サックス記事 日本管打楽器コンクール1位受賞! ウクライナから世界のサクソフォニストへ
  サックス記事 日本管打楽器コンクール1位受賞! ウクライナから世界のサクソフォニストへ
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THE SAX vol.113 Interview

日本管打楽器コンクール1位受賞! ウクライナから世界のサクソフォニストへ

ARTIST

若手管楽器奏者の登竜門である第37回日本管打楽器コンクールで1位、並びに「内閣総理大臣賞」「特別大賞」を受賞した五十嵐健太は戦禍を逃れてウクライナから日本へやってきた。豊かな音楽性、多彩な音色が特徴の大注目のサクソフォン奏者だ。
日本で五十嵐を迎え入れ、そして指導にあたっているのはカルテット・スピリタスのメンバーであり、東京音楽大学で講師を務める波多江史朗。2人の出会いや、ウクライナと日本のサックス界についてなど、詳しく話を訊いた。
(取材協力:東京音楽大学/株式会社プリマ楽器)

ウクライナから来た生徒に恩返しを

日本に来た経緯を教えていただけますでしょうか。
五十嵐
ウクライナで戦争が始まってから日本に行こうと決めました。国籍が日本ですから。もともと日本の大学院に入りたかった、というのもあります。また、アイデンティティとして自分は日本人だと思っています。だから日本に住みたかった。国籍は日本だからヨーロッパよりも住みやすいのではないかと思っていました。ウクライナにいたときは将来どこの国に住むかはわからなかったけど、何年間かは日本に住みたいと思っていました。
五十嵐さんを迎え入れるとなったときの波多江さんの心境は?
波多江
何かできることがあれば、純粋に手助けをしてあげたいという気持ちがありました。クラリネット奏者のコハーン・イシュトヴァーンがハンガリー人で、健太のハンガリー人の友だちと知り合いでした。たまたま健太の話を聞いて、大学に相談したらウクライナの学業の証明ができれば編入が可能かもしれないと。ウクライナの学校もすごく協力してくれて、戦時中なのにすぐに彼の成績を送ってくれたんです。そして編入試験をして、東京音大に入るということになったんです。健太は私のことを全然知らないわけだから戸惑うかなと不安でしたが、信頼関係を作ろうと思いました。私自身がフランスに留学してたとき、ジャン・イヴ・フルモー先生にとてもよくしてもらっていたんです。最初のうちは英語しか喋れなかったけど英語でレッスンしてもらって、すごく丁寧に学校とのやりとりや手続きに関して協力してもらった。そんな経験があるから恩返ししたい、誰かから受けた恩だけどそれを誰かに返さなきゃと思っていて。だから信頼関係を作るのは、良い形で迎えてあげることだと思っていました。
五十嵐さんはウクライナと日本の音楽教育に違いを感じますか?
五十嵐
授業は日本のほうが厳しいです。ウクライナは授業に来なくても何も言われません。先生たちは生徒のことをよく知っているから、授業に来なくても「演奏会をやっているから大丈夫」と考えていますね。
波多江
ちゃんと音楽のことをやっていればいいということだよね。
五十嵐
曲も様々な作曲家に取り組みます。私はサックスではない楽器の曲が好きなので、それを演奏することが多いです。日本はすごくフランスの曲をやっていますよね。
波多江
日本はやっぱりマルセル・ミュールとかダニエル・デファイエの影響だよね。阪口新先生がまずミュールのレコードを聴いて衝撃を受けて、とそこから始まっているから。だからフランスのサックスオリジナルの曲をやるケースが多いんだろうね。

次ページに続く
・サックスが吹けなかった時代
・結果を見て手が震えた

 
CONCERT information
 
サクソフォンアンサンブルの饗演 vol.1 〜懐慕の旅〜
[日時] 2023年6月8日(木) 開場:18:30/開演:19:00
[会場] 横浜みなとみらいホール小ホール
[出演] 田村真寛、加藤里志、田中拓也、松下洋、本堂誠、五十嵐健太、黒岩航紀
 
マイゼィク・ローベルト SAXグラヴィール作品展(ミニコンサート)
[日時] 2023年6月17日(土) 13:00~/16:00~
[会場] リスト・ハンガリー文化センター東京
[出演] 五十嵐健太(Sax)、野崎玲欧(Pf)
 
東京音楽大学 シンフォニック ウインド アンサンブル 第54回定期演奏会
[日時] 2023年7月13日(木)14日(金) 18:00開演/17:15開場
[会場] ウェスタ川越 大ホール、東京芸術劇場コンサートホール
[曲目] H.トマジ/サクソフォーン協奏曲
 

 

●PROFILE
五十嵐健太(Kenta Igarashi)
群馬県伊勢崎市生まれ。5歳の時、母親とウクライナのキーウへ移住。7歳よりサクソフォーンとピアノを始め、合唱団へも参加。2013年KSSMSに入学し、Y.Vasylevych氏のクラスで学ぶ。2019年に国際ヨーロッパサクソフォーンフォーラム第1位、2020年にヤマハ・ミュージック・ガルフスカラシップ、2022年に第37回日本管打楽器コンクールサクソフォーン部門第1位及び内閣総理大臣賞、特別大賞受賞など、30以上の国際コンクールで入賞している。キーウサクソフォーンカルテットで演奏、またソリストとしてウクライナの優れたオーケストラと共演する。これまでに、中国、ギリシャ、ポーランド、アラブ首長国連邦、ウクライナなどの都市でコンサートに出演。現在、特別特待奨学生として東京音楽大学4年に在学、波多江史朗氏に師事。2022年より、ヤナギサワ・アーティスト。2023年度宗次エンジェル基金/公益社団法人日本演奏連盟新進演奏家国内奨学生。

 

●PROFILE
波多江史朗(Shiro Hatae)
東京音楽大学、同大学研究科修了。文化庁派遣芸術家在外研修員として渡仏。パリ国立高等音楽院を一等賞、セルマー賞を得て卒業。ソリストとしてポーランド・ザブジェ国立管弦楽団、東京交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、大阪交響楽団、千葉交響楽団などと共演。マンハッタン音楽院に招聘されマスタークラスを行なう。中高大学一般の吹奏楽団とのゲスト共演も多数。NHK芸術劇場、題名のない音楽会、BSプレミアム、FM名曲リサイタル、吹奏楽のひびきなどの音楽メディアにも多く出演。これまで4回のソロリサイタルを東京文化会館にて開催しいずれも高評を収めている。ソロアルバム「Songs」、サクソフォーン四重奏「カルテット・スピリタス」メンバーとしても数々のアルバムをリリースし、レコード芸術誌に於いて2作が特選盤に推薦されている。木管8重奏団「Take8」メンバー。東京音楽大学、尚美ミュージックカレッジの講師としても活躍し国際コンクール優勝者を育成している。

 
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