サックス記事 田中靖人の吹奏楽サックス A to Z 第17回 | アンサンブル力をアップしよう
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THE SAX vol.67(2014年11月1日発刊)より転載 

田中靖人の吹奏楽サックス A to Z 第17回 | アンサンブル力をアップしよう

LESSON

田中靖人氏が吹奏楽におけるサクソフォン演奏の悩みに答えてくれる「吹奏楽サックスA to Z」。今回は“アンサンブル力”にスポットを当てました。

田中靖人氏が吹奏楽におけるサクソフォン演奏の悩みに答えてくれる「吹奏楽サックスA to Z」。今回は“アンサンブル力”にスポットを当てました。

Q. パートでこれだけはやっておきたい基礎練習はありますか?どのような練習をすればいいか教えてください。

A.パートでできる基礎練習は、個人的に練習するロングトーンやスケールを使った内容でも、パートの音色、音程、バランスをお互いよく聴き合って、ブレンドするということを目的とするならば効果的だと思います。メトロノームは使わず、音の始めやブレス、音の終わりなどをお互い同じテンポ感で音を聴いたり、合図を頼りに演奏することもアンサンブルのトレーニングのひとつと言えるでしょう。
スケールではアーティキュレーションを決めて、いろんなパターンで演奏してそのニュアンスをそろえたり、曲の中やバンドメソッドにあるハーモニーを使って、響きを理解しながら音程やバランスを合わせる練習ができます。
内容はいろいろなパターンがありますが、はっきりと目的意識があれば簡単なものでも効果がありますので、まずは皆さんのまわりにあるものを使って練習してみましょう。

Q. バランスの良いハーモニーにするにはどうしたらいいでしょうか?

A. ハーモニーとしてのバランスを文章で説明するのは難しいことですね。
ド─ミ─ソの順でハーモニーが並ぶとは限らず、例えばミ─ソ─ドやソ─ド─ミなど、 転回形になると響きの印象は変わるので、実際に聴きながら心地よい音程やバランスにするからです。
ですので、質問にあるバランス良いハーモニーは、音色という点でお答えしたいと思います。
メロディに対してのハーモニーは、もちろんそれらを聴きながらのバランスとなりますので、メロディが引き立つような音色で背景となることが基本ですが、場合によってはおさまっていくメロディに対して、相反する感じで出るほうが音楽的に良いこともありますので、いつも背景となってサポートすることが良いバランスとは限りません。
どんなハーモニー(響きでも良いです)の進行なのかということも理解して演奏できれば、ハーモニーもメロディとして感じられるようになります。
そうなるとメロディとの絡みが楽しくなってきますよ。

Q. カルテットをするときに、レベルの差がある場合はどのようにレベルアップを図ればいいですか?

A. パートの割り振りについては、ソプラノが得意であるとか、バリトンが得意であるとか、音楽的に演奏できて、リーダー的存在だからこのパートとかいろいろあると思います。
アルト、テナーはハーモニーでの内声を担当する重要なパートですが、ソプラノとバリトンは、アンサンブルの音色や音楽的な流れを作る上でリードする場面が多いので、技術面に差がある場合や、人間的なキャラクターも関係する場合は、パートの割り振りに関係してくるでしょう。
練習の仕方は、皆が助け合うことが大切です。私がリーダーなのだからすべて合わせなさい、というようなやり方は良いアンサンブルとは思いませんよね? テンポのこと、音程のことなど、最もいいところに集まれるように繰り返しリハーサルをすること、よく話し合うことです。吹けない人がいるなら、練習に付き合ってあげるなど、メンバー間の友情が最も大切なのです。
これは小さなアンサンブルに限らず、オーケストラのような大きなアンサンブルでも同様です。

Q. 田中さんがカルテットをやるときに注意していることは何でしょうか?またカルテットを上手く合わせるためのコツ、秘訣を教えてください。

A. アンサンブルで最も小さいのは二重奏ですね。この場合、共演者の演奏を聴きながら、演奏することは比較的分かりやすいのですが、三重奏、四重奏と共演者が増えてくると、より注意深く聴くこと、音を出すことを求められます。
オーケストラのような大編成になると、指揮者もいますから、アンテナをたくさん持って、送受信する必要があります。
スコアを見たり個々で作品のことを知っておくことは必要ですが、演奏上の疑問点は、話し合ったり分奏したり、細かなリハーサルをして、音楽的に同じ方向へまとまるように作っていきます。その中には密なアンサンブルの場面と、より自由に、よりソリスティックに解放するような場面も作ることによって、個性が出てきて音楽に楽しさが増します。
上手く合わせるためのコツや秘訣は、「聴くこと」です。それは共演者や自分の音だけではなく、呼吸(空気)を感じることも聴くことに繋がります。音楽は生ものですから毎回変化します。それを予測すること、瞬時に反応すること。
リハーサルはそのためにあると思ってください。

※この記事はTHE SAX vol.67を再構成したものです

田中靖人さん
田中 靖人 Yasuto Tanaka
和歌山県出身。国立音楽大学在学中に第4回日本管打楽器コンクール・サクソフォン部門で第1位。矢田部賞を受賞し卒業後より、ソリストとして各地でリサイタルなど幅広いコンサート活動を行ない、テレビやラジオにも数多く出演。また、サクソフォン四重奏団《トルヴェール・クヮルテット》のバリトン・サクソフォーン奏者として国内外で活躍し、これまでに10枚を超えるCDをリリース。2001年には文化庁芸術祭レコード部門“大賞”を受賞。ソロ・アルバムに1991年「管打楽器ソロ名曲集・サクソフォーン」95年「ラプソディー」(東芝EMI)97年「サクソフォビア」(東芝EMI)2003年「ガーシュインカクテル」(佼成出版社)12年「モリコーネ・パラダイス」(EMIミュージック)をリリース。03年、和歌山県より「きのくに芸術新人賞」を受賞。サクソフォンを大室勇一氏に師事。現在、昭和音楽大学客員教授、国立音楽大学教授として後進の指導にもあたっている。


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