木管楽器用のオイルにはどんなものがあるのかを引き続き、信木隆輝さんに解説していただきました。
─木管楽器用のオイルにはどんなものがありますか?
信木 キイオイルとボアオイルがあります。キイオイルはキイの動きを阻害しないために使うもので、ヤマハでは粘度の異なる「ライト」、「ミディアム」、「ヘヴィー」の3種類を用意しています。100%化学合成オイルです。この3種類をどのように使い分けるかというと、キイに掛けてあるバネの力の差によって分けています。「ライト」はピッコロやフルート、オーボエなどのように、キイの上げ下げに掛かる力が少ない楽器に使います。「ヘヴィー」だとサックスやファゴットなどバネの力が強いもの、そして「ミディアム」は中間のバネの強さでクラリネットなどが該当します。例えば、クラリネットに「ライト」や「ヘヴィー」のオイルを使っても問題はないのですが、抵抗感や吹奏感が変わります。ただ、初心者の方はその違いがわからないかもしれませんので、メーカー推奨の粘度のものを使うことをオススメします。
一方、ボアオイルは低温・乾燥時期に楽器の割れなどを防ぐために使います。割れのシステムというのがあって、管体の厚いクラリネットの場合、温かい人間の息を管体に入れると、温度・湿度が上昇することにより管体内側が膨張します。そして、空気に触れている管体の外側は伸縮とは言えないのですが変化なしの状態で、この管体の内側と外側の膨張差が大きくなればなるほど割れやすくなります。
そのため寒い時期に一番起こりやすいのです。ボアオイルは水分の浸透による変形やひび割れを防ぐために使うもので、木管楽器は木を削って作っています。木が元々持っている導管(主に水分の通り道)は、顕微鏡レベルで見るとむき出しになっていて、そこから水分が通ってしまいます。それによって木の内部に水分が入って膨張が起きるわけです。その導管をコーティング、目止めするためのものがボアオイルです。ボアオイルの使用上の注意点は、とても大量に使用する人がいるのですが、ほんの少し、目安としては2〜3滴で十分に足りますので、少量にしてください。
─芯金の部分など、自分でオイルを注すよりも技術者にお願いしたほうがいい部分はありますか?
信木 技術者としてお話するならば、木管楽器では、本当は自分で注してほしくないんです。なぜなら、木管楽器のキイの止め方は2種類あって、キイを支える柱のキイポスト1対間にあるキイのキイパイプ内を貫く「芯金」というもので組み込む方法と、同じくキイパイプ両端を「ピボットスクリュー」という小さなネジで組み込む方法です。自分で注して効力が出るのはピボットスクリューのみです。芯金を使ったキイでは、キイオイルを注すところは接合部の両端しかないのですが、そこにキイオイルを注したところで、その周辺にしかオイルは浸透しません。それでキイノイズなどがなくなれば奏者の方のお悩みは解決できるかもしれませんが、その楽器の持っているポテンシャルをフルに発揮しているとは言えません。フルに発揮させるためには、芯金の全面に均一にオイルをまわさないといけないので量が必要ですし、分解しなければ作業ができません。連結されているキイは、サックスなどですと、多いものでは4個も5個も連結されているため、芯金は長くなっています。芯金全体にオイルを行き渡さなければならないので、技術者が分解した上で適度な量を注して初めて意味のあるものになります。ですから、定期的に技術者の点検を受けていただければと思います。