第1回 | 練習への疑問を一挙に解決!
練習を見直し、ほんとうに役立つ練習法や知識を提供するためのコーナーがスタート! ナビゲーターは吹奏楽を知り尽くしている田中靖人氏。
サックスが吹きたくて、張り切って吹奏楽部に入部した諸君! 思ったように上達できず、ひとりで悩んでいないだろうか?うまくなる近道はただひとつ、正しい練習方法と知識を知り、仲間と協力して楽しく練習すること。これまでの練習を見直し、ほんとうに役立つ練習法や知識を提供するためのコーナーをスタートする。ナビゲーターは吹奏楽を知り尽くしている田中靖人氏。
第1回目は、日頃から編集部に寄せられている練習への疑問を一挙に解決してもらおう!
▶︎Part.1 こんな練習法、ありですか? なしですか?
▶︎Part.2 こんなとき、プロはどうしていますか?
▶︎Part.3 こんな時にはどうすれば?
▶︎Part.4 大好きな音楽をずっと続けていきたい!
Part.1 こんな練習法、ありですか? なしですか?
Q. ロングトーンについての疑問です。
楽器を吹く前にマウスピースだけでロングトーンの練習をしています。これは効果的でしょうか?その際に気をつけることはありますか?
A. 初心者の人が最初のきっかけをつかむには適した練習法です!
これは、楽器を持ったばかりの人に勧めている練習方法です。楽器をつなぐと管が長くなるので、音を出すのが大変になる。その代わりに、マウスピースとネックをつけた状態のもので音出しをすると、管が短くて大量の息を使う必要がなく、吹奏感がラクで音に集中できるので効果的です。最初のきっかけをつかむには適した練習法といえるでしょう。
ある程度吹けるようになってからも、マウスピース+ネックでのロングトーンを続けている人もいますが、できるようになったら楽器をつないだ状態でロングトーンをしたほうが効果的だと思います。
この練習で初心者の方が気をつける点は、あまり力任せに音を出さないということです。楽器をつないでいる時も同じですが、ロングトーンの発音をやわらかくする。また安定した音を出せるように呼吸法にも気をつけること。たっぷり息を使ってロングトーンをすることですね。そして音の終わりも、やはりやわらかくする。そういったことを頭の中でイメージしてから音を出すことがいちばん大事。
言葉を話すときは、大声になったり、乱暴にならないように無意識のうちに調節して会話をしているはずです。それなのに、楽器を持つと、自分の出す音につい無責任になってしまう。歌と違って、楽器の場合はつい、息さえ入れれば楽器が音を出してくれると思って吹いてしまいがちなので、無責任になるんです。そうではなく、言葉を話すようなつもりで、これから出す音をイメージしてから吹く。これが上達につながる秘訣ですよ。
Q. 腹筋やランニングは演奏に関係あるの?
練習の前に腹筋やランニングをするのはどうでしょう?
A. 楽器の演奏には直接関係ないかもしれません…。
悪くはないと思いますが、楽器の演奏には直接関係ないかもしれません。健康のためにはいいと思います(笑)。それをやったから音が良くなるというわけではありませんよ。
Q.譜読みのときに、音源に頼るのはありですか?
譜読みのとき、顧問の先生がシーケンサーで作った音源やCDに頼ってしまうせいか、初見で楽譜を読むことができません。こうした練習方法をどう思いますか?
A. 耳を養うことも大事ですが、楽譜を読むトレーニングも必要です!
耳で音をとらえて演奏するのはとても良いことだと思います。理屈を抜きにして、聴いたままの音程やニュアンスを真似して吹くことはジャズではよくやりますし、クラシックでも幼い子どもの耳を養うという意味で良い方法だと思います。
ただ、中高生には、それとは別に楽譜を読むトレーニングも加えると効果的ですよ。楽譜を見て演奏するのは、アンサンブルでは重要なことですから。
僕が中学の吹奏楽部にいたころは「ファーストディヴィジョン」というバンド教則本を使っていました。スタッカートやテヌート、アクセントのエチュードが、それぞれ数小節の短い練習曲になっていて、他のパートやバンド全体とも一緒に練習できるんです。そういった短い合奏で読譜力を養い、できるようになったらそうしたニュアンスを使った『アメリカンパトロール』などの簡単な曲を合奏するようになっていました。
個人練習では、音階やエチュードを練習してから曲に取り組みますよね。バンドも曲だけを練習するのではなく、エチュードを合奏することで、耳と読譜力、合奏力を養える。アクセントひとつとってもいろいろなやり方があるから、最初は長めのアクセントにして、次は短めでやってみようとか、打ち合わせをしてから演奏すると効果的です。そうした練習が演奏者のボキャブラリーを増やし、実際の曲の演奏に生きてきます。ただ、それは僕の中学の時のことですから、今はもっと良いエチュードが出ていると思います。
Part.2 こんなとき、プロはどうしていますか?
Q. 合奏前のチューニングの順番は?チューニング以外の音を吹いてもいいの?
チューニングの時に木管から金管へと移行するのが普通ですが、バラバラになっています。お勧めの順番はありますか? また、チューニングの音以外の音をすぐに吹きたがる人がいてやめてほしいのですが、どのように思いますか?
A. プロの吹奏楽団の場合は、Aの音で合わせるのが一般的
プロの吹奏楽団の場合は、オーケストラのようにAの音で合わせるのが一般的なんです。ただ、いろいろな調性の楽器がいるので、Aの音だけを合わせてもすべての楽器の音が合うわけではないですよね。だから、チューニングではAの音とハーモニーとして関連するC#やEなどの音もオクターブ上下含めて吹きます。聴きながら吹くことによって、自分の楽器にとっていちばん仲のいい音程に行き着くようにしているんです。
でも、スクールバンドの場合はB♭で合わせますよね。その場合もハーモニーとして関連するDやFなどの音も合わせるのが望ましいですが、わからない人はB♭だけを合わせたほうがいいでしょう。
チューニングの順番ですが、オーケストラでは弦楽器のあとに管楽器を合わせます。東京佼成ウインドオーケストラ(以下、佼成)では、まずはじめに木管楽器だけで合わせて、そのあともう一度オーボエだけがAを出し、それに金管が合わせます。つまり、分けてチューニングしているんですね。これはなぜかと言うと、金管楽器のほうがだんぜん音量がありますから、一緒に吹くと木管楽器は自分の音がよく聞こえないんです。慎重に音を合わせるため、分けてチューニングしているわけです。
スクールバンドでは、テューバなどの低音を合わせたあとに徐々に高音部に移行していくところもありますね。この方法は良いと思います。その理由は、高音部の楽器のほうがピッチが上がりやすいから。もし高音部からチューニングを始めてそれに低音部が合わせると、低音も高めになる。そうすると演奏時に高音部がぶら下がって聞こえるので都合が悪いのです。ですから、低音部できちんと音程が取れたら、その上に高音部が乗っかるような感じで音程を取っていくと、高音部に行けば行くほど低音部に対してよく音が聞こえると思います。木管のあとに金管、あるいは低音のあとに高音楽器というのは、理にかなった方法なんです。
チューニング以外の音については、さっき話したようにチューニングに関連した音を吹くのはいい方法だし、必要だと思います。それ以外の音を出すのはチューニングとは意図が違うので、やらないほうがいいでしょう。チューニングにはそれだけに集中するべきだと思います。
Q. 一緒に吹く人と、リードの種類をそろえたほうがいいですか?
先輩たちと違うリードを使っているのですが、音を合わせるためにメーカーと厚さを合わせるよう言われました。でも、そのリードが自分にはどうもしっくりきません。リードはそろえなければダメですか?
A. 個人がコントロールしやすいかどうかがいちばん大切です!
それはまったく必要ありません。たとえばバンドーレンの3番をみんなが使っているからそれに合わせたとしても、その人がそれでコントロールしやすいかどうかがいちばん大切ですから。3番が重くてコントロールしにくいなら、かえって音程が取れなくなるし、ppのコントロールもできなくなる。個人のコントロールが良ければ、周りとのブレンドもいいはずです。とにかく、全員同じリードに合わせる必要はありません。佼成でも、もちろんバラバラです。リードだけでなく、楽器も違いますからね。
演奏は楽器ではなく、耳がすべてなんです。どんなにいい楽器を使っていても、その人の耳が自分や相手の音を聞けないといい演奏にはつながりませんね。音程もそうです。耳は大切です。
Q. 演奏中に足でテンポを取るのはダメですか?
演奏中に足でテンポを取って身体を動かすと注意されます。でも、プロは身体を動かして演奏していますよね。本当はどうなんですか?
A. たとえば自然に体が動いてしまうような曲でノリノリで吹くのは楽しいと思います。
僕も動いてしまうほうです。たとえば自然に体が動いてしまうような曲で、足でテンポを取ってノリノリで吹いている姿は、見ていて楽しいですよね。気分よくノッて音楽に入っていることが必要かどうかというより、それは自然に出る行為ですから、いいと思います。ただ、美しい叙情的な曲を演奏中に、体を動かしながらテンポや拍子を必死で数えている姿を見ると、面白くないな、と感じますよね。
ノリノリな曲で体が動いてしまうのは、自然な姿でいいことなんじゃないでしょうか。一緒に演奏する人にとっては、その取っているテンポが全然違うからやめてくれ、ということはあるかもしれませんが(笑)。その場合は、足でテンポを取るというより、みんなと呼吸を合わせるために体を動かすように促してみてはどうでしょう。
Part.3 こんな時にはどうすれば?
Q. 男子がなかなか入部してくれません。
A. なぜでしょうね。以前聞いた話ですが、共学なのに女子部員しかいない吹奏楽部で、やっと男子のテューバ吹きが入ったけれど、女子ばかりの部活に入ったと言われて同じ男子からいじめられると(笑)。それで結局やめてしまったと聞きました。なかなか難しいけれど、やはり「吹奏楽はかっこいいんだ!」と演奏でアピールするのがいいと思います。楽器や音楽は男がやるもんじゃないと思われないよう、学校の中で活動を発表する場をたくさん持ったほうがいいですね。文化祭などでかっこいいステージを見せて「かっこいい男子プレイヤーを求めています!」とアピールしたらどうでしょう。
Q. 楽器を拭くクロスが真っ黒です…。
楽器を拭くクロスが油で真っ黒なのですが、先輩から「洗ってはいけない」と言われます。でも洗ったほうがいいでしょうか?
A. それは洗ったほうがいいでしょう(笑)。
油汚れで真っ黒になっている状態で楽器を吹くのはよくないと思います。先輩から伝統的に受け継いだクロスだというなら、あえて洗わずに、展示しておくとか(笑)。でも、日常的に使うクロスなら清潔にして使うのが望ましいでしょう。
楽器を拭くとメッキが落ちるといって拭かない人もいるそうですが、サックスは手で触れている部分が多いので、メッキはいずれ磨耗してはげてくるもの。楽器を清潔に保つことは大切ですから、きれいなクロスを使って乾拭きするのがいいと思いますよ。
Part.4 大好きな音楽をずっと続けていきたい!
Q. 将来プロの演奏家になるには?
将来プロの演奏家になりたいのですが、必ず音大に入らなければいけないですか?
A. その楽器の専門の勉強をきちんとする。レッスンに通う。自分の力を試す場を広げることが大切です。
日本の場合、クラシカルの分野で演奏家になるには音大に行くのが一般的ですね。でも小さいころから勉強していて、若くして才能が花開いた人たちは音大に行かない方もいる。演奏家になるためには、まずどういったことを勉強して、どういったことをしていけばいいか考えるべきだと思います。
ですから、必ず音大にというわけではないけれど、環境が整ったところで音楽を勉強し、在学中にコンクールを受けたりコンサートを開き、自分の力を試す場を広げることによって演奏家への道が開けてくるでしょう。若いうちは、その楽器の専門の勉強をきちんとする、レッスンに通う。早ければ早いほどいいと思います。
吹奏楽で熱い音楽を楽しむべし!田中靖人
熱い音楽を楽しんでほしいですね。やるならとことんやってください! せっかく日本でこれだけ吹奏楽が熱く盛り上がって、テレビでも取り上げられるくらいですから。
演奏も大切ですが、それだけではなく、いろいろな音楽を聴いたり、いろいろな人と話をしたり、いくつもの意味で熱い音楽をしてほしいです。
※この記事はTHE SAX vol.51 を再構成したものです
- 田中 靖人 Yasuto Tanaka
- 和歌山県出身。国立音楽大学在学中、第4回日本管打楽器コンクール・サクソフォン部門で第1位を獲得。1991年には「管打楽器ソロ名曲集・サクソフォーン」でCDデビュー。1995年「ラプソディー」、1997年「サクソフォビア」を、03年「ガーシュインカクテル」を、2012年「モリコーネ・パラダイス」をリリース。一方、室内楽のジャンルではサクソフォン四重奏団[トルヴェール・クヮルテット]で活躍。2001年には文化庁芸術祭レコード部門大賞受賞。現在、昭和音楽大学客員教授、国立音楽大学教授として後進の指導にもあたっている。
田中靖人
Yasuto Tanaka
1964年和歌山市に生まれる。 国立音楽大学在学中、第1回日本管打楽器コンクール第2位、第4回日本管打楽器コンクール第1位を受賞。 1990年東京文化会館でデビューリサイタルを開催。以来、国内外でリサイタルなど幅広い活動を行なっている。東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、札幌交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団など、ソリストとしてオーケストラとの共演も多数。 2000年より(一財)地域創造主催の「公共ホール活性化事業」のアーティストとして、リサイタル、アウトリーチ コンサートも意欲的に行なっている。2003年和歌山県より「きのくに芸術新人賞」を受賞。 ソロ・アルバムに、1991年「管楽器ソロ曲集・サクソフォーン」(日本コロムビア)、1995年「ラプソディ」(EMI music japan)、1997年「サクソフォビア」(EMI music japan)、2003年「ガーシュイン カクテル」(佼成出版社)、2012年「モリコーネ パラダイス」(EMI music japan)をリリース。 また、サクソフォーン四重奏団 トルヴェール・クヮルテットのメンバーとして活躍し、これまでに10枚を超えるアルバムをリリース。2001年文化庁芸術祭レコード部門“大賞”を受賞。 現在、東京佼成ウインドオーケストラコンサートマスター、国立音楽大学、愛知県立芸術大学、昭和音楽大学、桐朋学園大学各講師、札幌大谷大学客員教授、名古屋音楽大学客員教授。