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THE TRUMPET vol.9 | インタビュー
エリック・ミヤシロ 待望のニューモデルYTR-8330EM が完成!!
世界中にその名を轟かせるスーパートランペッターであるエリック・ミヤシロ。そんな国際的な人気奏者が監修したシグネチャーモデルのトランペットが、17年ぶりのモデルチェンジを果たした。開発の目的や完成までの試行錯誤の様子についてなど、早速エリック・ミヤシロ本人に質問をぶつけてみた。
我々は常にベルの後ろにいて、一生自分の生の音を聴くことは不可能
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俗にいう「遠鳴り」というものはどうお考えでしょうか?
E
遠鳴りしている感覚はなかなか捉えづらいものです。スタジオでマイクに向かって吹くというのはとても特殊な環境ですが、ライブコンサートなどでPAがあったとしてもある程度の生音がお客様の所へ届くように心がけています。自分の位置からだけで聞こえる音で色々と判断するのは危険です。我々は常にベルの後ろにいて、自分の生の音を一生聴くことは不可能です。もちろんマイクやヘッドフォンを通した音は聴けるけれど、生の音は絶対に聞けない。ここが勘違いのもとなんです。マイク無しでのオーケストラ、吹奏楽、ビッグバンドなどでも自分の前にいろんな楽器がいてお客さんとの距離はすごく遠いですよね。自分の音がお客様の所でどんな感じで鳴っているのかを把握するのは至難の業です。でも管楽器は空気を振動させる原理で鳴っています。演奏している空間を満遍なく、豊かに振動させるためには鳴らすイメージを遠くに保つことが大切だと思います。
―
遠くに自分の気持ちが届けられるように吹く、ということですね。
E
そうです。怒鳴り声って、迫力あるけど自分の周りですぐ散っちゃって、実は相手にはそんなに届いてないことってよくありますよね。太い芯があって温かさ、明るさがあって、倍音がたくさんあるとそれが助け合って遠くの空気を振動させてくれる……そんなイメージが大事なんです。鋭いギザギザが目立つ波形ではなく、しなりのある柔らかい波形のほうが遠くに届きます。
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遠鳴りを身に付けるために、障害物のない野原で吹きまくるというのは?
E
絶対おすすめしません。野原みたいに何も反響がないところで吹き過ぎてしまう危険があります。吸音材で囲まれているような練習室も長時間はよくないですね。よく響く場所、例えば大きなホールで吹くと気持ちが良く、楽じゃないですか? それは出ていく音と戻ってくる音が管体の中でお互いに混ざり、安定波となるからです。反響が少ない場所だと一方通行の音波に響きを求めるため、つい吹き過ぎてしまいがちです。
E
ええ、ここは最初のEMモデルと変わっていません。ロータリートランペットを使うドイツのオケを何回も生で聞いたのですが、細管(MS)で大きなベル径という、ロータリーの響きがとても綺麗なまま遠鳴りするのを感じ、ヴィンテージロータリートランペットのモンケのベル径をBobby Shew、Wayne Bergeronモデルなどで使われているヤマハのAベルにモンケと同じ径で作ってもらって、フレンチビードにしたら大成功でした。今回のモデルチェンジではベルは変えていません。
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チューニングスライド付近の、ユニークなデザインの支柱も変わらず?
E
位置を微妙に変えています。というのは、バルブとリードパイプを止めている部分の支柱位置を、これまでの二番から三番ケーシングに変えているからなんです。なぜ変えたかというと、リードパイプにはいろんなプレッシャーポイント、吹いている音によって音圧が高い所やツボが色々な場所にあるんです。俗にいう「ハイG」、5線の上の加線一本のラと、そのオクターブ上のラにはどのメーカーも苦戦しているのですが、ここを変えてみたら安定する、という効果が得られたんです。チューニングスライドの支柱の位置の変更もこの支柱の移動のバランスを取るために変えました。今回の新しいEMモデルも前作同様、いろんな人に万遍なく好まれるようにという狙いではなく、まずは自分が心から信頼できるものを造ってもらっただけなんです。今回も求めていたのは真っ白なキャンバスのような楽器。そこに自分が思い浮かべている色で自由に絵が描けるような楽器。いい意味で「これはヤマハの音です」というものがないと思います。 多くのメーカーさん達の伝統的な楽器のコピーを大事にする意味もわからないではないですが、現代に生きるアーティストとしてはやはり「今」の気持ちをそのまま表現できるような楽器を理想としてYTR-8330EMは生まれ変わりました。虹色を奏でられる楽器です! Catch the Rainbow!!!
Part.2はTHE TRUMPET #09でお楽しみください!
フォスファーブロンズ製パーツ
理想の音色と最適な吹奏バランスを追い求め、いくつもの素材や重量の試作を繰り返し、ヤマハトランペットとして初めてフォスファーブロンズ製パーツを採用。高音域での輝かしい倍音と、中音域での倍音の豊かさが向上している。
[希望小売価格]429,000円(税込)
[問合せ]株式会社ヤマハミュージックジャパン お客様コミュニケーションセンター
管弦打楽器ご相談窓口 ナビダイヤル 0570-013-808
YTR-8330EM (New) |
ベル |
直径 |
134.4mm(5-1/4") |
形状 |
Aベル |
フチ輪 |
フレンチビード |
シーム |
サイドシーム |
素材 |
イエローブラス/一枚取り |
仕上げ |
ゴールドラッカー |
その他 |
新規彫刻 |
バルブケーシング |
新設計二体式 |
ボアサイズ |
ステップボア(ML) |
リードパイプ |
新設計EMオリジナル |
マウスピースレシーバー |
新設計レシーバー |
主管抜差管 |
支柱1本(新設計EMオリジナル) |
ピストンパッド/キャップパッド |
Xeno Artist model |
ボトムキャップ |
フォスファーブロンズ製 |
第1・3抜差管 |
カニ目あり |
第3抜差管ストッパーネジ |
フォスファーブロンズ製 |
付属品 |
マウスピース |
TR-EM1-MK2 |
ケース |
TRC-8340EM |
エリック・ミヤシロ
父は米国人のプロトランぺッター、母は日本人のダンサー/女優という音楽的に恵まれた家庭環境のなかハワイで生まれ育つ。小学校の頃から楽器を始め、中学生になるとプロとしての活動を始める。中学、高校時代はジャズだけにとどまらず多数のオーケストラでも活躍し、数多くのコンチェルトを演奏する。地元では“天才少年”としてテレビ、ラジオの出演依頼が殺到し、噂が広まり高校三年の時にはハワイ代表として全米高校オールスターバンドに選出されニューヨークのカーネギーホールで憧れのメイナードファーガソンと初共演する。高校卒業後、ボストンのバークリー音楽院に奨学金(Maynard Ferguson Scholarship)で招かれ入学、在学中からボストン市内のスタジオで先生たちと一緒に仕事をする。22歳でバディ・リッチ、ウディ・ハーマンなどのビッグバンドにリードトランペットとして招かれ、7年間ほど世界中を回る。数多くのアーティストのリードトランぺッターとして活動後、89年に来日。すぐに持ち前の読譜力、オールマイティーな音楽性でスタジオ録音、テレビ、アーティストのツアーサポートなどの仕事を始める。吹奏楽、オーケストラ、学校講師、クリニシャン、作曲家、アレンジャー、プロデューサーと幅広く活動が次第に広がっていく。1995年に日本国内最高のメンバーを集め、ビッグバンド“EM Band”を結成。2013年からは“Blue Note Tokyo All Star Jazz Orchestra”のリーダー/音楽監督としての活動もスタートし、精力的にライブを開催している。