What's えびちゃん留学記 ...
自分が感じる「違い」はなんなのだろう───
演奏の違いから様々なことを探求して行った留学時代と海外生活時代を振り返りながら、現地の情報もお届けします。ファゴット奏者で、指揮、講演、コンサートの企画、オーガナイズ、コンサルティング、アドバイザーなど様々な活動をする基盤となった海外留学とはどんなものだったのか。思い出すままに書いていきます。
Text by ...
蛯澤 亮
Ryo Ebisawa
茨城県笠間市出身。笠間小学校にてコルネットを始め、笠間中学校でトランペット、下妻第一高等学校でファゴットを始める。国立音楽大学卒業。ウィーン音楽院私立大学修士課程を最優秀の成績で修了。バーゼル音楽大学研究科修了。 ザルツブルク音楽祭、アッターガウ音楽祭、草津音楽祭などに出演。元・ニューヨーク・シェンユン交響楽団首席奏者。茨城芸術文化振興財団登録アーティスト。ファゴットを馬込勇、ミヒャエル・ヴェルバ、セルジオ・アッツォリーニの各氏に師事。 「おしゃふぁご 〜蛯澤亮のおしゃべりファゴット」を各地で開催、クラシック音楽バー銀座アンクにて毎月第四金曜に定期演奏、池袋オペラハウスにて主宰公演「ハルモニームジーク 」を毎月第二水曜日に開催するなど演奏だけに留まらず、様々なコンサートを企画、構成している。
今回は入試事情について書いておこうと思う。
留学と言ってもやり方は二つ。プライベートで習うか、学校に入るかだ。多くの人は学校に入るだろう。そのほうがビザが取れるし保険にも学生料金で安く入れるからだ。ちなみに、プライベートの場合は語学留学としてビザを取るなど他の手段が必要になる。
学校に入るにも様々なやり方がある。特にウィーンやパリのようにたくさんの学校がある場合はそれぞれ取れる学位や年齢制限なども違う。例えばウィーンで音楽の修士が取れるのはウィーン国立音楽大学と私の卒業したウィーン音楽芸術私立大学(旧ウィーン音楽院私立大学)の二つ。他の学校では他大学の授業を履修しなければならない。自分が何の目的で留学するのかを考えて学校を選ぶのも大事だ。もちろん、後から変更することも可能なので、「最初は学位なんていらなかったけどやっぱり修士が欲しいので大学院に入ろう」と方針転換するのも良いと思う。ただ、学位を取れば肩書きに残るので信用されやすくなるが学位がなければ仕事の実力で自分の価値を作り上げていくことになるという事は覚えておいて欲しい。
私も最初は仕事で結果を出すがどうかが大事だと思っていたし学歴なんてどうでも良いとも思っていた。しかし、いくら音楽界で著名であっても、他の職業の人々にとって尊重されるかはまた別の話なのだ。欧米は実力主義だといっても欧と米によっても違うし、もちろん国によって全く違う。オーストリアは肩書きを結構重視する国で、自分の取得した学位を書くときが割とある。知り合いの日本人でも、修士または博士の肩書きがあるだけで空港でのカウンター対応が違ったという人が何人かいる。この辺のことは私が修士を取る決心をするあたりでで詳しく書くことになるが、そこでどんな勉強をしたのかという証を受けるかどうかというのは大事なことだと思う。
入試に関しては学校やクラス、専攻など色々な違いがあるが、全体的に言えるのは外国人が留学するのは厳しくなっているということだ。大きく分けると20世紀と21世紀でだいぶ違うように感じる。21世紀はだいたいの先進国で外国人が増えすぎて、外国人に対してのハードルを上げている傾向がある。昔はそこまで厳しくなかった語学も今では期間内に検定に合格しないと、大学合格を取り消されたりする。昔は「入るのは簡単、卒業が難しい」と言われたが、最近は入ることも難しくなっている様だ。
そういった留学事情は政策スタンスによって変わることもある。ウィーンでは右派が政権を握ったことによって一昨年から更に外国人に厳しくなったようだ。学校に合格したのにも関わらず、期限内にビザが取れずに一時帰国する羽目になった後輩もいる。昔からビザが下りるのに時間がかかったが、最近はより大変になっている様に感じる。
また、入試を受けるにあたって大事なのは、事前に自分の習いたい先生にコンタクトを取ってレッスンを受けること。そして、クラスに席が空いているかを確認することが大事だ。ヨーロッパの大学ではクラスに入れる人数が決まっており、日本のようにみんなエスカレーターで卒業していくわけではない。卒業しないで学部で五年以上学生をやっている人も稀ではない。だからその年にクラスの席が空かなければ誰も入ることができないのだ。もちろん、席が一つしか空かなければみんなでその椅子を取り合うことになる。人気のある教授であればあるほど、入試戦争は熾烈なのだ。
そのために大事なのは短期留学や日本でのマスタークラスだ。夏や冬に各地で講習会が行なわれている。そこに行ってみて自分の習いたい先生のレッスンを受けてみるのも良いし、もし日本でマスタークラスがあるなら一番手っ取り早い。最近はファゴットなんてマイナーな楽器でも、マスタークラスがたくさん開催されている。現在の師からいただくツテを頼りにするのも良いが、様々な音楽祭や講習会の情報を掴みつつ、自分で進路を模索してみるのもオススメだ。
次回予告 :coming soon