第2回 | 忘れちゃいけないメンテナンス編
練習を見直し、ほんとうに役立つ練習法や知識を提供するためのコーナー! ナビゲーターは吹奏楽を知り尽くしている田中靖人氏。
好評連載の第2回目は、誰にとっても必要な楽器のメンテナンスについて。ステージではどんなときでも思いっきり演奏したい! そんな諸君にナビゲーターの田中靖人氏がビシッと回答してくれます。ここで得た知識は、後輩にもぜひ教えてあげよう!
Q1. 田中さんのメンテナンス法は?
田中さんは日頃どのようなメンテナンスをしていますか? また、サックスの大きさ(ソプラノ、アルト、テナー、バリトン)によって手入れに違いはありますか?
A1. まずは水分を取り除きます。
最低限やったほうが良いのは、演奏後に管体にスワブを通すことと、タンポの水分を取り除くこと。タンポはデリケートな部分なのでぜひ大切に扱ってください。
表面は手の脂分を軽く拭き取ると、ラッカーやメッキの腐食が軽減できます。道具は特に持っていませんが、まれにネジが緩むことがあるので精密ドライバーがあると良いでしょう。
バリトンは管体を通すスワブがありませんから、タンポの水分を取るくらいですが、ヤマハから発売されている、管体上部のクリーニング棒を使うと、かなり内部がきれいになって良いですよ。私も使っています。
Q2. いつも迷うんです……。
スワブはどこから入れるのが正しいのでしょうか?
A2. 太→細の順番を守りましょう。
スワブが管体の中で詰まって取れなくなって泣きそうになっている人、見たことあります。
ネックも管体もそうですが、太いほうから入れて細いほうへ出す。管体だとベルから入れるということです。
詰まるのが怖い人は、布の両側にヒモが付いているスワブを使い、両側から引っ張れるようにして通し切らないようにすると良いでしょう。
Q3. ケースの中にしまうとき、リードはつける?
ケースにしまうときリードはつけますか? 外しますか? また、その理由は?
A3. リガチャーの変形を防ぐためにリードをつけておきます。
リガチャーが変形しないように、使わないリードを付けてケースにしまいます。
使うリードは良い状態を保つために必ずリードケースにしまってくださいね! 良いリード選びは奏者にとって永遠のテーマです。リードを大切にしない人は音に表れますよ!
Q4. マウスピースの手入れは?
マウスピースは水洗いしても大丈夫?
正しい手入れの方法は?
A4. 傷つけないようにしましょう。
マウスピースは直接口に触れる部分なので清潔にしたいでしょうから、毎回水洗いしたい人はそれで良いのですが、水分を拭き取るだけでも充分です。マウスピースは柔らかい材質なのでゴシゴシ拭かず、やさしく扱ってくださいね。
Q5. グリスはいつ塗りますか?
コルクグリスはどのくらいの頻度で塗るべきでしょうか?
A5. コルクを馴染ませるために時々塗ります。
新しいコルクは馴染むまで毎回使用前に塗りますが、馴染んだら使いません。でも、長持ちの秘訣は毎回塗ることでしょうね。塗るだけでも充分です。
Q6. 持ってると安心なグッズは?
これは役に立つ!というオススメのメンテナンス道具はありますか?
A6. やはりこれがないと不安です。
メンテナンス道具ではありませんが、本番直前に壊れては困るものをスペアとして持っています。私はマウスピース、リガチャー、ストラップです。それからリードもたくさん持っています。
Q7. 楽器を洗ってもいいの?
サックスを「洗う」掃除法があると聞いたことがあります。丸洗いしても大丈夫ですか? また、洗ったあとはどうしておけばよいのでしょうか?
A7. 絶対にやめて!
そ、そんなウワサがあるんですか? 驚きです! メンテナンスに出して、オーバーホールのように部品をすべて取り外してから管体を洗浄することはありますが、組み立てられた状態で丸洗いしてしまうと、オイルは取れてしまい、タンポもフェルトもコルクも劣化してしまいますから、良い子は絶対しないでくださいね。
Q8. ケースのガタつきが気になります。
サックスを入れると学校のケースがガタガタします。なにか詰めてもよいのでしょうか?
A8. 振動を止めるように工夫してみましょう。
ガタガタするのは楽器の型とケースの中の楽器の型が合っていないから。ですから、布や緩衝材などである程度ガタを少なくするのが良いですね。
Q9. 他の部活はどうしてるの?
多くの学校の吹奏楽部を指導されたなかで、田中さんが目撃したビックリするような楽器の取り扱い方のエピソードはありますか?
A9. みんな楽器を愛していますよ!
乱暴な扱いをする人には会ったことがありませんね。やはり音楽を愛する人は、楽器も自分の一部のように大切にしています。
でも溺愛しすぎてなのか、楽器に名前を付けている人、結構多いですよ! ほとんど家族か彼氏、彼女のような感じですね。
Q10. 楽器店に定期的なメンテナンスを依頼する理由は?
どこも調子が悪くなくても、年に1度くらいは楽器店へメンテナンスに出すように言われました。なぜでしょう?
A10. 楽器を長く良い状態で使うため!
サクソフォンは精密な機械のようなものですが、ちょっとした調整の狂いで急に音が出なくなるということはありません。しかし、長く良い状態で大切に使いたいと思うならば、3ヵ月に一度はメンテナンスしてもらうのがベストです。
私は3ヵ月以内に一度はそうしています。調整後に吹いてみると、音がスムーズに出るようになって、調整が狂っていたことに気がつくでしょう。
音がスムーズに出るということは、体によけいな力が入らず、リラックスした奏法に繋がります。フィンガリングも楽になりますよ。
Q11. 特別なメンテナンスをするのは?
定期的な調整以外に、田中さんが楽器をメンテナンスに出すのはどんなとき?
A11. 大きなコンサートの前。気持ちに余裕ができます。
大きなコンサート前でかなり練習量が多い時は、楽器の狂いも気になることがあります。そんな時はメンテナンスしてもらうと気持ちが少し楽になりますね。それも大切なことだと思います。
Q12. メンテナンスを楽しくしたい!
たくさんあるキィにいちいちクリーニングペーパーをはさむのが毎回おっくうです。何か楽しくできる方法はありますか。
A12. 楽器との対話を楽しんでみては?
楽しくですかぁ……。それは人それぞれだと思いますが、友だちと話をしながらとか、好きな音楽を聴きながらとか……。
あ、楽器に向かって話しかけながら、なんてどうですか?
「今日もよくがんばったね!明日もがんばろうね!」とか、「明日はお休みだからピカピカに磨くね。寂しいけどまた明後日会おうね!」とか。……ちょっと気持ち悪いかな(笑)。
スムーズに長く吹き続けるために、こまめなメンテナンスを心がけるべし! 田中靖人
※この記事はTHE SAX vol.52 を再構成したものです
- 田中 靖人 Yasuto Tanaka
- 和歌山県出身。国立音楽大学在学中、第4回日本管打楽器コンクール・サクソフォン部門で第1位を獲得。1991年には「管打楽器ソロ名曲集・サクソフォーン」でCDデビュー。1995年「ラプソディー」、1997年「サクソフォビア」を、03年「ガーシュインカクテル」を、2012年「モリコーネ・パラダイス」をリリース。一方、室内楽のジャンルではサクソフォン四重奏団[トルヴェール・クヮルテット]で活躍。2001年には文化庁芸術祭レコード部門大賞受賞。現在、昭和音楽大学客員教授、国立音楽大学教授として後進の指導にもあたっている。
田中靖人
Yasuto Tanaka
1964年和歌山市に生まれる。 国立音楽大学在学中、第1回日本管打楽器コンクール第2位、第4回日本管打楽器コンクール第1位を受賞。 1990年東京文化会館でデビューリサイタルを開催。以来、国内外でリサイタルなど幅広い活動を行なっている。東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、札幌交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団など、ソリストとしてオーケストラとの共演も多数。 2000年より(一財)地域創造主催の「公共ホール活性化事業」のアーティストとして、リサイタル、アウトリーチ コンサートも意欲的に行なっている。2003年和歌山県より「きのくに芸術新人賞」を受賞。 ソロ・アルバムに、1991年「管楽器ソロ曲集・サクソフォーン」(日本コロムビア)、1995年「ラプソディ」(EMI music japan)、1997年「サクソフォビア」(EMI music japan)、2003年「ガーシュイン カクテル」(佼成出版社)、2012年「モリコーネ パラダイス」(EMI music japan)をリリース。 また、サクソフォーン四重奏団 トルヴェール・クヮルテットのメンバーとして活躍し、これまでに10枚を超えるアルバムをリリース。2001年文化庁芸術祭レコード部門“大賞”を受賞。 現在、東京佼成ウインドオーケストラコンサートマスター、国立音楽大学、愛知県立芸術大学、昭和音楽大学、桐朋学園大学各講師、札幌大谷大学客員教授、名古屋音楽大学客員教授。