代官山音楽院、管楽器リペア科で行なわれる実際の授業を追いながら、代官山音楽院管楽器リペア科主任講師の金澤恭悦先生にリペアの基本、そしてその技術が現場にどのように活かされているかを解説してもらうこのコーナー。今回からはいよいよタンポ交換。繊細な感覚が要求される作業を身につけていきます。
貝隠しができましたので、今回からはタンポ交換です。これがまた難しいんです。
メーカーやモデル、時代によってタンポの厚さや作り方が違いますし、タンポをつける接着剤も変わってきています。前回お話ししたようにシェラック(ラック)というカイガラムシの分泌物を使用していましたが、今では樹脂系の接着剤が主流になってきました。
しかしリペアマンはどちらの接着剤も扱えなければ仕事になりません。特にラックによる接着は基本です。タンポをタンポ皿に入れた時にタンポ皿とタンポ、トーンホールが平行になるようにラックの量を調整します。ここで極力無理の無いタンポ合わせをしないと、翌日になったらせっかく合わせたタンポが狂ってしまうということになってしまいます。
二度と狂わないタンポはありません。気候の変動によっても影響を受けますし、クローズのタンポとオープンのタンポでも変化の具合が違います。直接指で叩くタンポと、連動で動くタンポでも差がでます。さらに、右手で操作する長いネジ部分のキィやネジはバネの強さでしなりもでますので、調整する時点でこのことも計算に入れておかないといけません。タンポは中心に反射板(レソネーター、ブースター)がありますが、これはタンポの変化を抑えてくれるわけではありません。サクソフォンは他の木管楽器に比べてタンポが大きい分、タンポの変化の可能性も大きい楽器です。
こんなエピソードがあります。あるリペアマンは大変優秀な技術者でタンポ調整の名人ですが、お客様にも厳しい要求をします。全部のタンポを交換した楽器には1ヵ月後に再調整のための来店をお願いするのですが、もし1ヶ月以内に再調整に持っていかないともの凄く怒るらしいのです(笑)。どうして怒るのかというと、新しいタンポは1ヶ月もすると結構変化が起きるものです。そこで再調整を重ねることによって楽器の状態を安定させていく必要があるのです。
お客様のことを想えばこそのお叱りですね。