第4回 |コンクールシーズンに気になる奏法編
コンクールに出場する皆様、挑戦する曲は決まりましたか? コンクールに向けて上達したいと思っている人、コンクールには出場しないけれど技術を磨きたい人にも役立ちます。この「吹奏楽サックスA to Z 」のコーナーでは、これからもうまくなりたいあなたを心から応援します。今回はなにかと迷いがちな「奏法」の練習をしっかり伝授!
コンクールに出場する皆様、挑戦する曲は決まりましたか? コンクールに向けて上達したいと思っている人、コンクールには出場しないけれど技術を磨きたい人にも役立ちます。この「吹奏楽サックスA to Z 」のコーナーでは、これからもうまくなりたいあなたを心から応援します。今回はなにかと迷いがちな「奏法」の練習をしっかり伝授!
Q. 「音程がずれている」と言われます……。
自分では隣と合っていると思うのですが、先生や先輩から「音がずれている」とよく言われます。音のずれがわかるようになる方法はありますか? また、他の人と音の高さをきちんと合せる方法を教えてください。
A. 音程を感じられる「耳」を鍛えよう。
良い音程で演奏するには、ある程度演奏できてきちんと調整された楽器を持っていたとしても、自分の音と一緒に演奏する人の音を注意深く聴く「耳」がとても重要になります(もちろん、楽器を操る技術的なことも関係します)。
意識としては、まず相手の音の中に入ろうと考えることが、合うことへのきっかけになるでしょう。それは音程だけではなく、音量や音色も関係します。
ハーモニーで合わせることが難しければ、まずはユニゾンから始めます。
ひとつの音に対して音程がどうなっているのかも判らなければ、極端に自分のチューニングを高いほうか低いほうにずらしてみましょう。そうすれば合っていない時の響きを感じられるはずです。
そこからスタートして徐々に合わせていくようにしてみましょう。あとは慣れるのみです!
Q. 個人練習と分奏、それぞれの注意点は?
毎日の練習で、合奏の前にパートごとの分奏がありますが、どのようなことに注意して行なったらよいでしょうか。また個人練習で合奏に向けてやっておくこととは?
A. 分奏は注意深く聴いて練習しましょう。
合奏の時に、指揮者から言われたことをその場でできればよいのですが、そうもいかないことも多いでしょう。その場でできないことは次の合奏までに個人練習や分奏で解決できるようにしておく必要があります。それでもかなり難しい内容になると、長期的な課題として練習していく必要がありますね。
分奏を行なうメリットは、合奏では聴き取れなかった音を、注意深く聴きながらの演奏が可能になることです。
こうすることで、全体の合奏では合わせるのが難しかった部分を解決することができます。個人練習は音楽的な課題と技術的な課題を。分奏では音楽的な課題で練習に臨めるのが理想ですね。
Q. 黒っぽい楽譜が苦手です……。
16分音符がたくさん並んでいる楽譜に苦手意識があります。指が回らない!と思うと、アンブシュアも硬くなり、いい音が出ないという悪循環に陥ってしまいます。田中さんはこの恐怖?をどのようにして克服しましたか?
A. 「ゆっくりから」「小さく区切って」が上達の秘訣です。
早口言葉を話したことがありますか? 速く喋れない時はどうしますか? ゆっくり喋ればできますよね。
速いパッセージができない時は? 速いタンギングができない時は? などよくある質問ですが、根気よくゆっくり丁寧に練習するしか方法はありません。
練習するにあたってのアドバイスは、
1.メトロノームを使って自分のリズムの癖を見つけて修正する。慣れるまでは余裕のある遅いテンポで、なるべく細かいカウントで練習する。
2.広い範囲を一気に練習しないこと。物を作る時と同じで、細かな部品を完成させてから繋いでいく方法で。1拍ずつ作るぐらいの気持ちで。
3.速く演奏できるようになっても、ある部分だけがどうしてもスムーズにできないこともあると思いますが、諦めずに1と2の練習を続けること。また、できるようになったフレーズも、1、2の練習を続けることで、より安定したテクニックを得ることができます。
自分との戦いですね。根気よく頑張ってください!
Q. 音量の変化をはっきりつけたい!
うまい人の演奏を聴いていると、p、mp、mf、fという音の大きさの違いがはっきりわかるように思います。自分は 音が大きい・小さいの2種類しか吹き分けられないのですが、 どうしたらいろいろな音の大きさを吹き分けられるようになるでしょうか。
A. 楽器で喋るような練習をしてみましょう。
ロングトーンやスケールを使ってダイナミクスの変化を練習したことはありますか?
ダイナミクスだけではなく、アクセントやスタッカートなどニュアンスの種類もいろいろありますね?
ふだんから、楽器を使って自由に喋るようなニュアンスを遊びの感覚で練習してみると良いでしょう。
私の生徒の中にも、1つのフレーズをいろんな発想で膨らませることができるようになったら、急激に上達した例があります。
質問3にもありましたが、速く吹けなければゆっくりと。pのような小さな音のコントロールが苦手ならばfから始めて、徐々に小さく吹けるように繰り返し練習するのです。ダイナミクスの幅の話だけではなくなりましたが、そこからどう発想を膨らませるかというのも、問題を解決していくことに繋がりますね。
Q.バリサクの音色を向上させたい。
アンサンブルでバリトンサックスを吹いています。今はベースを吹くことだけで精一杯ですが、今後は音色もよくしたいと思っています。音色のためのよい練習法があったら教えてください。また、田中さんがバリトンを担当するとき、ベースをしっかりとキープする以外にどんな気配りをしていますか?
A. 音色の表情を感じ、イメージを膨らませましょう。
音楽を演奏する上で、ずっと同じ音色で演奏することはありえません。言葉にいろんな表情があるのと同じで、音色にもいろんな表情があることを感じてください。
それを実践するためには、ロングトーンやスケールのトレーニング、エチュードや曲の中で繰り返し理想を求めて練習してください。「良い音は1日にしてならず」ですが、理想を求めて練習し続けることで、必ず答えが見つかります。この答えはバリサクに限らず、すべてのサックスに共通することです。
音色はやはり息のサポートが最も大切なのですが、サクソフォンのようなリード楽器だと、リードの良し悪しもかなり影響します。もちろんリードから響きを伝えるマウスピースも大切です。
また、違う観点からですが、良い音をたくさん聴いて、理想的な音を常にイメージしながら演奏することも、とても大切です。
頑張ってください!
Q.突然、音がひっくり返るんです。
これまではなんでもなかった音が急にひっくり返ってしまうようになりました。用心深く吹いたつもりでも、やはりひっくり返ります。解決法を教えてください。
A.楽器のトラブルかも?メンテナンスに出してみては。
これは実際に演奏を聴いてみないと判断できない質問ですねえ…。
なんでもない音がひっくり返るのは、マウスピース、楽器に何らかのトラブルがあるのではないでしょうか?
サックスという楽器でありえることは、ネックと本体のジョイント部にあるオクターブキィが当たっていて、ネック部分の第2オクターブキィが開いた状態になることです。これによってオクターブキィを押さえたソから下の音は出なくなってしまいます。
この場合は、ネック側のキィを少しだけ曲げて、本体側のオクターブキィの連結部に1ミリほどの遊びを作ることで解決しますから、自分でできることです。この問題でなければ、一度メンテナンスに出すことをお勧めします。
よい音を作るのは、豊かなイマジネーションと日々のたゆまぬ練習!
田中靖人
※この記事はTHE SAX vol.54 を再構成したものです
- 田中 靖人 Yasuto Tanaka
- 和歌山県出身。国立音楽大学在学中、第4回日本管打楽器コンクール・サクソフォン部門で第1位を獲得。1991年には「管打楽器ソロ名曲集・サクソフォーン」でCDデビュー。1995年「ラプソディー」、1997年「サクソフォビア」を、03年「ガーシュインカクテル」を、2012年「モリコーネ・パラダイス」をリリース。一方、室内楽のジャンルではサクソフォン四重奏団[トルヴェール・クヮルテット]で活躍。2001年には文化庁芸術祭レコード部門大賞受賞。現在、昭和音楽大学客員教授、国立音楽大学教授として後進の指導にもあたっている。
田中靖人
Yasuto Tanaka
1964年和歌山市に生まれる。 国立音楽大学在学中、第1回日本管打楽器コンクール第2位、第4回日本管打楽器コンクール第1位を受賞。 1990年東京文化会館でデビューリサイタルを開催。以来、国内外でリサイタルなど幅広い活動を行なっている。東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、札幌交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団など、ソリストとしてオーケストラとの共演も多数。 2000年より(一財)地域創造主催の「公共ホール活性化事業」のアーティストとして、リサイタル、アウトリーチ コンサートも意欲的に行なっている。2003年和歌山県より「きのくに芸術新人賞」を受賞。 ソロ・アルバムに、1991年「管楽器ソロ曲集・サクソフォーン」(日本コロムビア)、1995年「ラプソディ」(EMI music japan)、1997年「サクソフォビア」(EMI music japan)、2003年「ガーシュイン カクテル」(佼成出版社)、2012年「モリコーネ パラダイス」(EMI music japan)をリリース。 また、サクソフォーン四重奏団 トルヴェール・クヮルテットのメンバーとして活躍し、これまでに10枚を超えるアルバムをリリース。2001年文化庁芸術祭レコード部門“大賞”を受賞。 現在、東京佼成ウインドオーケストラコンサートマスター、国立音楽大学、愛知県立芸術大学、昭和音楽大学、桐朋学園大学各講師、札幌大谷大学客員教授、名古屋音楽大学客員教授。