12 |ウィーンで学んだ音作り

師匠ウェルバが最初に教えてくれたこと

What's えびちゃん留学記 ...

自分が感じる「違い」はなんなのだろう───
演奏の違いから様々なことを探求していった留学時代と海外生活時代を振り返りながら、現地の情報もお届けします。ファゴット奏者で、指揮、講演、コンサートの企画、オーガナイズ、コンサルティング、アドバイザーなど様々な活動をする基盤となった海外留学とはどんなものだったのか。思い出すままに書いていきます。

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蛯澤亮

蛯澤 亮
Ryo Ebisawa


茨城県笠間市出身。笠間小学校にてコルネットを始め、笠間中学校でトランペット、下妻第一高等学校でファゴットを始める。国立音楽大学卒業。ウィーン音楽院私立大学修士課程を最優秀の成績で修了。バーゼル音楽大学研究科修了。 ザルツブルク音楽祭、アッターガウ音楽祭、草津音楽祭などに出演。元・ニューヨーク・シェンユン交響楽団首席奏者。茨城芸術文化振興財団登録アーティスト。ファゴットを馬込勇、ミヒャエル・ヴェルバ、セルジオ・アッツォリーニの各氏に師事。 「おしゃふぁご 〜蛯澤亮のおしゃべりファゴット」を各地で開催、クラシック音楽バー銀座アンクにて毎月第四金曜に定期演奏、池袋オペラハウスにて主宰公演「ハルモニームジーク 」を毎月第二水曜日に開催するなど演奏だけに留まらず、様々なコンサートを企画、構成している。

 

 

 

 

ウィーンで学んだ音作り

ウィーンで学び始めてまず感じたのが、音作りが違うということ。
日本は音が太い。ウィーンは音が細い。

これを聞いて逆のイメージを持つ人もいるだろう。ウィーンフィルの音は輝きがあり、筋肉質で力強いと感じる人も少なくないと思う。特に2010年頃までのウィーンフィルの音のイメージは、今よりも力強い。しかし、彼らがどんな音を出しているかというと、実はかなりコンパクトなのだ。

ウィーンの人たちと一緒に演奏することになって感じたのは、自分の音と質が違うこと。太く、輪郭がはっきりしない自分の音に対して、ウィーンの人たちは音が大きい感じはせず、まとまってこぢんまりしていた。これはウィーンフィルの人たちもそうなのだ。師匠ヴェルバも近くで生音を聞くと、大してすごいとも思わない(笑)。

しかし、響く場所に来るとそれは一変する。ヴェルバもそうだが、周りの学生も響くところでは綺麗に響くのだ。なんというか、大きい音ではなく、しっかり綺麗に響くし、しっかりと聴衆に届いている。これが味噌なのだな、とだんだん思うようになった。

だから最初のうちは、音質の違いから自分の音が出しづらかった。自分の音が大雑把で汚い気がしてきたのだ。

ウィーンで最初に住んだ家も天井が高く、やたらと響いた。とても気持ちよかったが、今までの感覚とは全く違う環境に戸惑った。今までの吹き方をするとうるさくて、自分でも嫌になるのだ。

これがヴェルバが最初に教えてくれた「音をまとめる」ということだった。 芯はしっかりと細く、決して太くするべきではない、まとまった音が大事だということ。これが響く場所での音作りだった。

これは前回も書いた、環境による音作りの違いだ。パリに留学した人は、ホールだけでなくレッスン室自体もまったく響かないので、みんなとにかく音量を出してぶいぶい吹く。対してウィーンはホールはもちろん、レッスン室も自宅も学校のスタジオも響く。自分の音がどう響くかは非常に大事な指標だ。 それによって音作りが変わっていくのは当然のことなのだろう。 響きというのは不思議なもので、近くで聞いていて綺麗な音が遠くでどう響くかはまた別の話。近くでどんなに心地よい音でも、どんなに鳴っている音でも、ホールの客席でどう聞こえるかはまた別の話なのだ。

ヴェルバがある日、語ってくれたことがある。今でも、私が音作りで大事なことを見失いがちな時に思い出す。

───私の音は、昔のウィーンフィルのファゴットに比べれば良い音だ。昔はもっと生音が良くなかった。 ウィーンフィルに入団して間もない頃、引退間近の首席奏者がいた。私は隣で演奏していて彼の音が良いと思ったことは一度もないし、むしろ汚いとさえ思っていた。しかし、彼の引退コンサートの時、私は降り番で、この際だから客席で聴いてみようと本番のチケットを買って聴いてみた。

ホールで聴いた音はこの上なく美しかった。

その時に私は響きのために音を作ることの大事さを知ったのだ。
でもね、今の時代はやっぱり、近くで聞いても綺麗な音じゃないといけないよね。録音はマイクが近いし、生音を聴かれる機会が昔より断然多い。だから両方求めよう。音は個性だ。どんな音でも良い。ただ、響きの中で自分がどういう音作りをしなければいけないのか、常に考えるべきだ。

 

 


 

次回予告 :comming soon

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