聴いておきたいCD10選 & Event Report
ラインホルト・フリードリヒ(RF)を深く知るためのディスクを編集部と相談して独断と偏見により厳選(従って苦情などは編集部にお願いしますね)。まずは、これら歴史的な録音から、その魅力に触れてみては!?
(文:榎本孝一郎)
ラインホルト・フリードリヒを知るための 聴いておきたいCD10選
1. マーラー 交響曲第5番
[COCQ-85312]日本コロムビア
【収録曲】マーラー:交響曲第5番
【演奏】エリアフ・インバル 指揮 フランクフルト放送交響楽団
一番最初はやっぱりこれ、オケ中でのRFといえばだれが何と言おうとこの一枚。文化庁芸術作品賞、「レコード芸術」誌特選、朝日新聞試聴室特選、のほか英独仏はじめ世界各国の賞を総なめにした名盤にして、デビュー盤。当時30代とは信じられない堂々たるRFの魅力全開。モンケのロータリーを使用したとのこと。
2. ブランデンブルク協奏曲
[UCCG-1520]DG
【収録曲】J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 全6曲
【演奏】クラウディオ・アッバード指揮 モーツァルト管弦楽団
エッガー製カスタムメイドのC管ピッコロを手に、リコーダーのミカラ・ペトリなど錚々たる名手を従えて軽やかにかつしなやかに例のフレーズを歌い上げるRFの雄姿はYouTubeでも確認できるがその音源がこの一枚。RF自身は、鬼才ラインハルト・ゲーベルがベルリン・バロック・ゾリステンを指揮した2016年収録のアルバムが個人的には今のところのベストとのことだが、ともかく成層圏での軽やかな歌声に痺れてください。
3. エンヨット・シュナイダー作品集 トランペットの芸術
[SOLO MUSICA SM 419]the art of trumpet
【演奏】マルティン・バエサ・ルビオ指揮 ミュンヘン交響楽団(Solo Musica SM419)
【収録曲】ヴィヴァルディッシモ、アルタイ - 無限への軌跡、L'angelica Farfalla - Diamonds lost in the darkness of past、イカルス、光への希求
エンヨット・シュナイダーはライン川の東側、ヴァイルアムラインに1950年に生まれた作曲家で映画音楽方面でも活躍しているが、作曲以外でもビジネスマンや教育者としても実力を発揮している。RFのための作品集は本作と「タイムトラベル」(ガブリエル・ヴェンツァーゴ 、 南西ドイツ・フィルハーモニー交響楽団)の2枚がある。ヴィヴァルディの有名な協奏曲をモチーフにしたトラック1を含め、スタイリッシュな名曲ぞろい。
4. おお、人間よ!心せよ!~トランペットとオルガンのための作品集
[ARS38359]Ars Produktion
【演奏】ラインホルト・フリードリヒ/アンドレ・ショッホ(Tp)、セバスティアン・キュヒラー=ブレッシング(Org)、クリスティーナ・ショッホ(Rec)
【収録曲】ブラームス:4つの厳粛な歌 Op.121 より ああ死よ、お前を思い出すのは何とつらいことか、ジグモンド・サットマーリ(b.1939):トランペットとオルガンのため...追悼...、マーラー:交響曲第3番ニ短調より 《おお、人間よ! 心せよ!》、ルカ・ロンバルディ(b.1945):トランペットとオルガンのためのギルグル(輪廻)、ブルッフ:コル・二ドライ Op.47、ヤン・ミュラー=ヴィーラント(b.1966):2本のトランペットとオルガンのための教会音楽、ノルベルト・リンケ(1933-2020):フルート、トランペットとオルガンのためのサンタ・テレサ、オトフリート・ビュージング(b.1955):リコーダーとオルガンのためのヘブライ語の歌にちなんだ4つのエピグラム《 Hevenu shalom areichem》
トランペットとオルガンは、似ている。だからデュオなんかやる必要はないんじゃないか……というと、似たもの同士の相乗効果というのはあるもので、後述する全集でもまるまる一枚をオルガンとの二重奏に当てているくらい、充実した作品群が豊かに存在する。タイトルはマーラー『交響曲第3番』第4楽章の歌詞からの引用。そもそもがニーチェ「ツァラ……」からの引用なのだが、この部分を活かした作品に注目したのはさすがRF。
5. 兵士の物語(フランス語版、英語版、ドイツ語版)
[HMM992671DI他]ハルモニアムンディ
【演奏】ラインホルト・フリードリヒ(Cor)、イザベル・ファウスト(Vn)、アレクサンドル・メルニコフ(Pf)、ドミニク・ホルヴィッツ(英独仏三か国語による語り、兵士、悪魔役)、ロレンツォ・コッポラ(Cl)、ハヴィエル・ザフラ(Bsn)、ヨルゲン・ファン・ライエン(Tb)、ウィス・ド・ボーヴェ(Cb)、レイモンド・カーフス(Perc)
【収録曲】兵士の物語、エレジー、協奏的二重奏曲(ストラヴィンスキー)
アルバムはヴァイオリニスト名義だが、本当の立役者は語り部のドミニクさんだと思う。なんせ英独仏三か国語でそれぞれ収録している、が本誌的にはそこじゃなくて、1906年製のフォンテーヌ・ベッソンのコルネットや1915年製のピストンC管(メーカー不明)を、古楽器特有の臭いにもめげずに見事に吹きこなすRFの凄腕に感動すべき。あと、「Ratzek製ミュート、マウスピース(1900年頃、製作者不明)」みたいなことまで調べたCD制作者にも。
6. カールスルーエ音楽大学の50年
[C7367]Capriccio
【演奏】ラインホルト・フリードリヒ(Tp)、ゾントラウト・シュパイデル/サラ・パヴロヴィチ/オルガ・リッシン=モレノヴァ/フランク・デュプレー(Pf)、ワン・ユエ(Sop)、ヨーゼフ・リッシン/ローラン・ブロイニンガー(Vn)、ユリウス・キルヒャー(Ob)、マルティン・オステルターク/ベネディクト・クレックナー(Vc)、クララ・シューマン弦楽四重奏団、ローランド・クルティヒ指揮ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団 他
【収録曲】ヴォルフガング・リーム:協奏曲 - ピアノと8つの楽器のために他CD3枚に全29曲を収録
カールスルーエ音楽大学は、1812年から民間の教育機関として発足し1971年から正式な州立大学となったRFの勤務先。今年7月に急逝した学長ヴォルフガング・リーム(1952-2024)の作品を中心にした3枚組。RFはリームの室内楽(キャプション参照)1曲に登場するのみだが、どれもかっこいいので、それを知ってほしいのとリームさん追悼の意味を込めて挙げました。
7. 私たちの叫びに耳を傾けて下さい~トランペットとオーケストラのための作品集
[ARS38318S]Ars Produktion
【演奏】ラインホルト・フリードリヒ(Tp)、ドロテー・ミールズ(Sop)、竹沢絵里子(Pf)、ルーベン・ガザリアン指揮インゴルシュタット・グルジア室内管弦楽団
【収録曲】ユスポフ:私たちの叫びに耳を傾けて下さい、イヴァン・フィッシャー:ドイツ=イディッシュのカンタータ、カンチェリ:夜の祈り、ホヴァネス:復活 Op.71より アリア、ロンバルディ:告別 ~ クラウディオ・アバドの追憶に
前項のリーム先生はクラウディオ・アッバードとも親交があった。RFもアッバードとは素晴らしいブランデンブルクを入れているが、これはそのアッバードに捧げる作品集。タイトルはタジキスタン出身の作曲家ユスポフ(1962-)の作品。名歌姫ミールズと共演した『ドイツ=イディッシュのカンタータ』も泣けるが、故アッバードへの思いを込めたような最後の『告別』(ルカ・ロンバルディ(1945-)でのRFの歌心に号泣。
8. ラインホルト・フリードリヒ/花の章
[ARS38317S]Ars Produktion
【演奏】ラインホルト・フリードリヒ(Tp)、竹沢絵里子/アリサ・クラッツァー(Pf)
【収録曲】マーラー/クラッツァー編:トランペットとピアノ4手連弾のための『花の章』、エーラー&フリーマン=アットウッド:リヒャルト・シュトラウスに基づくソナタ、ジョンゲン:トランペットとピアノのためのコンチェルティーノ、ピルス:トランペットとピアノのためのソナタ、ネスラー/フリードリヒ&竹沢絵里子編:若きヴェルナーの別れの歌、R・シュトラウス:ばらの花環、マーラー:トランペットが美しく響くところ
マーラーの『交響曲第1番』には「巨人」という副題がついている。その第2楽章は3拍子の田園風なワルツ……なのだが、実は幻の第2楽章というのがあって、それが現在では「花の章(原題Blumine)」として単独で演奏されるようになっている。原型となったのは朗読劇の伴奏音楽で、そこからの換骨奪胎だが、失恋が原因で生まれた名曲らしい。実は「巨人」はこの作品がなければ生まれなかったのでは……とも言われている名曲。
9. ラインホルト・フリードリヒ ザ・トランペット・コレクション
[C7285]ナクソス・ジャパン
Disc2『イタリアのトランペット協奏曲集』
Disc3『ドイツのトランペット協奏曲集』
Disc4『バロック期のトランペット協奏曲集』
Disc5『古典派のトランペット協奏曲集』
Disc7『現代のトランペット協奏曲集』
Disc8『トランペットとオルガン』
Disc9『ベル・エポック トランペットとピアノ』
Disc10『トランペットとパーカッション』
【演奏】ユルゲン・ヒュプシャー(Theolbo)、トルイケ・ファン・デア・プル(Vo)、コルネリア・ブラントカンプ(Fl)、イェンス・ペーター・マインツ(Vc)、吉井瑞穂/佛田明希子/アネッテ・シュッツ(Ob)、スザンヌ・ゾンターグ(Fg)、ヨゼメ・アジェイ/ラウラ・ブコヴラトヴィック/アラン・デ・ルッデル/フェリックス・ワイルド/サラ・スレーター/アダム・リクサー/イエルーン・ベルワルツ(Tp)、ヴォルフガンク・ヴィフラー(Hn)、オリヴァー・ジーフェルト(Tb)、ウーヴェ・フュッセル(B.Tb)、フリートヘルム・マイ/ロビン・シュルコフスキー(Perc)、トーマス・ドゥイス(Pf)、イヴェタ・アプカルナ(Org)、サー・ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団、マルティン・ハーゼルベック指揮ウィーン・アカデミー管弦楽団、ベーラ・バンファルヴィ指揮ブダペスト・ストリングス、ホルガー・シュペック指揮カペラ・イストロポリターナ、ルッツ・ケーラー指揮ベルリン・ドイツ交響楽団、ドミトリー・キタエンコ指揮フランクフルト放送交響楽団、ベルリン・バロック・カンパニー
バルブを持たない古楽器の典雅にして勇壮な響きから、わけわからず鳴りまくる(しかしRFの手にかかると凄くリリカルに響くのが不思議な)現代曲まで、全10枚のCDにRFの「今」がぎっしり!なお得な全集(もちろんRFの活躍はこれからも続くからほんとの意味の「全集」ではないのだが)。ただ、謎が一つだけ。最後の1トラックにはRFは不在(打楽器独奏)。なぜこうなったのか……真相は11月来日時に再インタビューしたいものだ。
10. —番外編— マーラー 交響曲第五番 アンドレア・バッティストーニ指揮
東京フィルハーモニー交響楽団
[COCQ-85613]日本コロムビア
今回の特集ではRFの愛弟子のみなさんにインタビューしたが、そのなかでも語られたように、川田修一さんはRFに学んだエッセンスをまるごとこの一枚にぶち込み名盤となった。ご存じのように「マラ5」といえばプロオケのオーディションでは必ず出題される課題の一つだし、聴きどころは満載。ほぼほぼトランペット協奏曲といってもいい作品だ。1.とともに聴き比べ、RFの音楽的遺伝子がどのように受け継がれたのかを確認したい。