが「素晴らしいバッハだね」と感じる演奏をするプレイヤーが、ほとんどいません。その理由は、勉強が伴っていないからだと思います。この弱点を補填できてこそ、ようやくサックスがクラシックの楽器として認められるような気がします。今回のリサイタルで、僕がバッハの作品を置いたのは、自分自身がそうなれるよう頑張りたいという挑戦的な気持ちもあります。バロックや古典の作品は、サックスにはありません。だからこそ、サックスで演奏した時、ベートーヴェンらしい、モーツァルトらしい、バッハらしいと思っていただけるようになれば、本当の意味でクラシックの楽器になれると思います。
馬場
日本の教育は、まだまだ発展途上なのかなと僕も思います。もちろん、クラシックサックスの教育レベルは高いのかもしれないけれど、ジャズで世界と戦いたい人は、結局アメリカに行きます。僕もそうでした。それから、日本で管楽器を始めるきっかけのほとんどが、吹奏楽ですよね。僕は全く違って、最初からジャズ。ビッグバンドに入って、ただただ楽しく、音楽を通してみんな仲良くなろうというスタイルでした。だからこそ、僕はいまも続けている。もちろん、学校の吹奏楽など賞を目標とした音楽もあっていいと思いますが、若い時は単純に楽しく様々な音楽に触れる環境の選択肢がもっとあっていいのかなと思います。僕が参加していた札幌のビッグバンドでは地元の老人ホームで演奏してお年寄りと交流したり、地域のお祭りで演奏したりと、人々の暮らしと文化が密接していました。音楽が身近にあるという環境は、やっぱり必要だと思います。ニューヨークでは、みんなが路上演奏しているし、近所の人が老若男女問わず聴いています。日本にも、そうした環境があったらいいなと思います。
齊藤
僕がドイツに遊びに行った時も、橋の上で小さな男の子がトランペットを吹いているところに遭遇しました。技術はまったくないけれど、堂々とそこに立って演奏していて、とても微笑ましかった。日本ではあり得ない光景ですよね。かたや、オペラを聴きに行くと、小学生もタキシードやドレスをきて、家族全員が正装してホールに来ている。どちらも、日本にはない素晴らしい文化だと思います。
馬場
子ども扱いしないんですよね。僕が指導してもらったトランペッターのタイガー大越さんも、子ども向けの音楽はやりませんでした。プロプレイヤーが、本当にいいと思う音楽を提示する。それを、子どもが難しいと感じるとは限りません。実際、僕自身もかっこいいと思ったから、海外に行くまでになった。先入観のない小さな子どもだからこそ、本気の、世界レベルの音楽を生で体験できる環境を作ることで、より音楽に興味をもったり、音楽家にならなくても、オーディエンスとして日本の音楽業界も盛り上がっていくのではないでしょうか。
最後に、本公演に向けての意気込みをお願いします。
齊藤
「どんなコンサートになるのだろう?」と疑問に思うお客さまもいらっしゃると思いますが、今までにやってきた「ジャズとクラシックの融合」とは違った毛色になるし、新しいドアを開くリサイタルになると思います。「本気と本気がぶつかり合ったらどう混じり合うのか」を楽しみに、聴きにいらしていただけると嬉しいです。
馬場
僕は、普段こうした演奏会に足を運ばないという方々に、ぜひいらしてほしいです。僕の演奏をよく聴くという方には、齊藤くんの演奏を聴いてほしいし、逆もしかり。音楽の形はたくさんあるので、怖いもの見たさで見てくれたらなと。そして、今回は小学生以上から入れるので、子どもたちにも来てほしいです。僕らはそれぞれいろんな所で頑張ってきた二人なので(笑)、良いコンサートになるのは間違いありません。聴きにきてくださるお客さまにとって、何かのきっかけになれたらと思います。
 
登場するアーティスト
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馬場智章
Tomoaki Baba

1992年生まれ。札幌ジュニアジャズスクールにてサックスを始め、2005年、タイガー大越氏により開催されたBerklee College of Musicタイアップの「北海道グルーブキャンプ」で優秀賞受賞、2010年、テリ・リン・キャリントン(Ds)が指揮するBerklee Summer Jazz Workshopのメンバーに選抜、奨学生として参加。2011年、バークリー音楽大学に全額奨学生として入学以来、テリ・リン・キャリントン、テレンス・ブランチャード(Tp)、ジェイミー・カラム(Vo,Pf)等のグラミー・アーティストと共演。2016年から4年間 「報道ステーション」のテーマ曲を所属するバンド「J-Squad」で手掛け、UNIVERSAL MUSIC JAPANよりアルバム「J-Squad」、「J-Squad Ⅱ」を リリースし「Blue Note Tokyo」、「Fiji Rock Festival 17」にも出演。2020 年 に自身初のリーダーアルバム「Story Teller」、 2022年4月に2ndアルバム「Gathering」を発表。

登場するアーティスト
画像

齊藤健太
Kenta Saito

東京都出身。2015年、洗足学園音楽大学卒業、同時に優秀賞を受賞。2017年、東京藝術大学別科修了。第31回及び第34回日本管打楽器コンクールサクソフォーン部門第3位。第27回大仙市大曲新人音楽祭コンクール管楽器部門最優秀賞、並びに審査員推薦を受ける。
9th International Saxophone Competition Nova Gorica 第2位。2019年、第7回アドルフ・サックス国際コンクール第1位。洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団とH.トマジのサクソフォーン協奏曲で共演(秋山和慶指揮)。これまでにサクソフォーンを金井宏光、二宮和弘、須川展也、池上政人、林田祐和の各氏に、室内楽を池上政人、有村純親の各氏に、ジャズサクソフォーンを佐藤達哉、MALTAの各氏に師事。Saxophone Quintet “Five by Five”では「KENTA」として活動。ブリッツフィルハーモニックウインズ、コンサートマスター。

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