サックス記事 第8回 |吹奏楽部サックスパート特別指導!富士森高校編
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THE SAX vol.58(2013年3月25日発刊)より転載

第8回 |吹奏楽部サックスパート特別指導!富士森高校編

LESSON

このコーナーで田中先生から直接指導を受けたい奏者を募集したところ、さっそくたくさんの応募をいただきました。今回はその中から、東京都の富士森高校吹奏楽部へ出張指導。東京都吹奏楽コンクールで金賞受賞、ジャズ・ポップスコンテスト全国大会にも出場した実力派吹奏楽部が、さらにグレードアップします!

このコーナーで田中先生から直接指導を受けたい奏者を募集したところ、さっそくたくさんの応募をいただきました。今回はその中から、東京都の富士森高校吹奏楽部へ出張指導。東京都吹奏楽コンクールで金賞受賞、ジャズ・ポップスコンテスト全国大会にも出場した実力派吹奏楽部が、さらにグレードアップします!
(※本文は雑誌掲載時のものです。現在は募集を行っておりません。)

 
田中靖人,富士森高校吹奏楽部
富士森高校サックスパートのみなさんと(左から城定美有さん、栗原あずささん、田中靖人先生、梅津歩嵩さん、山口みなみさん、加藤綺夏さん)

 

●基礎練習は上達への第一歩!

富士森高校サックスパートは5名(+この日は1人お休み)。まずはふだんの基礎練習を見せてもらいました。

 

音域を広げてロングトーンしよう

田中
とてもいい音がしていますね。でも、みんなもう少しコシのあるリードを使ったほうがいいんじゃないかな。リードが合っていると広い音域が吹きやすくなりますよ。
今はBb→Bbの1オクターブ8つの音で練習しているけど、もう少し音域を上に広げようか。B♭→B♭→Fまで吹いてみましょう。
――
(全員でロングトーン)
田中 
今吹いてみて、リードが薄いと思った人は手を上げて。
――
(5人全員が上げる)
田中 
では、応急処置ですが、ネックを外して、リードの先端をマウスピースの上にほんの少し、0.何ミリかだけはみ出るように付け直して吹いてください。これでリードをちょっと厚くしたのと同じ効果が出ます。合奏中にリードを取り替えられないときにも使えるワザですよ。
田中靖人,富士森高校吹奏楽部
――
(全員でロングトーン)
田中 
音がしっかりしてきましたね。高い音も細くならず、たっぷり息が入って大きな音が出せるかな? 高い音が中音域と同じ感覚で吹けたら、この場合は今より厚めのリードが合っている証拠。次回選ぶ時は今よりも少し厚いリードにしてください。低音を吹いて、もしコントロールがきつかったら、リードを少しだけ下に下げてみてください。
吹奏楽曲はあまり高い音域は出てこないけど、サックスは2オクターブ半の広い音域を持った、とても機能的な楽器です。全音域をコントロールできるリードを選べるようになると、音も生き生きしてきますよ。リードが古くなると水分が染み込みにくくなって、音も固くなりがちですから、いつもリードの状態には気をつけましょう! また、リガチャーの位置でも音が変わるので、自分に合った方法を研究してみてくださいね。
田中靖人,富士森高校吹奏楽部

 

楽器の構え方を変えてみよう

田中 
楽器の構え方は、マウスピースがアゴに対して直角ではなく、少し下から入るようにストラップを調節しましょう。同じシングルリード楽器のクラリネットは、アゴに対してかなり鋭角になるように構えますよね。あれほどではないけれど、サックスもマウスピースがちょっと下から入ってくるようにするといい。こうするとマウスピースの中で柔らかい響きが作りやすくなりますよ。このとき、楽器のほうに顔を持っていくのではなく、楽器を手前に引くようにして体に合わせる。テナー、バリトンだと、片腕のひじが少し体の後ろのほうになります。

続いて、練習中という『マゼランの未知なる大陸への挑戦』(樽屋雅徳作曲)をサックスパートだけで演奏してもらいました。

田中靖人,富士森高校吹奏楽部

 

合奏では音のバランスに注意

――
(演奏を聴き終えて)
田中 
曲の途中で、アルトの1stだけがメロディを吹くところがありますね。2ndもFの指示がありますが、実際は2ndは1stの音を上回らない音量に抑えます。よく聴きながら、バランスよく吹いてくださいね。
テンポが速いのに「maestoso」という指示が出ているところがありますね。ここは、もうちょっとどっしりしたイメージが欲しい。音をひとつひとつ点でとらえるのではなく、フレーズの流れを感じて重めに吹いてください。低音はオーケストラのチェロを弾いているような感じでね。
アダージョのところは、旋律とハーモニーとに分かれますね。ハーモニーを担当するみなさんは、動いている旋律をいつも聴いていて、音量のバランスを調整してください。全員が同じ音量にならないようにね。

 

アクセントは息でつけよう

田中 
アクセントがついた音符が続くと、どうしてもアタックやタンギングを強くしようとしてしまいますが、タンギングだけに頼ると音が下がってしまいます。タンギングはあくまでも柔らかいまま。アクセントなどのニュアンスは「息」でつけるんです。テヌートの時も、アクセントがついている時も、タンギングは同じです。メロディにアクセントをつけて歌ってみると感じがつかめますよ。テナーとバリトンは、息のスピードを速くしてアクセントをつけましょう。
「ミレド#レ」のところは、レとド#(C#)のつながりがうまくいかないですね。ここはオクターブキィを使いましょう。オクターブキィと左手薬指のキィを使ってド#の音を出します。サックスは、普通の指使いだと低音からド♯まではオクターブキィを使いませんよね。つまりド#はちょうど運指の境目にある音といえます。普通の運指で出す音が「地声」だとすると、オクターブキィを押すことでド#を「裏声」に変えて、オクターブキィを押す隣のレと音を統一したわけです。

 

指練習はホームポジションが 決め手!

田中 
富士森高校では、この曲を使ってフィンガリングの練習もしているそうですね。ドレドレ−ドソドソ……というような繰り返しがたくさん出てきます。難しい指使いですが、できるだけ手のポジションを変えないようにするのがポイント。
自分の腕の手首よりちょっと上を、もう片方の手で握ってみてください。指の関節が丸く曲がりますよね。この丸い手のまま楽器を持ってキィを押すんですよ。
サックスは真ん中のキィを押さえている左右の人差し指、中指、薬指の6本が指使いの中心になっています。ドミドミ……のようにサイドキィを使う場合は、ちょっと押さえるのが大変なんだけど、次の音に早く戻るために、できるだけこの中心のポジションから手が遠ざからないようにします。右手のサイドキィも同じく、なるべく人差し指の付け根の方で押さえます。真ん中のキィポジションにすぐに戻れるよう気をつけてフィンガリングを練習してくださいね。
始めはフォームや、なるべく脱力して吹くことなどに気をつけながらゆっくりと練習します。ゆっくり吹くと、舌の動きにムダがあるとか、キィを押す指の位置の工夫とか、いろいろなことに気づくと思います。慣れてきたらスピードアップに挑戦してみて。2回目のドミドミ……を2倍の速さにするとか、3連符にしてみるとか、自分たちのアイデアを盛り込んでみてください。この楽譜だけでもいろいろな練習ができますよ。スムーズでムダのない運指を目指してがんばって! 運指のトレーニングは毎日しましょう。それが上達への道です。
田中靖人,富士森高校吹奏楽部
富士森高校吹奏楽部顧問の 田戸正彦先生(左)と

 

●サックスパートお悩み相談タイム!

Q. チューニングが合いにくいんですが、良い方法は?

A. 合奏しているときには音程は常に動くもの
最初はA=442Hzでチューニングしたとしても、合奏しているときには音程は常に動くものという前提で考えてください。ピアノと一緒に演奏する場合は別ですよ。それに、サックスはどんなに正しく吹いたとしても、音程を良くするのはなかなか難しい。アルトの高いラ#に対して、3オクターブ低いバリトンのラ#は、どうしてもアルトが高め、バリトンが低めになります。どちらが寄り添って音程を合わせたらいいか? バリトンは音を高くするのは限界があるけど、アルトを落ち着かせるのは可能です。
音程が高いか低いかわからないという時もありますよね。そういう場合はちょっと極端に音を上げるか、下げるかしてから少しずつ合わせていきます。一緒に音を吹いてワンワンといううなりが出る時はまだ合っていないので、うなりが聞こえなくなるまでネックを抜き差しして調整します。曲中では、早いフレーズだとあまり細かく音程を合わせなくても気にならないけど、ゆっくりしたフレーズの時は、音程が少しだけ変わる「替え指」を使って合わせましょう。

 

Q. テナー2人の音色が合わないんです。

A. コツは「相手の音の中に入るように吹く」こと
音色には意外に音量も関係してきます。音量の差が大きすぎるとバランスが悪くなります。コツは「相手の音の中に入るように吹く」こと。相手の音が聴こえるバランスで吹く。そうすると、お互い聴き合わずに吹く時より音量は小さくなりますが、ブレンドする感じになるはず。テナー2人だけでそういう練習をしましょう。
音階練習はロングトーンの延長にあるものと考えて、すべての音をできるだけ同じコントロールで吹けるように練習しましょう。真ん中のドがコントロールしやすいので、その吹き方を覚えておいて、他の音にも応用するんです。

 

Q. リードで出す木管の音色と、唇で出す金管の音色が寄りにくくて、統一感が出せません。

A. サックスが金管に寄りそうようにしてみよう!
演奏では、音色よりバランスが大切だと思います。tuttiで大音量の場面でも、木管がメロディを奏でているところでは、金管が音量を一段落として木管が聞こえるようにするとか。コンクールの演奏を聴いているとよくそう思います。
サックスはホルンとユニゾンで演奏する機会が多いですね。この時、サックスの音色をホルンに寄せるようにします。ホルンの広がる響きに対して、サックスは音像をはっきりさせる役割を担当します。トランペットとサックスが一緒に吹く時も、トランペットがリードして、サックスは響きをサポートするほうがいいと思います。

 

●サックスパート5人の感想

城定さん:「ふだんの基礎練習に気を使ってなかったと実感しました。ロングトーンやパート練習で、今日のレッスンを生かしていきます」
栗原さん:「基礎練習は頭で理解してやらなくちゃ意味がないんですね。プロの音色を聴けて感激です!」
梅津さん:「憧れの田中さんの音が聴けてうれしかった! 教えていただいた大事なことをこれから生かしていきたいです」
山口さん:「基礎練習でできていないところを指摘していただき、どうすればいいかわかった。ありがたい経験でした」
加藤さん:「これからはロングトーンで音域を広くとって練習することを徹底したいです」

 
田中靖人,富士森高校吹奏楽部
 

富士森高校さんの『バードランド』の全体合奏、カッコ良かったです!
田中靖人

※この記事はTHE SAX vol.58を再構成したものです

田中靖人
田中 靖人 Yasuto Tanaka
和歌山県出身。国立音楽大学在学中、第4回日本管打楽器コンクール・サクソフォン部門で第1位を獲得。1991年には「管打楽器ソロ名曲集・サクソフォーン」でCDデビュー。1995年「ラプソディー」、1997年「サクソフォビア」を、03年「ガーシュインカクテル」を、2012年「モリコーネ・パラダイス」をリリース。一方、室内楽のジャンルではサクソフォン四重奏団[トルヴェール・クヮルテット]で活躍。2001年には文化庁芸術祭レコード部門大賞受賞。現在、昭和音楽大学客員教授、国立音楽大学教授として後進の指導にもあたっている。


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