代官山音楽院、管楽器リペア科で行なわれる実際の授業を追いながら、代官山音楽院管楽器リペア科主任講師の金澤恭悦先生にリペアの基本、そしてその技術が現場にどのように活かされているかを解説してもらうこのコーナー。今回は前回に引き続き、楽器のすべてを左右するとも言われている最重要項目「タンポ交換について」です。
タンポ交換は、楽器の「気密が保たれなくなった状態」の時に行ないます。では、どういう時に“気密が保たれなくなるのか”というと、タンポ表面の皮が破れてしまったときが一つ。もう一つは楽器を長年使用した結果、タンポの皮の劣化、変化によってトーンホールをタンポが完全に塞ぎきれなくなったときです。
タンポのフェルトには2種類(圧縮フェルトと織りフェルト)が使用されています。サクソフォンのタンポには織りフェルトが使用されていていますので形は崩れにくいのですが、それでも長年吹いているとタンポは叩き続けられますので変化はします。それからタンポを覆っている皮は水分を吸うと弾力が無くなり、トーンホールを覆うための柔軟性が失われてしまいます。これにより気密性が低くなり息漏れの原因になるんですね。
タンポの皮で最適なのは子羊のものです。非常に皮が柔らかくて毛穴が細いので気密性を高めるには一番適しています(この材料は普通は入手できません。タンポのメーカーは気密をよくするためにいろいろ工夫をしています)。
気密性を高めるためのタンポ調整ですが、タンポとタンポ皿(キィカップ)の間には接着剤(シェラック)を充じゅうてん填させています。それをバーナーの炎で炙って溶かし、そしてタンポを合わせる。ところが冷却させると接着剤が縮み、タンポの皮が引っ張られるんです。ですからそこまで予測して調整しなければなりません。
また、サクソフォンの場合F キィ(右手の人指し指で押さえるキィ)があり、その上にF#、G#、B♭というキィがあります。実はこのFキィを押さえると、これらのすべてのキィが連動しています。サクソフォンのタンポ合わせというのはもちろん一個一個合わせますが、この「一個押したら4つ連結している」という連動キィのことまで考えながら調整しなくてはいけません。
タンポ合わせは第一に気密ありきです。気密を得るためにいろんな条件をひとつずつ潰しながら覚えていきます。修理という仕事は形の修復だけではありません。音楽家の音に対する感性を理解できる努力もしていかなければなりません。管楽器のカン(管)は感性のカン(感)でもあります(笑)。
12月6日(日)に金澤先生直伝のサックスメンテナンスセミナーが開催されます♪
詳しくは特設ページへアクセス!▶サックスメンテナンスセミナー