第7回 |演奏会・アンサンブル編
今回は、年明けから春までに多く予定される演奏会にスポットを当てました。田中靖人先生のプレイヤーとしての心構えには学ぶところ多し!今回も必見です。
今回は、年明けから春までに多く予定される演奏会にスポットを当てました。田中先生のプレイヤーとしての心構えには学ぶところ多し!今回も必見です。
Q. カルテットの曲の決め方は?
今度、パート別のアンサンブル発表会があります。ソプラノ、アルト、テナー、バリトンの4本で、そこまで難易度が高くないけどカッコ良く決まるオススメの曲はないですか。
A. 4人の力を考えて、余裕をもった曲にチャレンジを。
そんな曲……あったらイイですね(笑)。
皆さんがどのくらいの作品を演奏できるのかがよく分からないので、難易度を判断できませんが、私が生徒に曲を与えるときは、チャレンジの部分をだいたい30%くらいとしています。そうしないとただ演奏するだけで精一杯になってしまい、緊張してミスが多い演奏になってしまうことが多いからです。
カルテットの場合だと、4人が同じ力であるとは限らないので、そこを考える必要もあるでしょう。お店に足を運んで、実際に楽譜を見て選ぶことをお勧めします。
Q. 時間がない! 効率的な練習法は?
なかなか全員集まる時間が作れません。個人で練習+集まって練習で曲を仕上げていく時の効率的な練習法があれば教えてください。また、田中さんの所属するトルヴェール・クヮルテットでは、合わせの練習にどれくらいの時間をかけますか?
A. 事前にスコアを読み、お互いに聴き合う練習を!
集まった時に良い音が出せる条件は、個人練習をしっかりやっておくことと、スコアを見て曲のしくみを理解しておくことです。他のパートがどんなことを演奏しているのかを理解しておかないと、バランスよく演奏できませんからね。
その上で合わせる時は、ニュアンスや音程、バランスに注意しながら演奏しましょう。時間がないわけですから、目立つところや、その都度気になるところだけでも良いでしょう。曲に慣れてきたら、音楽的にどうするかを考えてみると良いですね。
トルヴェールは新曲に対してはかなり時間をかけてリハーサルをします。それは、音楽が体に染み込む感覚になるためです。考えているうちはどこかしっくりこないですからね。
Q. 初バリトン担当です。どうやって吹いたら?
普段アルトを吹いていますが、アンサンブルでバリトンを吹くことに。入る息の量が全然違うので違和感を感じてしまいます。吹き方などで何か気をつける点はありますか?
A. アルトと共通するところ、違うところを把握しましょう。
アルトに比べると管の長さがかなり長いですから、その分の息の瞬発力に加えて息を支える圧力や、肺活量も必要になります。
アンブシュアは基本的な部分はアルトと変わりませんが、リードとマウスピースの開きの長さ(フェイシング)がアルトよりかなり長いので、くわえる位置をチェックしてください。
下あごの位置は、すべてのサクソフォンに共通ですが、リードとマウスピースの接点になります。そうすると上あご(上歯)の位置はおのずと決まります。
Q. バリトンのタンギングって難しい……。
中学でクラリネットをやっていましたが、高校でバリトンサックスになりました。リードの大きさの違いからタンギングがうまくいかず悩んでいます。なにかコツはありますか。
A. ポイントは息の量と圧力です。
クラリネットからバリトンサックスとは、まったく違う感覚でしょうね。
タンギングの方法は、同じシングルリードなので変わりはありませんが、大きな違いは息の入れ方です。管楽器のタンギングは息の支えがあってコントロールができるわけです。バリトンサックスのように大きな楽器は大量の息を必要としますから、息のスピードや圧力が弱いとタンギングがスムーズにできません。
ていねいに発音する練習を繰り返しやって、慣れるようにしましょう。少々根気が必要かもしれませんが、頑張ってくださいね!
Q. カルテットの並び順、なぜバリトンが一番右じゃないの?
カルテットのとき、楽器は左からソプラノ、アルト、バリトン、テナーという順番になることが多いと思います。なぜ楽器の大きさ順ではないのでしょう?
A. 低音を中心にして響きを豊かにするためです。
この並び方はトルヴェール・クヮルテットと同じですね。これは弦楽四重奏を参考にしています。弦カルは、左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラの並びが一般的です。
向かって右にいるテナーは、トーンホールが客席側と反対の右になるため、最も聞こえにくい場所になるので、アルトとのバランスによっては、ソプラノ、テナー、バリトン、アルトの並びで演奏することも多いです。
バリトンが端でないのは、低音が中央で豊かに聞こえるからです。でも、そうでなくてはいけないわけではないので、いろいろな並びを実験して、どんなふうに聞こえるか試してみると面白いですよ。
Q. 田中さんが吹いてみたい他の楽器は?
私はサックスを吹いていますが、オーボエの音が素敵なので吹いてみたいと憧れます。
田中さんはサックス以外でやってみたい楽器はありますか。
A. 生まれ変わったら……ヴァイオリンもいいかな(笑)。
いろいろありますよ! フルートは軽やかで華やかな演奏ができて、楽器が小さく軽い(?)のでやってみたいと思うし、ファゴットのように独特なキャラクターでコミカルな感じを表現してみたいと思うし……。
全然違うジャンルですが、ロックバンドでリードギターを担当して、狂ったように速弾きしてみたいと思ったこともあります。
でも、もし生まれ変わって、また楽器を始めることになったら、ヴァイオリンを演奏したいです。いろんなことができる憧れの楽器ですね。生まれ変わるまで覚えておこうと思います(笑)。
Q. アンサンブルすると楽しい楽器は?
マウスピースやリガチャーを替えると、やはり音や吹き心地も変わりますか。また、どのようにして選んだら?
A. サックスはいろんな楽器とよく合いますよ!
サクソフォンは他の木管楽器と同じように繊細な表現ができるし、金管楽器のように華やかな音やパワフルな表現もできる幅広い楽器ですから、いろんな楽器とのアンサンブルが楽しめます。
打楽器アンサンブルとの曲、木管四重奏、五重奏との曲、最近は変則的な編成のアレンジものも出版されていますから、ネットなどで探してみてください。私は個人的には木管アンサンブルとの共演が楽しいと思います。音色がブレンドすると、サクソフォン効果でとても色っぽい音になりますよ。
Q. 演奏前の掛け声とか、やってますか?
カルテットの演奏本番前に、全員の結束を高めるためになにかしていますか(輪になって掛け声をかけるとか)?
A. 今はやってませんが、そのうち……。
普段からチームワークが良いので特にしていませんが、こんど円陣を組んで「頑張っていこうぉ〜!オーッス!」なんてやってみようかな(笑)。テンション上がってイイかも……。
演奏会は音楽の幅を広げる場!しっかり練習し、楽しんで演奏するべし!
田中靖人
※この記事はTHE SAX vol.57 を再構成したものです
- 田中 靖人 Yasuto Tanaka
- 和歌山県出身。国立音楽大学在学中、第4回日本管打楽器コンクール・サクソフォン部門で第1位を獲得。1991年には「管打楽器ソロ名曲集・サクソフォーン」でCDデビュー。1995年「ラプソディー」、1997年「サクソフォビア」を、03年「ガーシュインカクテル」を、2012年「モリコーネ・パラダイス」をリリース。一方、室内楽のジャンルではサクソフォン四重奏団[トルヴェール・クヮルテット]で活躍。2001年には文化庁芸術祭レコード部門大賞受賞。現在、昭和音楽大学客員教授、国立音楽大学教授として後進の指導にもあたっている。