サックス記事 田中靖人の吹奏楽サックス A to Z 第13回 | ジャズ&ポップス演奏編
[1ページ目│記事トップ
THE SAX vol.63(2014年1月25日発刊)より転載 

田中靖人の吹奏楽サックス A to Z 第13回 | ジャズ&ポップス演奏編

イベントや定演などに欠かせないのがジャズやポップスなどのナンバー。吹く側もお客さんも楽しめる曲ばかりだけど、クラシックの演奏とはどう違うの?ソロはどうすれば? 吹奏楽ポップスのバイブル的存在「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」の録音や、COLORSなどのユニットでジャンルを超えて活躍の場を広げる田中氏が、今回もばっちり答えてくれました。

ジャズ&ポップス演奏編

イベントや定演などに欠かせないのがジャズやポップスなどのナンバー。吹く側もお客さんも楽しめる曲ばかりだけど、クラシックの演奏とはどう違うの? ソロはどうすれば? 吹奏楽ポップスのバイブル的存在「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」の録音や、COLORSなどのユニットでジャンルを超えて活躍の場を広げる田中氏が、今回もばっちり答えてくれました。

 

Q. 演奏前にどんなことを決めておきますか?
ジャズ、ポップスの曲をアンサンブルで吹く時には、どんなことを打合せしておけばいいでしょうか。ある友だちから「ジャズのプロ奏者は、パート全体で音の切り方まで揃うように、事前にしっかり相談しているものだ」と聞いたのですが、そこまでやらなきゃダメですか?

A. 音の切り方、歌い方を合わせられるようにしておきます
発音や音の切り方(ニュアンスや長さなど)は、リハーサルではよく決めておく事柄ですね。もちろん、クラシック音楽のアンサンブルでも決めておく内容ですが、ジャズやポップスなどになると、よりはっきりとわかりやすく具体的な内容になると思います。それだけに、事前にはっきり決めておかないと曲全体のメリハリがなくなることもあります。
でも、どういうふうに演奏するかという“ノリ”となると、ちょっと話が違ってきます。たとえば、一定のテンポの中でわざとルーズにフレーズを演奏する「レイドバック」という場面では、理屈で音の長さや切り方を決めてもしかたがないので、全員の歌い方を合わせていくような打ち合わせをします。一人だと自由ですが、アンサンブルとなると難しいので、全員で何度も合わせてニュアンスを探るようなリハーサルを充分にやってから、本番の演奏に臨むわけです。

 

Q. ふだん共演しないドラムやギターが一緒です
ポップスを演奏する時は、ドラムのリズムが強力だし、ふだんは共演しないギターの音がとても大きかったりして、つい負けじと力をこめて吹きすぎてしまい、音色がおろそかになることがあります。田中さんは佼成ウインドで、「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」や「THIS IS BRASS」など、ポップスやジャズの演奏・録音もしていますが、ギターやドラムと共演する時、気をつけていることはありますか? また、ポップスの楽器と共演することによって、自分の演奏にプラスになったことがあれば教えてください。

A. 力まずに彼らの「ノリ」に学びましょう!
ギターはアンプの音量で調節できますが、ドラムが本気で演奏したら、他の楽器は生音でバランスを取るのは無理ですね。そういう時はサクソフォンもマイクを使って、バランスを取りましょう。そうすればいつもの力で対等に演奏できます。
「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」などは、スタジオでのレコーディングなので、音量のバランスは生で演奏する時とは大きく違います。極端な話ですが、ドラムが力いっぱい演奏してサクソフォンが弱く演奏しても、バランスを変えられるのです。
ポップスの楽器と共演して影響を受けることはいろいろありますが、最も感じるのは「ノリ」ですね。ビートやそれにノッて演奏するグルーヴ感です。

 

Q. ソプラノサックスが目立ちすぎてプレッシャー!
演奏会でポップスを吹く時、ソプラノサックスを担当しますが、1人しか吹かない上に音が目立ち過ぎて怖いです。また、アルトと両方練習しなくてはいけないのも心配です。ソプラノとアルトの両方とも美しい音色で、緊張せずに吹けるようになるコツを教えてください。

A. それぞれの特徴を生かして練習すれば、こわいものなし
アルトのほうが慣れているからソプラノで演奏することに不安があるんでしょうね。
普段からソプラノもアルトも同じように時間をかけて練習しましょう。サクソフォンは、持ち替えがそれほど難しい楽器ではないと思います。
そして、ソプラノにもアルトにも、またテナーにもバリトンにも「らしさ」があります。その特徴を自分なりにイメージできれば大丈夫。あとは慣れるためにじっくり練習しましょう。

 

Q. ソロ! アドリブ? どうしよう!?
次回の定期演奏会でジャズをやることになりました。アルトサックスでアドリブをやるのですが、今まで楽譜の通りにしか吹いたことがありません。アドリブは4小節くらいの予定です。田中さんは時々アドリブで吹くことがあるそうですが、どうされていますか。事前にしっかり作曲して作っておく? それとも本番時に即興で吹くのでしょうか?

A. 繰り返すうちに、楽譜がなくても吹けるようになります
アドリブのフレーズを要求される場面はいろいろあります。レコーディングのように、製品になって何度も聴かれるような場合は、事前に作ったソロを録ることもあります。かなり自由なことが許されていて、比較的得意なスタイルの曲を演奏する場合は、事前には何も決めずにトライすることもあります。
私はアドリブ・ソロは好きですが、ジャズ・プレイヤーのように自由に演奏できるわけではないので、以前は必ず楽譜に書いて演奏していました。その中にはコピーもありましたし、もとのソロからさらにフェイクしてみたこともありました。
でも、そんなことを繰り返していくうちに、アドリブに対する怖さがだんだん少なくなってきて、楽譜を書かなくても頭の中で歌いながら演奏できるようになってきました。
楽器より歌うほうが自由にできますからね。

 

Q. クラシックとポップスでは、マウスピースは変えますか?
クラシックの演奏家とジャズプレイヤーとでは、同じ楽器でもまったく音が違いますよね。それはマウスピースやリードが違うからだと思います。自分たちが演奏する時も、クラシックとジャズ、ポップスとではマウスピースを変えたほうがいいのでしょうか。田中さんは何種類くらいのマウスピースを使い分けていますか?
また、クラシックとジャズ、ポップスとでは、タンギングは変えていますか?

A. 楽器や仕掛けは変えず、曲に合った表現をしています
私の場合、どんなジャンルの音楽を演奏する時も、マウスピース、リード、楽器は一切変えません。ですからマウスピースとリードは1種類(アルトのマウスピースはセルマーS90-170、リードはバンドーレン3½)です。
ふだん演奏しているのはクラシカルな曲なので、言ってみれば自分の本籍はクラシカルの演奏家です。そこで、ジャズやポップスを演奏する時も、マウスピースなどで自分の音を変えようとするのではなく、その音楽のスタイル(語法など)を理解して演奏することで表現しています。もちろん、その中にはタンギングや息のニュアンスの違いもあります。
クラシカルな曲でも、タンギングや息の種類はひとつではなく、さまざまな種類があります。それと同じ感覚で、ジャズやポップスでもたくさんの種類の表現ができるようになると、演奏するのがさらに楽しくなりますよ。

 

Q. せっかくのバリトンソロが聴こえない……
田中さんはトルヴェール・クヮルテットでバリトンを担当されていますね。私も高校の吹奏楽部でずっとバリトン担当なのですが、今度の演奏会でポップスソロを吹くことになりました。でもバリトンサックスは、ソロで吹こうとすると、低い音なのではっきりしたメロディが吹きにくいと思います。かっこ良く歯切れのよいソロをバリトンで吹くためのコツを教えてください。

A. 皆と力を合わせて、低い音を目立たせよう!
アレンジにもよりますが、低音楽器のソロは音域が低いので、ハーモニーやベースの音域と混ざって埋もれやすいですね。
埋もれてしまう場合は、まわりの音を少なく、または小さく演奏してもらってバリトンが聴こえるようにするか、バリトンのソロを1オクターブ高く演奏するのも良い方法だと思います。たとえば、アドリブ・ソロの場合は低い音を上手く使いながら、高い音域をメインにして多めに使うとか……。ソロなので、ニュアンスを強めに表現するのも効果的だと思います。

 

クラシックもジャズ・ポップスもまじめに取り組みたくさんのことを吸収すべし!
田中靖人

※この記事はTHE SAX vol.61 を再構成したものです

田中靖人さん
田中 靖人 Yasuto Tanaka
和歌山県出身。国立音楽大学在学中、第4回日本管打楽器コンクール・サクソフォン部門で第1位を獲得。1991年には「管打楽器ソロ名曲集・サクソフォーン」でCDデビュー。1995年「ラプソディー」、1997年「サクソフォビア」を、03年「ガーシュインカクテル」を、2012年「モリコーネ・パラダイス」をリリース。一方、室内楽のジャンルではサクソフォン四重奏団[トルヴェール・クヮルテット]で活躍。2001年には文化庁芸術祭レコード部門大賞受賞。現在、昭和音楽大学客員教授、国立音楽大学教授として後進の指導にもあたっている。


▷田中靖人オフィシャルホームページ◁

 
サックス