その演奏がニューヨーク・タイムズからは「軽やかな輝き」、ワシントン・ポストからは「魅力あふれるレガートタッチ」と紹介されるなど、各方面から称賛を浴びてきたデイヴィッド・ビルジャー氏。長らく首席奏者を務めてきたフィラデルフィア管弦楽団を2022年に退団した巨匠が、2023年夏に開催された浜松国際管楽器アカデミーの教授に就任し来日した。オーケストラでの思い出や開発にも携わった愛器ヤマハYTR-9445NYS-YSとYTR-9335NYSについてなど話を訊いた。
(通訳:荒木 晋/取材協力:株式会社ヤマハミュージックジャパン)
音楽家、人間として、どのように成長していくべきかを教えることも重要
―
今回で浜松国際管楽器アカデミーの教授を務めるのは3回目になりますが、それ以外にも日本の学生とこれまで接してきて感じていることはありますか?
ビルジャー
(以下B)
日本は吹奏楽がとても盛んで伝統もあり、そこで楽器を習得する人が大半ですよね。アメリカではマーチングバンドなど他の形態での経験者も多いので、その点がまず特徴的だと思います。その影響か音程やリズムなどの技術はよく勉強していて優れている人がとても多いですね。ただ、それは日本人の几帳面であるという気質に起因しているとも考えられます。いずれにしても技術面でのレベルは一様に高いのですが、例えば音質面について見ると優れている生徒と問題のある人たちとの差がハッキリしているのが特徴ですね。逆にアメリカだと技術面では進んでいない学生も多いのですが、音質の面などは皆よく勉強している印象があります。もちろん日本でもアメリカでもトップクラスの学生たちは両面で優れているわけですが。
―
こういったアカデミーは世界各地で開催されていると思いますが、浜松国際管楽器アカデミーならではの他とは違う特徴など何か感じる点はありますか?
B
他のこういったアカデミーだとオーケストラスタディや金管アンサンブルなどに焦点を当てることが多いのですが、浜松国際管楽器アカデミーは個人レッスンが主体ですよね。それによって先生と生徒の個人的な関係性が強く結ばれることになる。それが一番の特徴なのではないでしょうか。
―
現在ノースウェスタン大学とカーティス音楽院で教鞭をとられています。指導の際に気を配っていること、モットーとされていることを教えてください。
B
ノースウェスタン大学は規模が大きく学生数も多く、カーティス音楽院はもう少し小さな学校で生徒数もそれほど多くありません。そういった違いはあるにしても、まず私が共通して考えるのは学生たち仲間同士が助け合いながら学べる健康的なコミュニティを築くことです。そして学生たちが抱える問題点に気を配り、それを解決できるように諦めることなく取り組んでいます。また、トランペットのことだけでなく音楽家として人間として、どのように成長していくべきかを教えることも重要な義務だと感じています。
―
プロのトランペッターになるための資質としてどんなことが必要だと感じていらっしゃいますか。
B
上位25%くらいに入っている学生には誰も才能が備わっていると思います。が、トップの1%に入るには努力が不可欠です。誰よりも朝早くから練習を始めて一番最後まで残って練習する。そういう真面目に努力できる資質が必要ですね。
次のページへ続く
・プレッシャーのかかる状況で、さらに良い演奏が実現できる強みを持つ
・パワフルな音から柔らかい音までの幅広い音質を得られるトランペットに
デイヴィッド・ビルジャー
イリノイ大学とジュリアード音楽院で学び、 ダラス交響楽団首席奏者を経て、1995年に フィラデルフィア管弦楽団首席奏者に就任し2022年に退団。ソリストとしては、フィラデルフィア管弦楽団、ダラス交響楽団、ヒューストン交響楽団などと協演、さらにはニューヨーク、ワシントンD.C.などでのリサイタルやチェンバーソサエティ・オブ・リンカーンセンター、NYトランペットアンサンブル、セントルークス室内管弦楽団など室内楽グループとも協演し、幅広く活躍する。また指導者として、ノースウェスタン大学、カーティス音楽院で後進の指導にあたるほか、ジュリアード音楽院、マンハッタン音楽院などの著名な音楽大学、さらにはパシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)やアスペン音楽祭など世界的な音楽祭に招かれ、マスタークラスを行なっている。全米を代表するトランペット奏者の一人である。