「吹奏楽部の顧問になったけど、ピアノ科専攻だったから吹奏楽をどう教えればいいかわからない」──そんな悩みをよく聞きます。
クラシック音楽だけでも多岐にわたる形態ですから、吹奏楽経験者の先生だけが吹奏楽顧問になるとは限りません。むしろ、吹奏楽、管楽器出身の先生方のほうが少ないくらいでしょう。
そこでここでは顧問の先生たちが吹奏楽、そして子どもたちにどう向き合えば良いのかを特集しました。
「吹奏楽で子どもたちに笑顔を!」
子どもたちと一緒に、先生もスキルアップを目指しませんか?
楽曲分析や表現など音楽に関わる指導法といった問題よりも、練習に対する意欲低下や、部内の人間関係のトラブルといった生徒指導的な問題に心をくだいています。頭の痛いことに、見えないところでそうした問題がまれに勃発しますが、そうなると練習どころではありません。音にまったく説得力がなくなるので、一発でわかります。
創部当時は人脈もない上、限られた活動費での運営という経済的な問題もあり、なかなか外部との協力関係を築くことができませんでした。そこで、保護者に協力を依頼し、保護者会を立ち上げ、部活動費の徴収・管理を含む運営全般に係る支援をお願いすることとしました。相談しながら購入品を決めたり、講師の導入を試みたりしました。夏には灼熱地獄の音楽室に扇風機を何台も買っていただいたり、消耗品を寄付していただいたりと、保護者会長さんを中心に協力体制が整い、今ではなくてはならない強い味方&心の支えになる存在です。
ちょっと手を加えていくだけでどんどん成長している子どもたちを見ていると、小学生段階というのは、「吸収の時期」なのだということが本当によくわかります。どうでもよいことを含め、教えたものをどんどん自分のものにしていきます。「まだ○年生だからこれは教えなくてよい」でなく、「○年生にふさわしい伝え方でこれを教える」という視点が大切だということは、戸惑いながらも異校種勤務を経験したおかげで得た大きな成果だと思っています。
fを「強く」、pを「弱く」と楽語辞典通りのことばは極力使いません。強くってどういうこと? 弱くって何がどう弱い?と、意地悪な質問を突きつける時もありますし、「大きなボールがボヨヨ~ンと弾むようなやわらかい強さ」「ものすごい形相の人が猛スピードで迫ってくるような激しいクレッシェンド」「弦の振動が次第におさまっていくようなデクレッシェンド」など、物質的、絵画的なイメージをもたせる工夫を心がけたりもします。例えば、ピッコロやフルートの可憐な雰囲気のアンサンブルをそろえたいときは、「淡い色のドレスを着たかわいい妖精が舞っているような」といった感じです。ときには、「超イケメンが突然入ってきて激しいダンスを披露する感じ」といった、関係のない人が聞いたら一体何のことか? と首をかしげる不気味な表現を部員から提案されることもありますが、イメージがそろったフレーズは、命が宿るように豊かに変化し、バランスが整っていきます。
音大を出て教職へ→音楽の先生だから吹奏楽顧問に……というパターンは多いのですが、音大を出た先生でも管楽器専攻は少なく、管楽器に触れたことのない方も多いでしょう。そんなとき吹奏楽部の顧問としてどんな悩みがあり、どう解決していったかを公立中学校で指導しているM.S.教諭が応えてくれました。
部活の顧問も中学校教師の仕事の一つである以上、生徒や学校に迷惑をかけない最低限のことはやらなくてはならないと思います。そこは、専門でないからといって、逃げたり、いい加減にしたりするのは責任ある仕事ぶりと言えないのではないのでしょうか。やったことのない運動部の監督となって、ルールブック片手に審判講習会に通っている先生もおられますよね。私たちは、まだ「音楽」という範囲内のことですから、そういう意味ではありがたいことではないでしょうか。 自分で管楽器を練習するような熱心な方もおられますが、自分はそこまではできないし、その時間は自分のピアノの練習や所属している合唱団の練習、担任業務、教育心理学の勉強や授業準備に使いたいので、あえて管楽器の練習はしません。生徒ができるようになればよいのであって、そのために自分ができることは、自分が管楽器の練習をすることだけではないと考えます。もちろん管楽器の音の出し方を実感として知る意味は大きいとは思いますが、無理をしないことも大切なので、そこはバランスをとって、やることやらないことを自分で決めればよいと思っています。
生徒の演奏をひっぱれなくても妨げにはならない程度に指揮をして、部員をひとつのチームとしてまとめる、そして、自分もそのチームの一員として楽しむ努力をしている姿を生徒に見せることで、今の自分は、なんとか、どうにか、やれていると思っています。吹奏楽だと思うといろいろと心の壁ができてしまいますが、「音楽」としての合奏のひとつですし、技術の専門的なことは分からなくても、自分の耳で聴いて、いいか悪いか、好きか嫌いかはわかるはずですから、きれいかきれいじゃないか、合っているか合っていないかを自信をもって生徒に伝えてやれば、合奏もなんとかなると思います。
私は支部大会や全国大会に、何度も足を運び(それとセットにして旅行をして、おいしいものを食べて、楽しい思い出にしました)、自分好みのサウンドや演奏、曲を見つけたとき(実際の審査結果はまったく自分のセレクションと違いましたが)、吹奏楽を少し好きになることができました。また、自分と同じく吹奏楽の専門じゃなくても、とても感じのよい雰囲気の部を作っている先輩教師の方々の姿勢をいつも参考にさせていただいています。 拘束時間や休日の活動が多い部活ですし、なかなか人にはわかってもらえない辛さもあり、実際にしんどいです。しかし、吹奏楽部の顧問として校内での立場を確立することで他の部の生徒たちの信頼も得ることができ、授業などもやりやすくなるし、吹奏楽部員が様々な場面で自分を助けてくれるので、学校での様々なことが楽しくなります。あたたかく応援してくださる保護者の方や、どんなに失敗してしまった本番でも「よかったよ!」とほめてくれる同僚たちの存在も、自分はひとりじゃないと思わせてくれます。素晴らしい仲間、親身になって指導してくださる外部講師の先生との出会いなど、私自身は吹奏楽との出会いを通じて、自分の人生が豊かになったと感じています。吹奏楽を通じて、音楽をより深く学ぶこともでき、それはとても幸せでありがたいことだと思います。ステージに立って指揮をして、ライトを浴びて拍手をいただく経験も、誰にでもできることではないですし、楽しいと思える瞬間です。でも、しんどいなあと思うときのほうが多いです。 「目の前の生徒たちのために、がんばらなくちゃ」というのと、「少しでも聞き手に伝わる心のこもった丁寧で豊かな演奏をしたい」というのが自分のモチベーションの源です。
実際に指揮をする時に、スコアのどこを見ればいいのか分からないという質問を受けることがあります。スコアには各楽器が何段にも重なって書かれていてとても複雑に見えますね。ですが、各楽器の音楽的役割を分類するとそれほど多くはありません。単純には「主旋律」と「伴奏」です。伴奏パートはいくつかのリズムや音が組み合わせれていることが多いですが、「低音声部」と「その他」に分けて見てください。各楽器の役割をマーカーで色分けする方法もあります。
吹奏楽部では楽器のこと、ホール練習の確保(資金・場所など)など保護者と協力しなければいけないことが多くあります。保護者との関係はとても大事で、信頼関係を築いてほしい部分です。 また子どもたちには、自分たちが吹奏楽部で活動できることに対する感謝をきちんと教えなければいけません。それは保護者に限らず、出入りしている楽器屋さん、コンクールを運営している吹奏楽連盟、顧問の先生などにもです。 そのような人のつながりが部活をやることの意義につながるのではないでしょうか。音楽は二番手でも三番手でもいいのです。上手く演奏できるに越したことはありませんが、全員がプロ奏者になるわけではありません。子どもたちには音楽を通して様々なことを学んでほしく思います。
顧問の先生で音大や教育大学の音楽科を卒業された先生は、何かしら専攻された楽器があると思います。その場合、ソロで演奏することを前提に様々な課題を勉強されてきたでしょう。ところが指揮者となると、指示を与えなければいけない。できるできないではなく、指示を与える立場になれるかが重要です。自分がプレイヤーの側の意識しかないときは、それは難しいのです。 では、どういうふうに意識を持つかというと、「音楽に対する意見を持つ」ということです。吹奏楽に慣れていなくても音楽の知識のある先生方が多いでしょうから、自分の意見を持ってそれを生徒に伝えるだけでも前に進めると思います。 つまり大げさに言えば、個別の楽器のことに関しては、知らなくてもいい。コーチや出入りしている楽器屋さんに任せてしまうのです。顧問の先生方が全体を見て、生徒たちをアドバイスしながら先生も成長していく、そのように考えてみてはどうでしょうか?